後部皮質萎縮による記憶障害は注意ネットワークの機能不全が根底にある
後部皮質萎縮という神経変性疾患があります。本日紹介する論文は、後部皮質萎縮の記憶障害は注意ネットワークの機能障害によって引き起っているのではないかという内容です。
タイトル:Attention network dysfunction underlies memory impairment in posterior cortical atrophy
著者:Michele Veldsmana, Giovanna Zamboni, Christopher Butler and Samrah Ahmed
ジャーナル情報:NeuroImage: Clinical 2019:22;101773
背景の紹介
後部皮質萎縮(posterior cortical atrophy: PCA)は記憶が損なわれている可能性が高いことを示唆しています。特にエピソード記憶の障害が著名であり、PCA患者の65%に記憶障害が出現します。後部頭頂皮質 (Posterior parietal cortex: PPC) はPCAの病理の重要な領域であり、アルツハイマー病の内側側頭葉依存性機能障害ではなく、頭頂部依存性ネットワーク機能の機能不全の可能性があります。PPCは注意、視空間、感覚運動に関連していますが、その領域をエピソード記憶に関連付けている多くの報告があります。
この点がわかっていない
しかし、PCAの記憶障害の神経メカニズムは明らかではありません。
この論文の目的
この研究ではPCAの記憶障害の神経認知メカニズムを調査することでした。
方法
・PCA患者18名と健常成人21名を対象とした。 |
・記憶の評価として、FCSRT-IR(選択的想起検査)という軽度認知障害のための心理検査を行いました。 |
・画像評価として安静時機能的結合を撮像しました。 |
・また、心理検査結果と背側注意経路およびデファルトモードネットワークの機能的結合の相関を調べました。 |
FCSRT-IR(選択的想起検査)とは
自由及び手掛りによる選択的想起検査は4 つの物品が描かれている4 枚の絵を用いる。まず、被験者に覚えてもらいたいのは16の品物の名前であることを話す。4つの物品が描かれている1 枚目のカードを被験者に見せて、4つの物品のカテゴリーを云っていき、被験者にはそのカテゴリーに相当する物品の名前をいってもらう。たとえば、4 つの物品の中にリンゴがあるとすると、検査者が果物といったら、被験者はリンゴを指さし、“リンゴ” という。答えられない場合は、その物品の名前を教える。検査者が4 つのカテゴリーを云うと4 つの物品の名前を言えるようになったら、次のカードの4 つの物品について上記の手続きを行い、それも出来たら、3 枚目のカードの4 つの物品、さらに、4 枚目のカードに進む。こうして、16 の物品について、カテゴリーを言うと、物品の名前を言 えるようになったら、20 秒間の干渉課題(95 か ら 3 を引いていく計算)を行う。 この後、自由再生、すなわち、16 の物品名を思い出してもらう。思い出せない場合は、その物品の名前のカテゴリーを教えて、物品名を思い出させる。それでも思い出せない場合は、カテゴリーを言うと共に、物品名を教える。その後、干渉課題を行い、2 回目の自由再生を行う。 この後、思い出せない場合は、その物品の名前のカテゴリーを教えて、物品名を思い出させる。それでも思い出せない場合は、カテゴリーを言うと共に、物品名を教える。その後、干渉課題を行い、3 回目の自由再生を行う。
結果
・記憶課題では、即時記憶は患者と健常者間で有意差は認められなかった。しかし、自由想起では患者は健常者と比較して有意にパフォーマンスが低かった(図1)。 |
・患者の背側注意経路の低結合性のピーク領域はFCSRT-IRの自由想起および合計想起パフォーマンスと相関が認められた(表および図2の左)。一方でデファルトモードネットワークの低結合性のピーク領域はFCSRT-IRのどの段階とも有意な相関は認められなかった(表および図2の右)。 |


まとめ
記憶障害は、古典的な内側側頭葉の記憶回路ではなく、PCAの病理の重要な領域である背側後頭頂皮質によって支えられている背側注意ネットワークの混乱から生じる可能性があると示唆しています。