プリズム療法はデフォルトモードネットワークと注意経路の機能的結合の低下を増加させる
本日は半側空間無視などのリハビリテーションで使用されるプリズム療法が注意経路やデフォルトモードネットワークへの影響やそれらのネットワーク間への影響を安静時機能的結合を用いて調べた研究を紹介します。
タイトル:Prism adaptation enhances decoupling between the default mode network and the attentional networks |
著者:Meytal Wilfa, Andrea Serino, Stephanie Clarke and Sonia Crottaz-Herbette ジャーナル情報:NeuroImage 2019:200;210-220 |
ジャーナル情報:NeuroImage 2019:200;210-220 |
背景の紹介
プリズム適応は、健常者の視運動可塑性の研究や患者の空間的無視の緩和に使用されます。プリズム適応は視覚情報の横方向の偏移を誘発するプリズムレンズを着用しながら、目標指向の動きを実行することによって達成されます。これは、感覚運動座標の再構成によって保証される初期運動誤差をもたらします。その結果、感覚運動の両方に横方向の偏りがプリズムレンズを外した後に発生します。これをafter effectを言います。右プリズムシフトが下頭頂小葉の活性化を促し、注意課題中の半球間のバランスを調整することが明らかになっています。
わかっていない点
プリズム適応が皮質ネットワーク間の相互作用をどのように変化させるかは明らかになっていません。
この論文の目的
プリズム適応前後で安静時機能的結合のパターンを調べています。
方法
・右シフトプリズム群(N=14)とコントロール群(N=12)の2群に分けた(図1)。 |
・プリズムメガネは右に10°シフトしたレンズを使用した。 |
・両群ともにfMRI前後で3分間のポインティング課題を施行した。 |

結果
・左下頭頂小葉のROI(Regions of interest:わかりやすく言えばその領域を中心として見た場合に他の領域との関係性はどうかを見ている)は、プリズム前はデフォルトモードネットワークとの結合が認められました。また、ICA(Independent component analysis:わかりやすく言えば独立したネットワークを見つける解析方法)をした場合は、下頭頂小葉はデファルトモードネットワークの一部であることがわかりました。そして、プリズム後に下頭頂小葉の結合の変化を調べたところ、デフォルトモードネットワーク内の一部である下前頭回、腹側注意経路の一部である左前頭皮質、右上側頭回の結合が減少していました(図2)。 |
・同様に左内側前頭前野のROIは、プリズム前は他のデフォルトモードネットワーク内の領域と高い相関がありました。しかし、プリズム後は減少しました。それらは背側注意経路の左頭頂葉と前頭葉、腹側注意経路の一部である、左前島皮質が含まれていました(図3)。 |
・次に腹側注意経路の一部である左前島皮質にROIを設定しました。プリズム前では腹側注意経路のほとんどの領域、つまり両上側頭回、両前島皮質、両側前帯状回と機能的結合していることがわかりました。しかし、プリズム後は左前島皮質はこれらの領域との機能的結合が減少しました(図4)。 |



まとめ
・この研究はプリズム適応によってネットワーク内、例えば、注意経路(ネットワーク)やデファルトモードネットワーク内の機能的結合の変化だけでなく、注意経路とデファルトモードネットワーク間の結合性の低下を強化することがわかった論文です。 |
・注意経路とデフォルトモードネットワークは通常は無相関であることが先行研究からわかっています。プリズム療法によってさらにこれらのネットワーク間の結合の低下を引き起こす事がわかりました。注意経路は目標指向行動のための外部環境の刺激に注意を向けるなどの外部刺激によって活動するのに対して、デフォルトモードネットワークは安静時に活動するネットワークであり、被験者が「行動をとる」と非活性化してしまいます。 |
・この注意経路とデフォルトモードネットワーク間の結合の変化は半側空間無視のリハビリテーションの神経機構の理解に重要です。半側空間無視の最近の先行研究では、各半球内の背側注意経路とデフォルトモードネットワークの結合の低下と無視症状の行動の回復は正の相関があることが報告されています。したがって、プリズム療法によるリハビリテーションの神経機構の1つは、注意経路とデフォルトモードネットワーク間の結合の低下の強化にある可能性があります。 |