医療従事者・研究者用ノート

側頭-頭頂接合部と後部上側頭構の機能

本日の論文(レビュー)は、側頭-頭頂接合部(Temporal-parietal junction:TPJ)後部上側頭構 (posterior superior parietal sulcus:pSTS)のさまざまな機能の紹介です。多くの教科書では、これらのTPJやSTSの領域は右半球は社会性や空間認知、左半球は言語中枢と記載されており、さまざまな研究論文では、社会性の研究でも空間認知の研究でも右TPJやSTSが関係していると報告されており、解剖学的に詳細に記載してある論文が少ないのが現状です。本日、紹介する論文は右半球のTPJとSTSを詳細に分けてどの領域がどの機能に関係しているかを示した論文です。

タイトル:The evolution of the temporoparietal junction and posterior superior temporal sulcus.

著者:Gaurav H. Patela,b, Carlo Sestieri and Maurizio Corbetta

ジャーナル情報:Cortex 2019:118;38-50

背景の紹介

ヒトは他の動物と比べると複雑な社会的状況に対応しながら生活しています。TPJ-pSTSは社会性に関係している領域であると多くの論文で報告されており、ヒトとサルのこれらの領域の解剖学と機能を比較すると、ヒトはこれらの領域を拡大することで背側と腹側の処理経路の構造が変化してきたことがわかっています。また、TPJ-pSTSは顔の感情処理、注意、心の動作の理論、および記憶に関連する領域が含まれています。この論文では以下の2つについて詳しく説明されています。

・TPJ-pSTSのどの領域がどの機能と関係しているのか
・TPJ-pSTS領域が、ヒトの社会性についての複数のネットワークを調節するハブとして相互作用するモデルについて

TPJ-pSTSのどの領域がどの機能と関係しているのか

まずは、TPJ-pSTSの解剖学的所見から説明していきます(図1)。

TPJ-pSTSの後方にはmiddle temporal(MT野)やmiddle superior temporal(MST野)のような高次視覚野があります。MT野とMST野は運動視に関係しています。前方にはシルビウス溝があり、前下方には聴覚野があります。そして上方には頭頂間構の一部である背側と腹側LIP野があります。

TPJもTPJの後方(TPJp)、前方(TPJa)と解剖学的に分かれており、外側の下頭頂小葉(latIPS)はTPJ-pSTSの一部に含まれると報告されています。

図1:TPJ-pSTSの解剖学的所見

次に各領域の機能について説明していきます。

TPJp:他人の精神的理解に関係している。
TPJa:注意の切り替えに関係している。
pSTS:顔の認識に関係している。
latIPL:記憶の維持や知覚、注意に関係している。

しかし、これらの領域は1つ1つ単独で各機能を担っているのではなく、TPJ-pSTSとして、社会性の機能を担っており、複数のネットワークを調節するハブとして作用していると報告されています(図2)。

図2:TPJ-pSTSのハブとしての機能

TPJ-pSTS領域が、ヒトの社会性についての複数のネットワークを調節するハブとして相互作用するモデル

TPJ-pSTSは外部から得た情報(感覚情報)を内部的に生成された社会的要因のモデルと統合します(図2)。例えば、後部STSを介してさまざまな皮質領域および他の生体運動信号(目や体)から顔の感情に関する情報、後部TPJを介して他人の精神状態、前部TPJを介して注意、外側IPSを介して過去の経験(記憶)の情報を受け取ります。そして、TPJ-pSTSはトップダウンおよびボトムアップ処理過程のハブとして機能し、周囲の社会環境への適応や社会的手がかりの検出(空気を読むや相手の意図・気持ちがわかるなど)する機能があると考えられています。

TPJ-pSTSの情報処理過程をわかりやすくしたモデルが図3になります。

図3:TPJ-pSTSの情報処理過程モデル

例えば、自分が上司2人と話している場面を想像して下さい。

まず、上司の顔が視覚情報として入ってきます。図のオレンジのMT野(V5野:運動視)や赤のFFA(紡錘状回:顔認識)からpSTSにその情報が送られます(1)。

pSTSでは、上司がどのような表情をしているかを判断します。そして、その情報はTPJpに送られます(2)。ここでは、上司の顔の表情が怒っているのか、笑っているのか、その上司の精神的状況を判断します。

次にlatIPSに情報が送られます(3)。ここでは現在の上司の表情と過去の上司の表情を照合します。そして、latIPSはその情報をTPJpに返すと同時にPost AG(後部角回:記憶の連想)に情報が送られ(4a)、過去の記憶が回想されます。(例えば、現在、怒られている状況であれば過去にその上司に怒られた状況が想起されること。)

また、それと同時にIPS(下頭頂小葉)に送られ(4b)、その上司の話を聞き続けるという持続的注意が働きます。このIPS-FEFは背側注意経路と呼ばれ、持続的注意に関連しています。

次にPost AGからTPJpに情報が送られ(5)、その情報はmPFC(内側前頭前野)に送られて、自分が今どういう行動をとらなければいけないかを前頭葉部分(この部分も複雑)で判断し、行動に移すということになります。

そして、上司2人と話しており、もう1人が話し出したとします。そうすると、さっきまで話していた上司から今話している上司に注意を切り替える必要があります。

この経路は、TPJpからTPJaに情報が送られます(6)。そして、TPJaは現在話している上司へと注意を切り替えるようにPFC(前頭前皮質)に情報を送り(7)、注意の切り替えが行われます。このTPJa-PFC(厳密に言うと中前頭回(MFG)や下前頭回(IFG))は腹側注意経路と呼ばれており、注意の切り替えに関連しています。

このように、私たちは上司や友人と話をする。他の人と話をするときは脳のさまざまな領域を活動させ、最終的に自分がどのような行動や発言をする必要があるかを判断しています。

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

コメント

下野秀幸
2019年11月2日 @ 6:18 AM

凄いですねー、読み切れ無いので,小出しにしてねー



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です