知識まとめノート

半側空間無視の神経機構

前回は半側空間無視とは何か、について記載しました。 本日は、半側空間無視の神経機構についてまとめたいと思います。

下記よりさらに詳しい説明はこちら↓

https://note.com/kengo_brain_note/n/nd336f1182aef

まず、半側空間無視の神経機構について述べる前に注意経路について説明したいと思います。この経路について説明しないと半側空間無視の神経機構は語れないのが現状です。

注意経路

注意経路は主に2つの経路が存在します1)(図1)。

背側注意経路腹側注意経路です。

図1:2つの注意経路

背側注意経路(図1の左)は頭頂間構(IPS)、上頭頂小葉(SPL)と前頭眼野(FEF)から構成される経路です。頭頂間構、上頭頂小葉と前頭眼野は上縦束Ⅱで繋がっています2)(図2左)。この経路は、持続的注意、選択的注意とトップダウン的注意に関係しています1)。

腹側注意経路は(図1の右)は上側頭回(STG)、側頭-頭頂接合部(TPJ)(今回の図には書いてありませんが含まれます)、下前頭回(IFG)と中前頭回(MFG)(今回の図には書いてありませんが含まれます)から構成される経路です。上側頭回、側頭-頭頂接合部と下前頭回(IFG)、中前頭回は弓状束(図2の右)で繋がっています3)。この経路は、注意の切り替えとボトムアップ的注意に関係しています1)。

図2:注意に関係する線維束

半側空間無視はこの2つの経路が大きく関係しています。

では、ここから半側空間無視の神経機構について記載してきます。

神経機構の歴史

半側空間無視の原因部位は過去の先行研究でさまざまな報告があります。

1990年代から2000年初めには、視覚情報処理に関係している頭頂間構や下頭頂小葉、右側頭-頭頂接合部4)や右上側頭回5)のような視覚や多感覚情報を統合するような領域の損傷により、半側空間無視が出現すると報告されていました。

一方で、上記のような領域ではなく頭頂連合野と前頭連合野を繋ぐ線維の損傷、つまり上縦束Ⅱ6)(図2の左)のような線維束の損傷が原因という報告もあります(図3)。

図3:半側空間無視の原因部位

このように過去から現在まで、上記で述べたこと以外にも半側空間無視の原因部位についてさまざまな報告があります。

では、なぜこのように原因部位についてさまざまな報告があるのでしょうか?

大きな要因は、上記で述べた領域や線維束を損傷すると半側空間無視が出現するということです。そして、MRIや脳波などの解析技術の発展などによってより細部まで原因部位を追求できるようになったことでさまざまな報告があると私は考えています。

最も有力な神経機構

そして、最近(2011年から現在)ではある領域1つが原因部位ではなく注意に関連する領域間の失調、すなわち、注意に関連した領域と領域の情報伝達が上手くできないネットワークの失調であることが報告されています7)。

このネットワークが腹側注意経路です。

腹側注意経路が損傷することで同側の背側注意経路の機能的結合は低下し、対側の背側注意経路の機能的活動が増加します。これにより、左右半球間の不均衡が生じることで注意が右に偏移すると報告されています。この対側半球が代償的に活動することで、右空間への注意を助長していると考えられます(図4)。

図4:最も有力な半側空間無視の神経機構

また、図5は複数の半側空間無視患者でどの領域が一番損傷されていたかを示した研究です。多くは側頭-頭頂接合部や上側頭回といった腹側注意経路の一部に損傷があることがわかっています8)。

図5:複数の半側空間無視患者でどの領域が一番損傷されていたかを示した研究

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Youtubeでもスライド形式で解説していますので、よろしければこちらも ご覧ください。

参考文献

1) Corbetta M and Shulman G.L. Spatial Neglect and Attention Networks. Neuroscience. 2011:34;569-99
2) Schotten M, Dell’Acqua F, Forkel S.J, Simmons A, Vergani F, Murphy D, GM and Catanil M. A Lateralized Brain Network for Visuospatial Attention Supplementary Methods and Results. Nature Neuroscience. 2011: 14; 1245-1247
3) Schotten M, Dell’Acqua F, Valabregue R and Catanil M. Monkey to human comparative anatomy of the frontal lobe association tracts. Cortex. 2012: 48(1); 82-96
4) Driver J, et al: Parietal neglect and visual awareness. Nature Neuroscience. 1998:1;17-22
5) Karnath HO, et al: Spatial awareness is a function of the temporal not the posterior parietal lobe. Nature. 2001:411;950-3
6) Doricchi F, et al: The anatomy of neglect without hemianopia: a key role for parietal-frontal disconnection? Neuroreport. 2003;14:2239-43
7) Corbetta M, et al: Control of goal-directed and stimulus-driven attention in the brain. Nature Review Neuroscience.2002:3;201-15
8) He, et al: Breakdown of functional connectivity in frontoparietal networks underlies behavioral deficits in spatial neglect. Neuron. 2007:6;905-18

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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