医療従事者・研究者用ノート / 一般向けノート

産後女性の認知機能低下について

産後で有名な疾患と言えば、「産後うつ」ですが、その他にも記憶力や集中力の低下、注意散漫などの認知面においてもさまざまな問題が起こることが報告されています1,2,3)

これの原因は、睡眠不足、海馬容量の減少、ホルモンの変化、食事の変化、心理的変化などと言われていますが、その詳細はまだわかっていません。

今回紹介する論文は、安静時機能的磁気共鳴画像法を用いて、自発的神経活動と認知障害の関係を明らかにした論文です。

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タイトル:Disrupted Spontaneous Neural Activity Related to Cognitive Impairment in Postpartum Women.
著者:Zheng JX, Chen YC, Chen H, Jiang L, Bo F, Feng Y, Tang WW ,Yin X and Gu JP
雑誌:Front Psychol. 2018:3(9);624

背景の紹介

産後は多くの身体的および環境的変化を経験することで、うつ病や不安障害などの情動障害の悪化を発症するリスクがあると多くの報告があります。一方で、産後は記憶力や集中力の低下、注意散漫などの認知障害を引き起こす可能性もあることが報告されていますが、情動障害のない産後の女性の認知機能と行動との関係を明らかにした研究はほとんどありません。さらに、産後の認知障害の神経学的メカニズムはほとんど知られていません。

本研究の目的

本研究は、安静時機能的磁気共鳴画像法を用いて、うつ病や不安症状がない産後の女性の自発的神経活動と認知機能低下の関係を明らかにすることです。

被験者

・未産女性23名、産後3か月以内の女性23名の合計46名とした。

・産後の女性は、健康な乳児を出産し、妊娠中または出産中に高血圧、糖尿病、心疾患などの合併症がなかった女性であった。

・乳児は8人が男の子、12人が女の子、2人が双子(1人は男の子の双子、1人は女の子の双子)であった。

・被験者全員が自己評価式抑うつ性尺度と自己評価不安尺度を行い、うつ病および不安障害がないことを確認した。

安静時機能的磁気共鳴画像

・3.0テスラのMRI装置を用いて、被験者の安静状態の脳活動を撮像した。

・局所自発的脳活動の強度を調べるために、安静時fMRI信号の低周波帯域(0.01~0.1Hz)の振幅を算出した(Amplitude of Low Frequency Fluctuation:ALFF)。

・さらに、隣接するボクセルとの同調の程度を定量化するためRegional Homogeneity (ReHo)を算出した。

結果

乳児の性別差

乳児の性別によって、妊娠中の女性の認知変化に変化があると報告されていることから4)、男の子を出産した女性と女の子を出産した女性の脳の構造的および機能的変化を調べました。その結果、構造的および機能的には有意な差は認められませんでした。

認知機能

未産女性と比較して、産後女性は意味流暢性課題(Category Fluency Test:CFT)の長期意味記憶課題の点数と時計描画検査(Clock Drawing Test:CDT)が有意に低いことがわかりました。

CFTは側頭葉の働きが重要であると報告されています5)

CDTは数字と針のある時計の絵を描く検査で、円の大きさ、数字の配置、針の位置、中心点の位置の描き方から、脳の中の側頭葉(意味記憶)、前頭葉(実行機能)、頭頂葉(視空間認知)の機能を反映しているとされています。

脳の構造の変化

未産女性と産後女性の脳の構造に変化は認められませんでした。

ALFFとReHo

図1は、未産女性と産後女性の標準化されたAFLL(図1 A)とReHo(図1 B)のヒートマップを示しています。ALFFとReHoの値は、主に後部帯状皮質、上前頭回、中前頭回、下頭頂葉、および小脳での一般的な平均値よりも有意に大きかった。

図1:未産女性と産後女性のAFLLとReHoのヒートマップ

図2は未産女性と産後女性でALFFとReHoの比較を示しています。産後女性は未産女性と比較して、左後部帯状皮質、右上前頭回、および両側中前頭回のALFF値が有意に低かったが、左小脳後葉のALFF値は増加していることがわかりました(図2A)。産後女性は未産女性と比較して、左後部帯状皮質、右上前頭回、および右中前頭回のReHo値が有意に低かったが、有意な増加は観察されませんでした(図2B)。

図2:未産女性と産後女性のALFFとReHoの比較

認知機能と脳活動との相関

産後女性の意味流暢性課題の結果と後部帯状皮質のALFFとReHo値との間に正の相関関係が認められました(図3A,B)。また、時計描画検査の結果と右上前頭回のALFFとReHo値との間に正の相関関係が認められました(図3C,D)。

認知課題の結果とALFFとReHo値との相関

これらの結果から何が言えるのか?

・AFLLおよびReHoの測定は、さまざまな精神神経疾患や認知関連疾患の病因を調べるために広く使用されています。今回の産後女性では、後部帯状皮質と前頭前野に活動の低下が認められました。これらの領域の活動の低下は、アルツハイマー病、健忘性軽度認知障害、アルツハイマー病などの疾患にも認められます。産後女性の一時的な認知機能低下は、これらの疾患と同様のメカニズムで生じている可能性も考えられます。

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・産後女性では後部帯状皮質のAFLLとReHo値と意味流暢性課題の数値に正の相関が認められました。後部帯状皮質の機能は、視覚空間記憶や感情的および非感情的な情報の処理を含む多くの認知機能に関与しています6)。さらに、意味流暢性課題には視空間記憶と視空間に認識する能力を評価する課題でもあります7)。そのため、PCC活動の低下とCFT遅延スコアの低下との相関関係は、産後女性の視空間記憶の低下を示している可能性があります。

・また、後部帯状皮質は社会的認知における役割もあります。しかし、産後女性はこれらの社会性に関連した領域の活動を低下させ、他の人よりも乳児に対する責任に重点を置くことで乳児の意図について第一に考えることを優先している可能性も考えられます。これらの後部帯状皮質を含む脳活動の変化はホルモンの影響の可能性が考えられます8)

前頭前野は、主に実行機能と認知機能に関与しています。この研究では、産後女性の前頭前野の活動低下と時計描画検査の認知機能低下と関連していました。これは実行能力および視空間処理の機能低下を示していることになります。fMRIを使用した研究では、健康な女性の最初の産後週は、課題中の前頭前野の脳活動が減少することが示されました9)。この研究から、前頭前野の自発活動の低下が産後の認知機能低下、特に実行機能の低下を引き起こす可能性があることが明らかになりました。

産後うつや今回紹介した認知機能の低下はすべての産後女性に起こるものではありません。しかし、産後はうつ病の可能性だけでなく、記憶力や集中力の低下、注意散漫などの認知機能の低下も起こる可能性があることを理解し、周囲もそれらを理解し助け合いが必要ではないかと思います

参考文献

  1. Mazor E, Sheiner E, Wainstock T, Attias M and Walfisch A. The Association between Depressive State and Maternal Cognitive Function in Postpartum Women. American Journal of Perinatology. 2019:36;285-290.
  2. Albin-Brooks, C., Nealer, C., Sabihi, S., Haim, A., and Leuner, B. The influence of offspring, parity, and oxytocin on cognitive flexibility during the postpartum period. Horm. Behav. 2017:89;130–136.
  3. Albin-Brooks, C., Nealer, C., Sabihi, S., Haim, A., and Leuner, B. (2017). The influence of offspring, parity, and oxytocin on cognitive flexibility during the postpartum period. Horm. Behav. 2017:89; 130–136.
  4. Vanston, C. M., and Watson, N. V. Selective and persistent effect of foetal sex on cognition in pregnant women. Neuroreport. 2005:16;779–782.
  5. Baldo, J. V., Schwartz, S., Wilkins, D., et al. Role of frontal versus temporal cortex in verbal fluency as revealed by voxel─based lesion symptom mapping. J. Int. Neuropsychol. Soc. 2006:12;896-900.
  6. Sestieri, C., Shulman, G. L., and Corbetta, M. The contribution of the human posterior parietal cortex to episodic memory. Nat. Rev. Neurosci. 2017:18;183–192.
  7. Shin,M.-S.,Park,S.-Y.,Park,S.-R.,Seol,S.-H.,andKwon,J.S.Clinical and empirical applications of the Rey-Osterrieth complex figure test.Nat.Protoc.2006:1;892–899.
  8. Esscher, A., Essén, B., Innala, E., Papadopoulos, F. C., Skalkidou, A., SundströmPoromaa, I., et al. Suicides during pregnancy and 1 year postpartum in Sweden, 1980–2007. Br. J. Psychiatry. 2016:208;462–469.
  9. Bannbers, E., Gingnell, M., Engman, J., Morell, A., Sylvén, S., Skalkidou, A., et al. Prefrontal activity during response inhibition decreases over time in thepostpartumperiod.Behav.BrainRes. 2013:241;132–138.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

コメント

鈴木 愛
2019年11月22日 @ 11:33 PM

いつも拝見してます、ユマニテクの5期生になります。産前産後の女性のケアに関わりたくて勉強中です。実際、二人出産して記憶、注意に関しての低下を著しく感じてます。病院の主任業務をしてましたが、復帰後同等の仕事を遂行することが完全に無理でした。現在でもそうです…働きながら頭の片隅では、今日の夕飯はどうしようかな、買い出しもせな、子供たち迎えたらそのまま受診行かなきゃ…と常に頭の中が容量いっぱいでキャパオーバーです。皆さんがそうではないと思うんですが、私は荷の重い役職の仕事は自ら降り管理から外してもらいました…でも、そうして良かったと思ってますが、本気で周りの理解も頂きたいので何らか形でシェアしたいです。興味深く有難いメモありがとうございます♬



    kengo48
    2019年11月23日 @ 12:17 AM

    鈴木様
    いつも拝見していただきまして、誠にありがとうございます。
    ここにも記載しましたが「産後うつ」は有名ですが、記憶や注意などの認知機能が産後で低下するという事実はあまり知られていないと感じます。「産後うつ」も一見そうですが、特に記憶や注意の低下は外見ではわからないことですので、周囲はそれらを理解していく必要があるように感じています。鈴木様のように、産前産後の女性のケアに関わられる方に是非、これらの情報を提供していただけますと幸いです。もし、今回の情報の他に産前産後のケアで何か情報が必要でしたら調べますので、何なりとお申し付けください。



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