一般向けノート

親の収入と子供の精神疾患発症リスクとの関係

子供を持つ親であれば、ほとんどの親は子供が健康に育ち、幸せになってほしいと願うものです。しかし、親の学歴(教育レベル)や社会的地位(年収など)によって子供が精神疾患になるリスクもあることが明らかにされている事も事実です。

今回紹介する論文は、親の社会的地位(収入)と子供の統合失調症発症リスクとの関連についての論文です。

タイトル:Association Between Parental Income During Childhood and Risk of Schizophrenia Later in Life.
著者:Hakulinen C, Webb RT, Pedersen CB, Agerbo E, Mok PLH
雑誌:JAMA Psychiatry. 2019:1-8

論文の背景

社会経済的リスクは、子供のうつ病や不安障害などの精神疾患に関連していると報告されています。例えば、親の収入1,2,3)や親の失業4,5)、が子供の精神疾患発症のリスクが高いことが明らかにされています。さらに、親の教育レベルが高いことは子供の統合失調症のリスクが増加または低下することの両方に関連すると報告されています2)。しかし、子供の年齢とその時の親の収入が、その後の子供の統合失調症発症リスクについては明らかにされていません。

本研究の目的

子供の年齢とその時の親の収入が、子供の統合失調症リスクの関連を明らかにすることです。

統合失調症とは

教科書レベルで簡単に説明します。

統合失調症とは、思考や行動、感情がまとまりにくくなり、認知、情動、意欲、行動、自我意識などの多彩な精神機能の障害が見られる。

統合失調症の症状

陽性症状と陰性症状がある。

陽性症状:多くは急性期に生じる。妄想や幻覚などが特徴。

陰性症状:エネルギーの低下から起こる症状で消耗期に生じる。無表情、感情的アパシー、活動低下、会話の純化、社会的ひきこもり、自傷行為などが特徴。

統合失調症の経過

・前駆期:妙に体辺が騒がしくなる、眠れない、音に敏感

・急性期:症状が激しい時期。不安・不眠・幻聴・妄想

・消耗期:元気がなくなる時期。眠気が強い・体がだるい・ひきこもり・意欲がない・やる気が出ない・自信が持てない

・回復期:ゆとりが出てくる・周囲への関心が増える

統合失調症の原因

多くの研究報告があるが、発症メカニズムは不明。

根本的な原因は不明であるが、遺伝要素が大きいと報告されている6)。双子を用いた研究では、一方が統合失調症になると81%の確立でもう一方が統合失調症になることが明らかになっている。

統合失調症の治療

・薬物療法

・食事と運動療法

・心理社会的介入

方法

・1980年1月1日から2000年12月31日までにデンマークで生まれたすべての子供が対象で、そのうち、両親はデンマークで生まれで、その子供が15歳の誕生日の時点でデンマークに住んでいる家庭を対象として追跡した。

・子供の出生時(0歳)、5歳、10歳、15歳のときの両親の合計収入を親の収入として計算し、収入によって5つのランク(Q1-Q5)に分類されました。Q1は最も低収入、Q5は最も高収入とした(Q1やQ5がどれくらいの年収レベルかはわかりません)。

・15歳以降で統合失調症発症の有無を調べた。

結果

・被験者は1051033人で、そのうち539596人(51.3%)が男性でした。このうち、統合失調症と診断されたのは、7544人(0.72%)でした。

・図1は15歳時の親の収入に応じて、15歳から37歳の間に統合失調症を発症するリスクを表したものです。15歳の時点で、親の収入レベルが低いほど、統合失調症のリスクは大きくなることがわかりました。例えば、15歳のときに親の収入が最も低いQ1であった場合は統合失調症と診断されるリスクは2.7%であったのに対して、最も高いQ5であった場合は0.9%でした。

図1:15歳時の親の年収の違いがその後に統合失調症を発症するリスク

・図2は出生時から15歳までの親の所得の変化による統合失調症発症リスクを示しています。図の縦軸が統合失調症発症リスク、横軸が出生時の親の収入から15歳時の親の年収を示しています。

図2: 出生時から15歳までの親の所得の変化による統合失調症発症リスク

15歳で親の収入がQ5(最も裕福)と比較して、他の収入レベルは統合失調症のリスクが高いことがわかりました。しかし、出生時の親の収入レベルに関わらず、15歳で出生時よりも収入が上がっていれば発症のリスクは低くなることがわかりました。

出生時に親の収入がQ1(最も貧困)であり、15歳でもQ1であれば、統合失調症の発症リスクは最も高いことがわかりました。

また、出生時の親の収入レベルが15歳時の収入レベルよりも下がれば、統合失調症の発症リスクは上がることがわかりました。

すなわち、親の収入レベルが子供の年齢に合わせて高くなれば、統合失調症の発症リスクは低くなり、逆に親の収入レベルが出生時よりも15歳で低くければ、統合失調症の発症リスクは高くなる。さらに、出生時から15歳まで最も貧困レベルである場合も統合失調症の発症リスクは高くなるということです。

なぜ、出生時から低所得または途中で低所得になると統合失調症発症のリスクが高まるのでしょうか?

一番は身体的および心理学的負担が大きくなります。小児期または成人期の持続的な低所得は身体的および心理学的に悪化することと関連していたと報告されています7,8)

収入が低いことや失業などにより収入が低下したことにより、統合失調症や他の精神疾患を発症するリスクは高くなりますが、必ずではありません。精神疾患のリスクが高くなる可能性があることを理解することで事前対応が可能であり、発症のリスクを予防する事ができます。

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参考文献

  1. Castle DJ, Scott K, Wessely S, Murray RM. Does social deprivation during gestation and early life predispose to later schizophrenia? Soc Psychiatry Psychiatr Epidemiol.1993:28(1);1-4.
  2. Werner S, Malaspina D, Rabinowitz J. Socioeconomic status at birth is associated with risk of schizophrenia: population-based multilevel study. Schizophr Bull. 2007:33(6);1373-1378.
  3. Corcoran C, Perrin M, Harlap S, et al. Effect of socioeconomic status and parents’ education at birth on risk of schizophrenia in offspring. Soc PsychiatryPsychiatr Epidemiol. 2009:44(4);265-271.
  4. Corcoran C, Perrin M, Harlap S, et al. Effect of socioeconomic status and parents’ education at birth on risk of schizophrenia in offspring. Soc PsychiatryPsychiatr Epidemiol. 2009:44(4);265-271.
  5. Byrne M, Agerbo E, EatonWW, Mortensen PB. Parental socio-economic status and risk of first admission with schizophrenia: a Danish national register based study. Soc PsychiatryPsychiatr Epidemiol. 2004:39(2);87-96
  6. Sullivan et al . Schizophrenia as a complex trait: evidence from a meta-analysis of twin studies. Archives of general psychiatry. 2003: 60 (12); 1187.
  7. Lynch JW, Kaplan GA, Shema SJ. Cumulative impact of sustained economic hardship on physical, cognitive, psychological, and social functioning. N Engl J Med. 1997:37(26);1889-1895.
  8. Mok PLH, Antonsen S, Pedersen CB, et al. Family income inequalities and trajectories through childhood and self-harm and violence in young adults: a population-based, nested case-control study. Lancet Public Health. 2018:3(10);e498-e507

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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