医療従事者・研究者用ノート / 一般向けノート

携帯(スマホ)依存症の脳の形態学的変化

現在、総務省の調査(2017年)によると日本でスマートフォンの所有率は75.1%、モバイル端末(携帯電話(ガラケー)、スマートフォン、タブレット型端末などの電子機器)の所有率は94.8%であると報告されています。また、FacebookやInstagramなどのSNSも趣味での投稿だけでなく、ビジネスにも多く取り入れられています。これらはスマートフォンやパソコン1つで行うことが可能で便利な一方、依存症というデメリットも存在します。例えば、SNSを更新すると「いいね」がどれくらいの数集まるかが気になり、頻繁にチェックしてしまうなど、こういう傾向がある人はもしかすると携帯電話依存症またはその予備軍である可能性もあります。この携帯電話依存症は脳にどのような影響があるのでしょうか?

今回は携帯電話依存症が脳にどのような変化があるかを調べた研究を紹介します。

タイトル:Altered Gray Matter Volume and White Matter Integrity in College Students with Mobile Phone Dependence.

著者:Yongming Wang, Zhiling Zou, Hongwen Song, Xiaodan Xu, Huijun Wang, Federico d’Oleire Uquillas, and Xiting Huang.

雑誌:Frontiers in Psychology. 2016:7;1-10

研究の背景

時代の進歩とともに普及・発達している携帯電話(スマートフォン)は、特に若い成人のほとんどが所有しており、現代の生活には欠かせないものとなっています。これらは、楽しさ、リラクゼーション、趣味だけでなくビジネスにも幅広く利用されており、対人関係を確立および維持するために非常に効果的な手段でもあります。

一方で、携帯電話の過度の使用は行動依存症と見なすこともできます1)。他の依存症として挙げられるのは、タバコ、アルコール、ギャンブル、薬物であり携帯依存症もこれらの依存症と多くの共通の特徴があると報告されています1)。依存症の特徴として、他人との関わりの減少、幸福感の減少、ある行動に対する制御困難などが挙げられます2)。また、携帯依存症の人は、携帯がないと不快でイライラすることがあり、不安を感じることがあります3)。しかし、携帯依存症の詳細な神経メカニズムおよび脳の形態学的変化は明らかではありません。

本研究の目的

携帯依存症の大学生の脳の形態学的変化を明らかにすることです。

方法

被験者

・携帯電話中毒指数(MPAI)4)(表1※)が51点以上を携帯電話依存症5)として分類し、34名(女性21名、年齢18~27歳)の携帯電話依存症群と34名(女性21名、年齢18~27歳)の非携帯電話依存症群に分けた。

表1:携帯電話中毒指数(MPAI)

※:携帯電話中毒指数は私が先行研究を参考にして独自に日本語訳をしたもので、公式のものではありません。

MRI

3.0テスラのMRI装置を用いて、構造画像および拡散テンソル画像を撮像した。

結果

・携帯電話委依存症群の携帯電話中毒指数(MPAI)は平均57.21点、非携帯電話委依存症群は39.41点と携帯電話委依存症群は非携帯電話委依存症群と比較して点数が有意に高かった。

・携帯電話委依存症群の灰白質体積比は非携帯電話委依存症群と比較して、右上前頭回、右下前頭回、両内側前頭回、右中後頭回、左前帯状皮質、両視床が有意に減少していました(図1)。

図1:携帯電話委依存症群と非携帯電話委依存症群の灰白質体積比の比較

・携帯電話依存症群の右上前頭回、右下前頭回、両視床の体積比と携帯電話中毒指数(MPAI)との間に負の相関が認められました(図2)。

図2:灰白質体積比と携帯電話中毒指数との相関関係

・拡散テンソル画像では、携帯電話委依存症群の海馬-帯状束線維のFractional Anisotropy(FA値:異方性比率)が有意に減少した(図3)。

図3:拡散テンソル画像

まとめ

・他の依存症、例えば、薬物やギャンブル依存症患者はこれらの脳領域の体積が減少すると言われています。そのため、携帯電話依存症は他の依存症と同じような脳の形態変化があることがわかりました。

・上前頭回は、抑制の制御、意思決定、作業記憶、右下前頭回は注意や感情処理、抑制の制御および前頭-基底核回路の制御に関係していると報告されています。また、視床は報酬、注意、感情、記憶および実行機能に関連していると報告されています。これらの領域の体積が減少することは日常生活においてさまざまな支障が出る可能性が考えられます。

・海馬-帯状束線維は感覚、認知および感情の調節などさまざまな機能に関与しています。この線維の減少は、アルコール中毒患者の所見と一致しており、海馬と帯状回の情報伝達の低下は記憶障害を引き起こす可能性があります。

参考文献

  1. Billieux, J. Problematic use of the mobile phone: a literature review and a pathways model. Curr. Psychiatry Rev. 2012:8;299–307.
  2. Martinotti, G., Villella, C., Di Thiene, D., Di Nicola, M., Bria, P., Conte, G., et al. Problematic mobile phone use in adolescence: a crosssectional study. J. Public Health. 2011:19;545–551.
  3. Ling, R., and Pedersen, P. E. “Re-negotiation of the social sphere” in Mobile Communications, Vol. 31, eds R. Ling and P. E. Pederson (London: Springer-Verlag). 2006.
  4. Leung, L. Linking psychological attributes to addiction and improper use of the mobile phone among adolescents in Hong Kong. J. Child. Media. 2008:2;93–113.
  5. Martinotti, G., Villella, C., Di Thiene, D., Di Nicola, M., Bria, P., Conte, G., et al. Problematic mobile phone use in adolescence: a cross- sectional study. J. Public Health. 2011:19;545–551.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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