
脳卒中患者に対する理学療法(リハビリテーション)による、拡散テンソル画像(DTI)の変化について
本日は、リクエストいただいたテーマについて書きたいと思います。
テーマ:「脳卒中患者に対する理学療法(リハビリテーション)による、拡散テンソル画像(DTI)の変化について」
正直難しいテーマです。
なぜなら、脳卒中は個々によって病態が大きく異なるため、条件を合わせることが難しく、脳卒中の理学療法(リハビリテーション)の価値を判断することは非常に難しくなってきます。
そのため、多くの研究論文は、脳卒中患者に対して脳刺激などの何か介入+リハビリテーションをして、その脳刺激などの効果を示した論文は非常に多くあります。
今回は、これらの論文(脳刺激などの何か介入+リハビリテーションをした論文)をちょっと違った視点から着目して紹介したいと思います。
どういう視点からかと言うと、脳卒中患者に対して、脳刺激など何か介入+リハビリテーションした群とリハビリテーションのみした群のDTIを比較した論文のリハビリテーションのみした群のデータに着目して、いくつかの論文を取り上げて紹介します。
通常はコントロール群となり、詳細なことは記載されていない論文が多いですが、そこに着目することで、今回のテーマである「理学療法(リハビリテーション)による、拡散テンソル画像(DTI)の変化について」の回答に少しでも近づけるのではないかと思います。
本題に入る前に拡散テンソル画像(DTI)について簡単に述べます。
拡散テンソル画像(図1)とは、急性期脳梗塞などを迅速に診断できる拡散強調画像を応用し、脳白質神経の構造を可視化(画像化)する手法として考案されました1)。この手法は、脳内の組織障害に伴う神経白質の病態評価2)や統合失調症などの神経疾患の病態解明3)に有効です。さらに、拡散テンソル画像は運動機能の回復の予測因子として考えられ、脳卒中後の白質の変化を調べるための有用なバイオマーカーになると考えられています4)。
拡散テンソル画像は、異方性拡散の指標であるFA値(fractional anisotropy value)を求めることができます。FA値は、0≦FA≦1の値をとり、限りなく等方性拡散 に近い状態を満たせばFA値は最小値(0)に近づき、異方性拡散が強い状態を満たせばFA値は最大値(1) に近づきます。このFA値を求めることにより、関心領域内における拡散異方性の定量評価が可能となります。例えば、FA値が 大きい(1に近い)と画像上は高信号(白)、FA値が小さ い(0に近い)と画像上は低信号(黒)になります。脳神経領域の場合、白質は神経線維に富むため拡散異方性が高く、画像上は高信号(白)となります。そのため、皮質脊髄路 や脳梁ではFA値は0.7前後と他部位に比べて高値を示します。
図1は前額面、矢状面、水平面からの画像を示しており、各色は各神経線維を示しています。

では、ここから本題です。
各論文の以下の項目を必須項目として記載し、論文ごとに必要だと思った項目を追加して記載します。
・発症時期(急性期、慢性期、生活期) |
・患者の初期とリハビリテーション後の運動機能・認知機能など |
・リハビリテーション期間・頻度・時間 |
・リハビリテーション内容(詳しく書かれていない論文が多いですが、記載されていたことをそのまま書きます) |
・拡散テンソル画像(DTI)の結果 |
タイトル:Whole Brain White Matter Microstructure and Upper Limb Function: Longitudinal Changes in Fractional Anisotropy and Axial Diffusivity in Post-Stroke Patients.
著者:Oey NE, Samuel GS, Lim JKW, VanDongen AM, Ng YS, Zhou J.
雑誌:J Cent Nerv Syst Dis. 2019:11;1-9
・発症時期(急性期、慢性期、生活期):急性期(発症14日以内、平均9.4±2.49日)
・患者の運動機能・認知機能など:Fugl-Meyer Assessments
入院時:49.2点 |
2週間後:59.4点 |
・リハビリテーション期間・頻度・時間:
期間:2週間 |
頻度:毎日理学療法および作業療法 |
1時間+自主トレーニング1時間 |
・リハビリテーション内容:標準的な理学療法および作業療法(詳しい記載なし)
・拡散テンソル画像(DTI)の結果:橋梗塞の患者では、同側および対側の皮質脊髄路のFA値は増加したが、その他の梗塞または出血(大脳基底核、視床、放線冠、中大脳動脈領域)の患者ではFA値は減少した(図2)。

タイトル:Transcranial Magnetic Stimulation and Diffusion Tensor Tractography for Evaluating Ambulation after Stroke
著者:Bo-Ram Kim, Won-Jin Moon, Hyuntae Kim, Eunhwa Jung and Jongmin Lee
雑誌:Journal of Stroke. 2016:18(2);220-226
・発症時期(急性期、慢性期、生活期):回復期(発症後3-8週)
・患者の運動機能・認知機能など:
Fugl-Meyer Assessment (FMA):介入前:7.0±4.1点 介入後:9.5±5.7点
Functional Ambulation Category (FAC):介入前:0.2±4.1点 介入後:0.8±1.1点
Korean modified Barthel Index (K-MBI):介入前:17.2±17.6点 介入後:26.9±23.1点
・リハビリテーション期間・頻度・時間:
期間:4週間 |
頻度および時間は記載なし |
・リハビリテーション内容:記載なし
・拡散テンソル画像(DTI)の結果:介入前後で変化は認められなかった。
タイトル:Low-frequency rTMS in patients with subacute ischemic stroke: clinical evaluation of short and long-term outcomes and neurophysiological assessment of cortical excitability
著者:Blesneag AV, Slăvoacă DF, Popa L, Stan AD, Jemna N, Isai Moldovan F, Mureșanu DF
雑誌:Journal of Medicine and Life. 2015:8(3);378-387
・発症時期(急性期、慢性期、生活期):急性期~回復期(発症から10日、45日、90日で評価)
・患者の運動機能・認知機能など:Fugl-Meyer Assessment Upper Extremity scores
詳細な点数は記載はないが、図はあり(図3)。
発症後10日はV1、45日はV2、90日はV3で記載。V2はV1と比較して、有意に点数が増加、V3はV2およびV1と比較して有意に点数が増加している。
・リハビリテーション期間・頻度・時間:記載なし
・リハビリテーション内容:記載なし
・拡散テンソル画像(DTI)の結果:有意な差は認められなかったが、発症後45日と90日はTMS群と比較して有意差は認められなかった。

タイトル:Structural white matter changes in descending motor tracts correlate with improvements in motor impairment after undergoing a treatment course of tDCS and physical therapy.
雑誌:Front Hum Neurosci. 2015:9;229
・発症時期(急性期、慢性期、生活期):生活期(発症後平均25.9ヵ月)
・患者の運動機能・認知機能など:Upper Extremity Fugl-Meyer assessments
介入前:24.8点 |
介入後:24.8点 |
リハビリテーション期間・頻度・時間:
期間:2-3週間 |
時間:理学療法と作業療法を各60分 |
リハビリテーション内容:
麻痺側上肢の感覚運動統合を目的とした機能的運動課題、上下肢の運動の協調性課題、患者にとって実用的な関連性のある目標指向活動を行った。特定の患者に最も役立つ運動課題を決定するのは理学療法士に任されていた。
拡散テンソル画像(DTI)の結果:損傷側および非損傷側のFA値に有意な差は認められなかった(図4)。

図4:上はコントロール群の損傷部位、下は損傷側と非損傷側でのFA値の違い
これらの報告からわかることは、理学療法によって急性期から慢性期では臨床評価は向上しているが、拡散テンソル画像の変化(神経線維の変化)は認められていないこと、認められたとしても損傷部位や大きさによって異なる、生活期では、臨床評価も拡散テンソル画像も変化がないことがわかりました。ただ、生活期では臨床評価の点数は下がっているわけではなく、維持しているため理学療法の効果がないわけではないことは明らかです。また、今回は拡散テンソル画像に着目して論文を探しましたが、理学療法によってある脳領域の活動が増加するといった報告は多くあると思います。そのため、時間を見つけてその辺りもブログに記載できればと思います。
ここからは人によって考え方が違い、賛否両論あるかと思いますが、私の考えとして現在の理学療法はさまざまな手法がありますが、どの理学療法も十分なエビデンスはなく治療効果も一時的で持続的ではないと考えています。しかし、さまざま手法にはメリットとデメリットが存在します。私は1つの手法だけではなく、さまざまな手法のメリットの点を組み合わせることで患者さんに1番良いリハビリテーションを提供できるのではないかと考えています。さらに、非侵襲的な脳刺激装置も多くあります。従来の理学療法と脳刺激装置を組み合わせることでより効果的なリハビリテーションが提供できると考えています(論文も多く報告されています)。しかし、脳刺激装置などはまだまだ一般病院に普及していないのが現状です。その理由として、装置が高価である、すべての患者さんに使用できるわけではない、どう使用したら良いのかわからないといった点などが挙げられるかと思います。これらの点は研究者が研究から臨床への架け橋を作ることで臨床に普及させていかなければいけない点だと感じています。
次に視点を変えて論文を紹介していきます。
拡散テンソル画像(DTI)の説明の部分でも述べたように、DTIは脳卒中後の白質の変化を調べるための有用なバイオマーカーになる可能性がありますが、そのDTIの評価(FA値やAD値)とリハビリテーションで用いられる脳卒中の評価の相関を調べることで、DTIは脳卒中患者の予後予測に役立つことができると多くの論文で報告されています。これらの論文を逆の捉え方をすると、DTIと相関があるリハビリテーション評価は、リハビリテーション前後でその評価の数値に変化があれば、白質神経の構造に変化がある可能性があるということがいえます。
そのため、DTIとリハビリテーション評価の相関を調べた論文を1つだけですが紹介します。
臨床で実際に介入した前後で評価を行っていただき、その数値に変化があれば白質神経の構造に変化がある可能性があるため指標にしていただけると幸いです(あくまで可能性であり、白質神経の構造に変化があった根拠にはなりません)。
タイトル:Resting state interhemispheric motor connectivity and while matter integrity correlate with motor impairment in chronic stroke.
著者:Chen JL and Schlaug G
雑誌:Frontiers in Neurology. 2013:4;1-7
この研究の目的は、運動野の神経線維(拡散テンソル画像)と上肢Fugl-Meyer評価の相関関係を調べることです。
結論から言うと両側第一次運動野を結ぶ神経線維のFA値と上肢Fugl-Meyer評価の点数の間には相関関係が認められた。また、両側第一次運動野間の安静時機能的結合と上肢Fugl-Meyer評価の点数の間にも相関関係が認められた(図5)。

図5:左は左右の運動野の安静時機能的結合とFugl-Meyer評価との相関、右は左右の運動野のFA値とFugl-Meyer評価との相関
これらの理学療法評価と拡散テンソル画像の相関関係を調べた論文を簡単に1本だけ紹介しましたが、まだまだ多くの論文があります。さらに理学療法評価と他の指標との相関関係を調べた論文も多くあります。この相関を調べた論文も今後時間を見つけて紹介していければと思います。
参考文献
- Le Bihan D, Mangin JF, Poupon C. Diffusion tensor imaging: concepts and applications. J. Magn. Reson. Imaging. 2001:13;534–546.
- Müller HP, Kassubek J. Diffusion tensor magnetic resonance imaging in the analysis of neurodegenerative diseases. J. Vis. Exp. 2013:(77).
- Melicher T, Horacek J, Hlinka J, et al. White matter changes in first episode psychosis and their relation to the size of sample studied: a DTI study. Schizophr Res.2015:162; 22–28.
- Moura LM, Luccas R, Paiva JP.Q, Amaro E, LeemansA, Leite C.C and Conforto AB. Diffusion Tensor Imaging Biomarkers to Predict Motor Outcomes in Stroke: A Narrative Review. Frontiers in Neurology. 2019:10;445.