医療従事者・研究者用ノート

脳卒中患者に対して異なる注意条件が歩行に与える影響

脳卒中患者に対する歩行練習はリハビリテーションで多くの時間を費やす練習の1つです。

その多くの時間を費やす歩行練習ですが、セラピストがただ横に付いているだけの歩行練習をするのか、患者に何か教示をして、どこか(例えば、足の振り出しやステップなど)に注意(意識)して歩行練習するかでは効果は大きく異なってくるのではないかと思います。

今回は、脳卒中患者に対して異なる注意条件が歩行に与える影響についての論文の紹介です。

タイトル:The effects of different attentional focus on poststroke gait
著者:Sun-Ae Kim, Young Uk Ryu, Hwa Kyung Shin
雑誌:Journal of Exercise Rehabilitation 2019;15(4):592-596

研究の背景

脳卒中で片麻痺になるとほとんどの患者は、重心は非麻痺側優位となり下肢への荷重は非対称性となります。下肢のこの非対称の運動制御は、非対称の歩行につながる可能性があります1)。さらに、健常者と比較しても脳卒中患者の歩行は歩幅と歩行速度は低下します。特に、歩幅の違い、麻痺側と非麻痺側のステップ長の違い、麻痺側の短い立脚期などの特徴が現れます。脳卒中患者に対する長期リハビリテーションのうち、歩行障害に対するリハビリテーションは多くの時間を費やします2)

最近の研究では、注意が運動能力に影響を与えることが実証されています3)。注意は、対象者がどこに注意を向けるかで運動能力に差があると言われています。一般的には外部環境に焦点を当てる(注意を向ける)ことを外部意識、内部環境に焦点を当てることを内部意識と呼ばれています。過去の研究では、外部意識は内部意識よりも運動能力に効果的であると言われています4)。しかし、慢性脳卒中患者の動的状態(歩行)に注意を集中させた研究はほとんどありません。

本研究の目的

異なる注意の焦点が脳卒中後の歩行に及ぼす影響を調べました。

方法

・対象は発症後6ヵ月以上経過した脳卒中片麻痺患者

・16名(男性:11名、女性:5名)を対象とした

注意の教示

3つの条件を各被験者に教示した

・コントロール:被験者は注意について何も教示されなかった。

・内部意識 (IF):被験者は自分の下肢の動きに注意しながら歩くように教示された。

・外部意識 (EF):被験者は健常者の対照的な歩行サイクルに基づいてマーカーと床に描かれた線に注意しながら歩くように教示された。

また、被験者には快適なペースで歩くように教示された。

課題

被験者は14mの距離を歩行し、3つの異なる条件をそれぞれ3回繰り返した。

解析

10mの歩行速度、ステップ長、ストライド長、ステップ幅および麻痺側と非麻痺側の荷重比率を解析した。

結果

被験者の基本情報および基礎評価は表1で示します。

表1:被験者の基本情報および基礎評価

10mの歩行速度

部意識条件で他の条件よりも歩行速度が速かった(図1)。

図1:10m歩行速度

ステップ長

麻痺側、非麻痺側ともに外部意識条件で他の条件よりもステップ長が大きかった(図2-A)。

ストライド長

外部意識条件で他の条件よりもステップ長が大きかった(図2-B)。

ステップ幅

ステップ幅は3条件の有意差は認められなかった(図2-C)。

図2:ステップ長、ストライド長、ステップ幅

荷重比率

麻痺側では、外部意識条件で他の条件よりも荷重比率が大きくなった。逆に非麻痺側では、外部意識条件で他の条件よりも荷重比率が小さくなった(図3)。

図3:麻痺側および非麻痺側の荷重比率

まとめ

脳卒中患者は外部環境に注意を払うことで歩行の空間変数を増加させる可能性が高いことが考えられます。さらに非麻痺側だけでなく、麻痺側のステップ長も増加しました。これらの結果は、外部意識が麻痺肢の歩行機能を改善できることを示しています。また、10 m歩行で他の条件よりも大幅に速く歩行しました。したがって、外部意識を使用した指導は、ステップ長、ストライド長、および歩行時間で麻痺肢の積極的な活性化をもたらすと考えることができます。

参考文献

  1. Shafizadeh M, Platt GK, Mohammadi B. Effects of different focus of attention rehabilitative training on gait performance in Multiple Sclero- sis patients. J Bodyw Mov Ther 2013;17:28-34.
  2. Guzik A, Drużbicki M, Przysada G, Brzozowska-Magoń A, Wolan-Niero- da A, Kwolek A. An assessment of the relationship between the items of the observational Wisconsin Gait Scale and the 3-dimensional spatiotemporal and kinematic parameters in post-stroke gait. Gait Posture 2018;62:75-79.
  3. van Abswoude F, Nuijen NB, van der Kamp J, Steenbergen B. Individual differences influencing immediate effects of internal and external focus instructions on children’s motor performance. Res Q Exerc Sport 2018;89:190-199.
  4. Chiviacowsky S, Wulf G, Wally R. An external focus of attention enhances balance learning in older adults. Gait Posture 2010;32:572-575. de

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です