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子供の注意欠損・多動性障害の発症と母親の感情的気質の関係

子供の精神疾患の1つに注意欠損・多動性障害(ADHD)という疾患があります。この疾患の主な症状として、注意を持続したり、集中したり、課題をやり遂げたりが困難であり、学校の授業中などにいきなり声を出したり、立ち歩いたりなど集団生活の場で問題になったりします。

本日紹介する論文は、子供のADHDの発症が妊娠前および妊娠中の母親の感情的気質が関連しているかを調査した論文です。

タイトル:The affective temperament traits and pregnancy-related depression in mothers may constitute risk factors for their children with attention deficit and hyperactivity disorder
著者:Yasan Bilge Saira, Doga Sevincokb, Ayse Kutluc, Burcu C¸akalozd and Levent Sevincok
雑誌:Journal of obstetrics and gynaecology. 2019:17;1-6.

研究の背景

注意欠損・多動性障害(ADHD)は、多動性、衝動性及び不注意を特徴とする複雑な精神神経疾患です。ADHDには、遺伝的危険因子と環境的危険因子との相互作用によって引き起こされることが報告されています1、2)。母親のタバコ、アルコール、薬物の使用、妊婦合併症、低社会経済レベルなどの周産期の環境危険因子はADHDの直接的な原因となることが報告されています3、4)。また、妊娠中の母親のストレス、不安およびうつ病は子供のADHD発症リスクの可能性があることが報告されています5)。しかし、妊娠前および妊娠中の母親の感情的気質と子供のADHD発症の関係は十分に調査されていません。

本研究の目的

妊娠前および妊娠中の母親の感情的気質と子供のADHD発症の関係を調べることです。

方法

・6~18歳で精神神経科に通院し、ADHDの診断受けた120名。

・母親は精神科診断面接マニュアル(SCID-I)によって評価した。

・除外基準として、子供は精神遅延、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、双極性障害とした。また、母親も過去に統合失調症、双極性障害、精神遅延と診断された被験者は除外し、さらに、現時点でうつ病と診断されている母親は症状の報告に影響を与えることを考慮して除外した。

母親への質問

出産時の年齢

離婚の有無

母親の教育レベル

出産時の完成症の有無

糖尿病の有無

喫煙の有無

アルコールの有無

妊娠中の抗精神薬の摂取の有無

出生時の子供の合併症

母親への感情的気質の評価

感情的気質の評価はAkiskalら(2005年)6)の気質評価に基づいて評価した。

この評価は、99項目の質問で構成され、抑うつ、気分高揚、気分循環性、過敏性、不安性の5つの気質タイプに分類できます。

結果

・被験者は最終的にADHDの子供63名となった。このADHD63名の子供の母親と健常の子供60名の母親とを比較した。

・出生時の母親の年齢、離婚、糖尿病、感染症、妊娠中の抗精神薬およびアルコールの摂取の有無に関して、2つのグループ間に有意差は認められなかった。

ADHDの子供の母親は、健常の子供の母親と比較して、教育レベルが有意に低く、妊娠中のタバコ消費量が多かった。

妊娠前のうつ病率は、健常な子供よりもADHDの子供の母親の方が有意に高かった。

ADHDの子供の母親は、健常の子供の母親と比較して、5つの気質タイプ(抑うつ、気分高揚、気分循環性、過敏性、不安性)のスコアが有意に高かった。

まとめ

・ADHDの子供の母親の教育レベルは有意に低かったが、母親の教育レベルが低いと子供のADHD発症を予測することはできなかった。

・ADHDの子供の母親はタバコ摂取量が有意に高かった。以前の研究では、妊娠中の喫煙により子供へのニコチン曝露がドーパミン作動性システムの機能障害を引き起こし、ADHDの子供の出生後の細胞発達に影響を与えると報告されています7)

・ADHDの子供の母親は妊娠前にうつ病率が高かった。多くの研究では、妊娠中の母親のうつ病が子供のADHDに関連していることが報告されています8、9)。特に妊娠後期の出産へのストレスと不安が子供のADHDに関連するとされています。しかし、妊娠前のうつ病がどのようにADHDと関連するかの詳しいことは明らかではありません。

・ADHDの子供の母親は、5つの気質タイプ(抑うつ、気分高揚、気分循環性、過敏性、不安性)のスコアが高かった。いくつかの研究では、気分高揚、気分循環性、不安気質は双極性障害と共通の遺伝的基盤を有することが実証されています10、11)。さらに、ADHDと気質および性格特性の遺伝的および病因学的関係に関する報告があります12)。これらの結果は、母親の気分高揚性、気分循環性、不安気質が、子供のADHDの素因となり、遺伝的関連の可能性があることを示しています。

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参考文献

  1. Faraone SV, Doyle AE. 2001. The nature and heritability of attention deficit/hyperactivity disorder. Child and Adolescent Psychiatric Clinics of North America 10:299–316.
  2. Rietveld MJH, Hudziak JJ, Bartels M, van Beijsterveldt CEM, Boomsma DI. 2003. Heritability of attention problems in children: I. Cross-sectional results from a study of twins, age 3-12 years. American Journal of Medical Genetics 117B:102–113.
  3. Huang L, Wang Y, Zhang L, Zheng Z, Zhu T, Qu Y. 2018. Maternal smoking and attention-deficit/hyperactivity disorder in offspring: A metaanalysis. Pediatrics 141:e20172465.
  4. Uguz F. 2018. Maternal antidepressant use during pregnancy and the risk of attention deficit/hyperactivity disorder in children: a systematic review of the current literature. Journal of Clinical Psychopharmacology 38:254–259.
  5. Wolford E, Lahti M, Tuovinen S, Lahti J, Lipsanen J, Savolainen K, et al. 2017. Maternal depressive symptoms during and after pregnancy are associated with attention deficit/hyperactivity disorder symptoms in their 3-to 6-year-old children. PLoS One 12:e0190248.
  6. Akiskal HS, Akiskal KK, Haykal RF, Manning JS, Connor PD. 2005. TEMPS A: progress towards validation of a self-rated clinical version of the Temperament Evaluation of the Memphis, Pisa, Paris, and San Diego autoquestionnaire. Journal of Affective Disorders 85:3–16.
  7. Roy TS, Seidler FJ, Slotkin TA. 2002. Prenatal nicotine exposure evokes alterations of cell structure in hippocampus and somatosensory cortex. Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 300: 124–133.
  8. Galera C, C^ ote SM, Bouvard MP. 2011. Early risk factors for hyperactivity and inattention trajectories from age 17 months to 8 years. Archives of General Psychiatry 68:1267–1275.
  9. Van Batenburg-Eddes T, Brion MJ, Henrichs J, Jaddoe VW, Hofman A, Verhulst FC, et al. 2013. Parental depressive and anxiety symptoms during pregnancy and attention problems in children: a cross-cohort consistency study. Journal of Child Psychology and Psychiatry 54: 591–600.
  10. Vasquez GH, Kahn C, Schiavo CE, Goldchluk A, Herbst L, Piccione M, et al. 2008. Bipolar disorders and affective temperaments: a national family study testing the “endophenotype” and “subaffective” theses using the TEMPS-A Buenos Aires. Journal of Affective Disorders 108: 25–32.
  11. Mazzarini L, Pacchiarotti I, Colom F, Sani G, Kotzalidis GD, Rosa AR, et al. 2009. Predominant polarity and temperament in bipolar and unipolar affective disorders. Journal of Affective Disorders 119:28–33.
  12. Lynn DE, Lubke G, Yang M, McCracken JT, McGough JJ, Ishii J, et al. 2005. Temperament and character profiles and the dopamine D4 receptor gene in ADHD. American Journal of Psychiatry 162:906–913.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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