医療従事者・研究者用ノート

野球経験の有無が中枢自律神経線維網の安静時機能的結合に与える影響

以前は自律神経の中枢と言えば、視床下部ですが、近年では中枢自律神経線維網(central autonomic network: CAN)と呼ばれています1)。視床下部もこのCANに含まれ、他の中心領域としては、中背側前帯状皮質、腹内側前頭前野、島皮質および偏桃体が含まれます。

今回紹介する論文は、スポーツ経験の有無(今回は野球経験者と未経験者)が中枢自律神経網への影響を安静時機能的結合(resting-state fMRI)を用いて調べた論文です。

タイトル:Altered Central Autonomic Network in Baseball Players: A Resting-state fMRI Study

著者:Jia-Hong Sie, Yin-Hua Chen, Chih-Yen Chang, Nai-Shing Yen, Woei-Chyn Chu and Yuo-Hsien Shiau

雑誌:Scientic Reports. 2019:9(110);1-10

研究の背景

自律神経系は、全身の血管、皮膚および腺、すべての臓器の機能を制御しています2)。また自律神経系は知覚、認知、感情と相互作用しています。例えば、精神状態によって自律的な反応に影響を与え、呼吸や骨格運動のような身体の物理的状態を変化させます。多くの研究により、長期の身体活動や運動トレーニングは自律神経制御に大きな影響を与えることが報告されています(例えば、血流量の増加、心機能、インスリン抵抗性、腎機能の改善など)3、4)。しかし、スポーツ経験の有無が中枢自律神経線維網(central autonomic network: CAN)の安静時機能的結合への影響は明らかではありません。

本研究の目的

スポーツ経験による自律制御の変化が中枢自律神経線維網(central autonomic network: CAN)のネットワークにどのような影響があるかを調べました。

野球は速球のスポーツである、バッティングは最も難しい運動スキルの1つと考えられています。ボールを打つことは非常に難しい時空間的制約を持つ課題であり、迅速なボールの識別(ストレートか変化球)、意思決定(打つか見逃すか)、特定の注意能力が必要です。これらの能力は幼児期の長期の広範なトレーニングによって向上することが報告されています5)。今回は難しいスキルを必要とするトップレベルの野球経験者、中レベルの野球経験者および未経験者の安静時機能的結合を調べました。

中枢自律神経線維網(central autonomic network: CAN)とは

最近の研究では、認知、情動、運動の課題中に自律神経処理に一貫して有効ないくつかの脳領域が報告されています。その領域は、中背側前帯状皮質、腹内側前頭前野、島皮質および偏桃体が含まれます6、7)。また、後部帯状皮質も含まれることが報告されています8)

後部帯状皮質は帯状運動領域とも呼ばれており、補足運動野の近くに位置し、交感神経出力を介して心臓機能に影響します。

扁桃体は皮質の運動関連領域(補足運動野、一次運動野、運動前野)と連携して働き、感情刺激に対する適応反応に影響します。左扁桃体は副交感神経の調節にも関与しており、嫌悪的な感情刺激時の交感神経の増加と副交感神経の減少に関与しています9)

島皮質は大脳辺縁系に関連する右島皮質と感覚運動統合に関連する左島皮質で構成されています10、11)。右島皮質は交感神経の調節に関与する腹側部分と副交感神経の調節に関与する背側部分があります。左島皮質は運動中の心拍の変動との反相関を示すことにより、交感神経の調節をしています。

まとめると、後部帯状皮質と左島皮質は交感神経調節機能に関与し、左扁桃体と右島皮質は交感神経と副交感神経のどちらの調節機能にも関与しています。

方法

・被験者は18~25歳の52名の健常男性とした。

・トップレベルの野球経験者は19名、中レベルの野球経験者15名、野球の経験や定期的な運動習慣がない18名でした。

・3.0テスラのMRI装置を用いて安静時脳活動を測定した。

・後部帯状皮質、左扁桃体、右前部島皮質、左後部島皮質をseed(中心領域)としたときに他のどの領域と正または負の相関があるかを調べた。

結果

4つの領域とその他の領域との相関

・後部帯状皮質(図1-a)は内側帯状皮質および補足運動野、島皮質、中心前回、中心後回、下頭頂小葉、上頭頂小葉、上前頭回(すべて両側)と正の相関(図の赤色)があり、楔前部、内側前頭前野、外側前頭前野、角回、中側頭回と負の相関(図の青色)がありました。

・左扁桃体(図1-b)は右扁桃体、腹内側前頭前野、両側海馬、海馬傍回などを含む辺縁系領域と正の相関があり、楔前部と負の相関がありました。

・右前部島皮質(図1-c)は補足運動野、背外側前頭前野、下前頭回、背側前帯状皮質と正の相関があり、腹内側前頭前野、後部帯状皮質と負の相関がありました。また、中前頭回、左角回、中側頭回も関与していました。

・左後部島皮質は(図1-d)は後部帯状皮質と正の相関がありました。

グループ間での違い

・左後部帯状皮質および右後部帯状皮質と中心後回、下頭頂小葉および縁上回との安静時機能的結合はHC(野球の経験や定期的な運動習慣がない)と比較してAB(トップレベルの野球経験者)とIB(中レベルの野球経験者)は有意に高かった(図2-a)。

・左扁桃体と右被殻との安静時機能的結合はHCと比較してABとIBで有意に高かった(図2-b)。

・左扁桃体と左下頭頂小葉および中心後回の安静時機能的結合はIBがABとHCよりも負の相関が有意に高かった(図2-c)。

・右前部島皮質と背側前帯状皮質の安静時機能的結合はIBが最も強い結合を示し、HCに比べてABとIBは有意に高かった(図2-d)。

・右前部島皮質は右中心前回と中心傍小葉の安静時機能的結合はABが最も強い(負の)結合を示し、IBと比較してABおよびHCは負の相関が有意に高かった(図2-e)。

まとめ

・野球の経験がない場合でも交感神経特性を持つ後部帯状皮質と左後部島皮質はお互いに有意に相関関係を示した。

・後部帯状皮質と左後部島皮質の両方の結合の強さは、中心後回、下頭頂小葉および縁上回と関連しており、野球の経験に依存していた。つまり練習量が多いほど結合が強くなります。この結果は、野球の経験により、複数の感覚入力の処理および野球のバッティングで必要な動きの計画、開始、実行、さらには抑制などにおいて後部帯状皮質と左後部島皮質と感覚ネットワークとの結合が強化される可能性があります。さらに下頭頂小葉と縁上回はミラーニューロンシステムの一部です12)。したがって打者の下頭頂小葉と縁上回の強い結合はバッティング動作の知覚と実行の間の密接な結合を反映している可能性があります。

・すべての被験者で左扁桃体は辺縁系のネットワークである両側海馬、海馬傍回および腹内側前頭前野と正の相関があった。この結合は皮質下領域や前頭前皮質との相互作用による感情的および自律神経処理における左扁桃体の役割を示しています。さらに、左扁桃体と右被殻の結合の強さは野球経験により増加していました。被殻は大脳基底核の一部であり、新たな運動技能の計画、学習、実行に重要な役割を果たしています13)。また、新たに習得した運動技能が保持段階で安定し統合されたときに皮質-基底核ループが関与します。

・ABとIBグループはHCよりも左扁桃体と右被殻の結合が強く、高度に自動化された運動能力に対する身体の覚醒および感情処理の制御を反映している可能性が考えられます。

参考文献

  1. Benarroch EE:The central autonomic network. Clinical Autonomic Disorders, 2nd ed (Low PA ed), Lippincott-Raven, Philadelphia, 1997, pp 17-23.
  2. Jänig, W. Integrative action of the autonomic nervous system: Neurobiology of homeostasis. (Cambridge University Press, 2008).
  3. Fu, Q. & Levine, B. D. Exercise and the autonomic nervous system. Handb. Clin. Neurol. 2013: 117; 147–160, https://doi.org/10.1016/ B978-0-444-53491-0.00013-4.
  4. Hautala, A. J., Kiviniemi, A. M. & Tulppo, M. P. Individual responses to aerobic exercise: the role of the autonomic nervous system. Neurosci. Biobehav. Rev. 2009:33;107–115, https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2008.04.009 .
  5. Nakata, H., Yoshie, M., Miura, A. & Kudo, K. Characteristics of the athletes’ brain: evidence from neurophysiology and neuroimaging. Brain Res. Rev. 2010:62; 197–211
  6. Critchley, H. D., Nagai, Y., Gray, M. A. & Mathias, C. J. Dissecting axes of autonomic control in humans: Insights from neuroimaging. Auton. Neurosci. 2011:161;34–42, https://doi.org/10.1016/j.autneu.2010.09.005.
  7. Nagai, M., Hoshide, S. & Kario, K. The insular cortex and cardiovascular system: a new insight into the brain-heart axis. J. Am. Soc. Hypertens. 2010:4;174–182, https://doi.org/10.1016/j.jash.2010.05.001
  8. Beissner, F., Meissner, K., Bar, K. J. & Napadow, V. The autonomic brain: an activation likelihood estimation meta-analysis for central processing of autonomic function. J. Neurosci 2013:33; 10503–10511, https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.1103-13.2013.
  9. Grezes, J., Valabregue, R., Gholipour, B. & Chevallier, C. A direct amygdala-motor pathway for emotional displays to influence action: A diffusion tensor imaging study. Hum. Brain Mapp. 2014: 35;5974–5983
  10. Cauda, F. et al. Functional connectivity of the insula in the resting brain. Neuroimage 2011: 55; 8–23
  11. Deen, B., Pitskel, N. B. & Pelphrey, K. A. Three systems of insular functional connectivity identified with cluster analysis. Cereb. Cortex 2011: 21; 1498–1506
  12. Cattaneo, L. & Rizzolatti, G. The mirror neuron system. Arch. Neurol. 2009: 66; 557–560
  13. Doyon, J. et al. Contributions of the basal ganglia and functionally related brain structures to motor learning. Behav. Brain Res. 2009: 199; 61–75

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

半側空間無視の評価

2020年1月6日