医療従事者・研究者用ノート

安静時機能的結合はパーキンソン病のうつ病診断に役立つ

本日はパーキンソン病のうつ病に関する論文紹介です。安静時fMRIを使用してパーキンソン病患者のうつ病の機能的結合マーカーを探索し、安静時機能的結合がパーキンソン病患者のうつ病の有無を診断するための1つのツールとして使用できるのではないかと議論している論文を紹介します。

タイトル:Functional connectivity markers of depression in advanced Parkinson’s disease

著者:Hai Lin, Xiaodong Caia, Doudou Zhanga, Jiali Liua, Peng Na and Weiping Li

雑誌:NeuroImage. 2020:25;102130

研究の背景

パーキンソン病は神経変性疾患の中で2番目に多い疾患です。安静時振戦、筋強剛、無動、姿勢反射障害の4徴候を含む運動機能障害は有名です。しかし、パーキンソン病は運動機能障害の他にうつ病などの非運動症状も多く見られます。うつ病は非運動症状の中でも一般的な症状であり、患者の35%に出現すると報告されています1)。パーキンソン病のうつ病は認知機能低下やストレスの増加に関連しており、生活の質の低下に大きく関与しています2)。しかし、パーキンソン病のうつ病の神経機構は十分に理解されていません。

うつ病は前頭前野、大脳基底核、辺縁系(視床、腹側線条体、偏桃体、島および帯状皮質)のドーパミン作動性、セロトニン作動性、コリンおよびノルアドレナリン作動性の神経伝達物質の局所的異常があることが結論付けられています3,4,5)。また、うつ病のパーキンソン病患者は、非うつ病の患者と比較して、左背外側前頭前野および右上頭回の安瀬時機能的結合が低下しており、右後部帯状皮質の安瀬時機能的結合が増加することがわかっています。また、後部帯状皮質の安瀬時機能的結合とうつ病の評価指標の結果に負の相関があることもわかっています6)。しかし、これらの研究は小規模(n=17)の患者で調べられています。

本研究の目的

本研究は大規模なパーキンソン患者の安静時fMRIを収集し、全脳の機能的結合とうつ病との関係を調べるために、患者固有の内因性ネットワークに基づいて安静時機能的結合を調べた。

方法

被験者:

うつ病のパーキンソン病患者59名(うつ病の診断は経験のある精神科医が診断した)

非うつ病のパーキンソン病患者97名

健常成人45名

MR撮像

・3TのMR装置で32chのhead coilを用いて撮像を行った。

・患者は服薬から12時間以上経過後(off-stateの状態)に撮像を行った。

結果

・図1は6つの領域(島皮質内:A、後部帯状皮質内:B、島皮質と楔前部間:C、後部帯状皮質と海馬+扁桃体間:D、島皮質と後部帯状皮質間:E、上頭頂小葉と内側前頭前野間:F)の安静時機能的結合をうつ病のパーキンソン病患者(D-PD)、非うつ病のパーキンソン病患者(ND-PD)、健常成人で比較した。その結果、6つのすべての領域でD-PAとND-PDに有意差が認められた。また、健康と比較して、これらの6つの領域はうつ病患者で大きく異なり、そのうち3つ(後部帯状皮質内の安静時機能的結合、後部帯状皮質と海馬+扁桃体間、および上頭頂小葉と内側前頭前野間)は非うつ病患者で有意に異なっていた。

図1:6つの領域の安静時機能的結合の比較

・図2は6つの領域(島皮質内:A、後部帯状皮質内:B、島皮質と楔前部間:C、後部帯状皮質と海馬+扁桃体間:D、島皮質と後部帯状皮質間:E、上頭頂小葉と内側前頭前野間:F)の安静時機能的結合とうつ病評価スコア(Hamilton Depression Rating Scale:HDRS、Beck Depression Inventory:BDI)との相関を示しています。6つの領域とうつ病スコアの間に有意な相関関係が認められました。

図2:6つの領域とうつ病評価スコアとの相関

まとめ

・この研究は、安静時機能的結合を用いてうつ病に関連した領域を6つに分類してパーキンソン病のうつ病の特徴を調べることで、安静時機能的結合がパーキンソン病患者がうつ病であるかどうかの診断に役立つかどうかを検討した。

・これらの6つの領域はすべて、うつ病患者と非うつ病患者で異なっただけでなく、うつ病スコアとも有意に相関が認められました。後部帯状皮質、内側前頭前野および楔前部はデフォルトモードネットワークの重要な一部であり、うつ病に関連していることが証明されています7)。デフォルトモードネットワークは健常では安静状態で活性化され、目標指向課題では非活性化されます。しかし、うつ病患者では課題中も非活性化せずに活性化していることが明らかになっています7)。例えば、後部帯状皮質は自己参照処理と反芻(よく考える事)に関与していますが、うつ病患者では常に自己に関して否定的な情報を処理する傾向(常に自己参照処理する傾向)があり、永続的で反復的な自己批判状態に陥り、後部帯状皮質が常に活動しているという状態となります。

・島皮質は辺縁系に重要な部分であり、感情および感情の処理に関係しています。以前の研究では、島皮質の灰白質体積は、うつ病患者の臨床尺度のスコアによって測定されたうつ病の重症度と相関していることが明らかになっています8)。また、安静時fMRIの研究では、うつ病患者の右島皮質で局所的均一性の低下があり、島皮質内の安静時機能的結合の低下とパーキンソン病患者のうつ病の神経相関に関する結果と一致しています。さらに、うつ病患者は島皮質と後部帯状皮質および楔前部間、海馬+扁桃体と後部帯状皮質間に異常な安静時機能的結合が認められました。これらの結果は、辺縁系とデフォルトモードネットワークの相互作用がパーキンソン病のうつ病と密接に関連している事を示しています。

参考文献

  1. Reijnders, J.S., Ehrt, U., Weber, W.E., et al. A systematic review of prevalence studies of depression in Parkinson’s disease. Mov. Disord. 2008;23:183–189.
  2. Wang, B., Luo, W., Zhang, W.Y., et al. The effect on health-related quality of life in depressed Parkinson’s disease. Chin. J. Neurol. 2013;46:252–253.
  3. Remy, P., Doder, M., Lees, A., et al. Depression in Parkinson’s disease: loss of dopamine and noradrenaline innervation in the limbic system. Brain. 2005;128:1314–1322.
  4. Etkin, A., Egner, T., Kalisch, R. Emotional processing in anterior cingulate and medial prefrontal cortex. Trends Cogn. Sci. 2011;15:85–93.
  5. Ballanger, B., Klinger, H., Eche, J., et al., 2012. Role of serotonergic 1A receptor dys- function in depression associated with Parkinson’s disease. Mov. Disord.2012;27:84–89.
  6. Lou, Y., Huang, P., Li, D., et al. Altered brain network centrality in depressed Parkinson’s disease patients. Mov. Disord.2015;30:1777–1784.
  7. Belzung, C., Willner, P., Philippot, P. Depression: from psychopathology to pa- thophysiology. Curr. Opin. Neurobiol. 2014;30C:24–30.
  8. Sprengelmeyer, R., Steele, J.D., Mwangi, B., et al. The insular cortex and the neuroanatomy of major depression. J. Affect. Disord. 2011;133:120–127.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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