
運動学習の効果は睡眠中に向上する
「寝る子は育つ」ということわざがありますが、運動学習と睡眠との関係が科学的に証明されています。
本日は、運動学習と睡眠との関係を脳に着目して紹介します。
まず、運動学習は単純な運動要素を繰り返し練習することにより、楽にその練習した運動を実行できるようになるプロセスを指します。
多くの研究では、図1のような指の運動が運動学習に用いられています。
例えば、図1Aの場合は、30秒間で早く小指→示指→環指→中指の順にタッピングする課題で、図1Bの場合は、暗黙的または明示的にコンピューター画面に表示される刺激に応答する課題です。

運動学習には主に認知段階→連合段階→自動化段階があり、学習段階により関与する脳領域も変化してきます(図2)。

学習初期では、練習中に必要な認知プロセスの性質(試行錯誤による学習や暗黙的または明示的な学習など)に応じて小脳、海馬、脊髄、運動皮質領域(運動前野、補足運動野、前帯状皮質)、前頭前野、頭頂皮質などのさまざまな脳領域が関与しています1,2,3)。
図2の各領域の四角や上下の三角はそれぞれ、運動学習過程でのその領域の関与の強さを示しています。
Hipp:海馬 MCR:運動皮質領域 ST:線条体 CB:小脳 PC:頭頂皮質 FAR:前頭連合領域 SC:脊髄 AS:連合線条体 SS:感覚運動線条体 CC:小脳皮質 CN:小脳核
学習初期では多くの脳領域が関与していますが、学習後期では関与する脳領域は限られてきます。運動が十分に学習され、パフォーマンスが達成されると運動の表象は主に皮質-線条体回路(すなわち線条体と運動皮質領域および頭頂領域)が関与します。
そして、MRIの研究で、睡眠前後の運動技能の強化を調べています4)。図3はトレーニング中の睡眠前(A)、睡眠中(B)、睡眠後(C)の脳活動を示しています。睡眠後は睡眠前と比較して、学習に関連する脳領域の活動とパフォーマンスが向上し、相関も認められたと報告しています。

では、睡眠中のどの時期に学習が促進されるのでしょうか?
睡眠はレム睡眠(浅い眠りで夢などを見ているとき)とノンレム睡眠(深い眠り)があり、ノンレム睡眠は4つのステージがあります(図4)5)。

運動学習はノンレム睡眠のステージ2のときに記憶統合に重要な役割があると報告されています6,7)。
学習に重要になるのが睡眠紡錘波と呼ばれている11-17Hzの振動です。この振動波はノンレム睡眠のステージ2で活性化され、睡眠後の運動技能上達または改善の可能なメカニズムとして関与していると報告されています8,9)。
しかし、睡眠は音や光に非常に影響を受けます。生活環境の騒音(家から線路が近いなど)が大きくなると睡眠の質が悪くなり、寝室の照明が明るすぎたり、寝る前の携帯照明で睡眠は浅くなりやすくなってきます。また、枕が低すぎたり(自分に合っていない)、マットレスが柔らかすぎたりなども睡眠が浅くなる1つの要因となります。
睡眠は、学習や記憶の定着に非常に重要であり、睡眠の質を向上させることで学習の効果を高めることに繋がります。
参考文献
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