
頭部への他動的な振動の効果
寝たきりや歩行が困難な患者に対して、座位保持や全介助で歩行を行う事で覚醒レベルを高めたり、介助量軽減など、その他さまざまな目的でリハビリテーションを行います。本日紹介する論文はラットの研究になりますが、頭部への他動的な振動が脳の活性化にトレッドミルランニングと同じような効果がある可能性があるという報告です。
また、この内容はYoutubeでも配信していただいていますので、そちらも併せてご覧いただけますと幸いです。
タイトル:Mechanical Regulation Underlies Effects of Exercise on Serotonin-Induced Signaling in the Prefrontal Cortex Neurons
著者:Youngjae Ryu, Takahiro Maekawa, Daisuke Yoshino, Naoyoshi Sakitani, et al.
雑誌:iScience, 2020:100874
研究の背景
運動は様々な組織や臓器の恒常性を維持するのに効果的であると言われています。
例えば、有酸素運動は心血管障害、代謝障害、筋骨格障害の治療介入として有用であると報告されています。また、運動は神経系の機能にも有用です。認知症、統合失調粗油、うつ病などの脳関連の多くの健康上の問題に対する運動の治療効果が報告されています。
しかし、脳機能に対する運動のこれらの効果的な分子メカニズムはよくわかっていません。
セロトニン受容体は偏桃体、海馬、大脳皮質などの脳のさまざまな領域で発現しています。感情と認知の関連する皮質神経活動と周期的変動を調整する前頭前野の5-HT1A受容体シグナル伝達は精神障害に関係しています。また、セロトニン2A受容体はトレッドミル歩行においてラットの脊髄ニューロンにおける別のGタンパク質共役受容体(GPCR)の変化を引き起こすことがわかっていますが、運動がセロトニン2A受容体をどのように調整するかはわかりません。
本研究の目的は運動(トレッドミルランニング)と受動的な頭部の動き(足の着地時に頭部に加わる力)が前頭前野のセロトニン2A受容体シグナル伝達に同様の影響を与えるかを調べることです。
方法
・20匹のマウスと2群に分けた。一方は1日に30分間、20m/分の速度でトレッドミルランニングを7日間行わせた。もう一方は運動をさせないコントロール群とした。
・次に運動させないマウスに麻酔をかけて、頭部を上下方向に他動的に動かした(Passive Head Alleviate:PHA)。頭部へ与える力は1Gの力を1秒間に2回、1日30分を7日間続けた(トレッドミル歩行群と同じ条件に設定した)。
結果
トレッドミルランニングとPHAの両方がマウスの前頭前野のセロトニン受容体シグナル伝達に同様の影響(細胞表面から細胞内へと移動する「内在化」という現象が起きてセロトニンに対する応答性が低下)が認められた。
まとめ
・ランニングは踵接地時に頭部への適度な衝撃が加わります。適度な衝撃が加わることによって脳内の間質液が流動し、脳内の細胞に力学的な刺激が加わります。この力学的な刺激が脳内の細胞の機能調節に関与している可能性がある。そのため、適度な運動(適度に脳への刺激・衝撃が加わる運動)は脳機能調節に関与していることが考えられる。それと同様に、受動的な頭部への刺激のみでもトレッドミルランニングと同様の結果が得られたため、同じようなメカニズムが起きている可能性が考えられる。
・これは私の考えですが、寝たきりや歩行が難しい患者のリハビリテーションに適度な頭部への振動を行う事で脳の活性化を得られる可能性があるのではないかと考えます(もちろん、急性期や頭部への振動が禁忌な方は対象外ですが、状態が落ち着いている患者に試してみる価値はあるのではないかと思います)。