医療従事者・研究者用ノート

静的および動的ストレッチの効果 Part2

今回は静的ストレッチと動的ストレッチがその後のパフォーマンスにどのように影響を与えるかを示した論文を2回に分けて紹介します。

Part1ではこの論文の背景と方法をご紹介しました。

Part2では結果とまとめについてご紹介します。

また、Youtubeでも配信していただく予定ですので併せてご覧ください。

https://www.youtube.com/channel/UCoQKUKqUuIo2r3aQHG585-A

タイトル:A review of the acute effects of static and dynamic stretching on performance.

著者:David G. Behm, Anis Chaouachi

雑誌:European Journal of Applied Physiology. 2011;111(11):2633-2651.

結果およびまとめ

ストレッチ時間の影響

・ストレッチ時の筋の伸長時間に関して、プロのスポーツ選手に対して筋力とコンディションを調査した論文では、1つの筋に対して12秒、14.5秒、17秒、18秒の伸長が良いとの報告があり、全ての論文で一致していない。

・また、多くの論文の結果から90秒から2分以上のストレッチを行うと一時的に筋力、ジャンプ力、俊敏性が低下するとまとめています。このことからストレッチの持続時間が長くなるとこれらのパフォーマンスは低下すると結論づけました。

・図4、5はストレッチ時間による筋力やジャンプ力のパフォーマンスの変化を示しています。

図4
図5

90秒以下では結果にばらつきが見られますが、90秒以上のストレッチでは明らかにパフォーマンスの低下が認められました。このことから1つの筋に対してストレッチは90秒以下が望ましいと考えられます。特に30秒以下のストレッチであればその後のパフォーマンスには影響を与えないとの見解もあります。

・これかの見解から多くのスポーツではスポーツ前に静的なストレッチを実施しないまたは最小時間に抑えることが良いという結論に至っています。しかし、体操選手、レスリング、柔道、シンクロナイズドスイミング、フィギュアスケート、アイスホッケーのキーパーなど静的な柔軟性の向上がパフォーマンスに影響を与えるような選手には静的ストレッチも必要であるという見解もあります。

・一部の研究では動的ストレッチが静的ストレッチと同様の筋の柔軟性を高めることが示されている14)、一方で動的ストレッチは静的ストレッチほど筋の柔軟性を高める効果はないと示されており15)、これらの議論は解決には至っていません(2011年では)。

・したがって、スポーツの種類によって競技前のウォーミングアップ時に静的ストレッチを含めるのか含めないのかが重要になってきます。

ストレッチ強度の影響

・多くの研究では静的ストレッチで筋を伸張させ、痛みがでる強度のストレッチは関節可動域は大きくなる反面、筋力、ジャンプ力、ジャンプの滞空時間、筋活動、バランスなどが低下する報告があります10.11,12,16)。また、痛みがでない程度のストレッチであればこれらのパフォーマンスの低下は出現しないと報告されています17,18)

・1つの研究を紹介すると、足関節背屈のエンドフィールを感じる角度から10%の角度を減少させ、その位置で2分間の静的ストレッチを行ってもジャンプ力には影響を与えないと報告しています18)。これらの見解からストレッチの強度は最大に筋を伸張(痛みが出現するまで)するのではなく、最大伸張以下で行うのが望ましいと考えられます。

静的ストレッチの高強度における神経メカニズム

・高強度の静的ストレッチは、神経筋の活性化に悪影響を与える可能性があることが報告されています19)

一つの論文では、上腕三頭筋の高強度の静的ストレッチを1時間行うと最大随意収縮が23.2%、筋活動が19.9%、H反射が43.8%の有意な現象があったと報告しています19)。この静的なストレッチによって引き起こされるH反射の減少はストレッチの期間のみに限定されており、すぐに回復したと報告しています。

また、他の研究でも足関節背屈角度を20°で伸長すると伸張誘発運動ニューロンの興奮性は減少すると報告しています20)。運動ニューロンの興奮の減少は、Ia求心性線維からα運動ニューロンへの興奮性駆動力の低下に起因することが示唆されています。これは筋紡錘の安静時放電の減少によるものであり、反応性の低い筋紡錘は、その後活性化される筋線維の数の減少をもたらす可能性も考えられます21)

しかし、これらの減少はストレッチ中のみで直後には回復することが報告されています13,20)

その他の影響として、高強度のストレッチは筋への血流を損なうことが報告されており、血液循環の変化はその後のパフォーマンスにも影響を及ぼす可能性が報告されています11)

他の見解

・多くの研究が上記で述べてきたようにパフォーマンスに影響を与えると報告されています。しかし、これらのパフォーマンスの低下は運動をあまりしていない一般人が多いことを指摘しています。

普段運動をしていない人が急に静的ストレッチを行う事で筋肉が伸張されることによりストレス下に置かれ、筋肉および神経系に悪影響をもたらすからであると報告しています。そのため、アスリート(スポーツ選手)は、一般人よりも静的ストレッチによるパフォーマンスの低下が起きにくいと報告している論文も存在します22,23)

・ある研究では、女子バレーボール選手に静的ストレッチを実施した後に筋力とジャンプ力を測定したところ、パフォーマンスの低下は起きなかったと報告しています24)

・他の研究25,26)でも、短距離走の選手は、静的ストレッチ後は短距離の時間が短くなったと報告しており、マラソン選手でも短距離の時間、俊敏性、ジャンプのパフォーマンスに影響しなかったと報告しています。さらにプロサッカー選手でも短距離の時間に影響を及ぼさなかったと報告しています。

動的ストレッチ

・これまで静的ストレッチについて述べてきましたが、最後に動的ストレッチについての見解を紹介します。多くの論文では、動的ストレッチ後は筋力、ジャンプ力などその後のパフォーマンスに悪影響がないと言われています27,28,29)

・図6は動的ストレッチ時間(横軸)と筋力とトルク(縦軸)を示しています。

図6

この結果から、動的ストレッチは短い時間でもパフォーマンスに悪影響を及ぼさず、さらに長時間ではパフォーマンスは向上する可能性が示唆されました。この結果および多くの論文の結果から動的ストレッチを行う方が静的ストレッチを行う方よりも望ましと考えられます。

参考文献

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投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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