医療従事者・研究者用ノート

脊髄小脳性運動失調7型の運動および認知機能

脊髄小脳変性症には孤発性や遺伝性があり、その中にも多くの分類(型)があります。また、型によっても出現する症状が異なります。今回紹介する論文は脊髄小脳性運動失調7型(SCA7)に関する論文を紹介します。

タイトル:Motor and cognitive impairments in spinocerebellar ataxia type 7 and its correlations with cortical volumes.

著者:Amanda Chirino, Anabel Contreras, Carlos R. Hernandez-Castillo, Victor Galvez, Rosalinda Diaz, Luis Beltran-Parrazal and Juan Fernandez-Ruiz

雑誌:European Journal of Neuroscience. 2018:48(10);3199-3211.

研究の背景

脊髄小脳性運動失調7型(SCA7)は、小脳性運動失調と網膜ジストロフィーを特徴とする神経変性疾患です。また、この7型は永続的な失明が出現する唯一のタイプの脊髄小脳失調症です。以前の研究では、このSCA7の認知障害の可能性について報告しています1,2)

しかし、これらの研究は認知機能障害の神経機構についてはあまり調査されていません。その理由として、重度の運動や視覚障害があるため、認知機能を評価する方法としては口頭で評価をするしかありませんでした。

そこで、本研究はSCA7患者が言語の流暢さと聴覚と言語の記憶の特定の要素に障害を示すかどうかを調べた。また、失調症の重症度、cytosine-adenine-guanine(CAG)再発の数、発症時の年齢、小脳および灰白質体積間の相関を調べた。

方法

・脊髄小脳性運動失調7型(SCA7)の遺伝子診断を受けた31名(女性12名)と32名(女性13名)の健常成人を対象とした。

・疾患の重症度はScale for the Assessment and Rating of Ataxia (SARA)を用いた。このSARAは歩行、立位保持、座位、発話、指追跡テスト、指鼻テスト、手の回内外運動、踵脛テストの8項目があります。合計スコアは0(運動失調なし)~40(重度の運動失調)点です。

・聴覚と言語の記憶の検査にはRey Auditory Verbal Learning Test Spanish version (RAVLT- S)を用いました。この検査は15単語を繰り返し記憶していく過程での成績を調べる(図1)。調べる成績は以下の5つとした。

  1. List Aの即時記憶
  2. List Bの即時記憶
  3. 学習率:List Aで5回の試行で獲得した単語数
  4. List B試行後のList Aの記憶率
  5. 忘却率:テスト終了の20分後にList Aの記憶
図1:Rey Auditory Verbal Learning Test

・脳画像は3.0TのMR装置(Philips)を用いて撮像し、FreeSurfer画像解析ソフトを用いて大脳皮質および小脳の体積を調べた。

結果

臨床評価

コントロールと患者は、性別、居住地域、年齢および教育レベルに有意差は認められなかった。

認知評価

RAVLT- SからList Bの即時記憶、学習率、List B試行後のList Aの記憶率がコントロールと比較して患者では有意に低かった。しかし、List Aの即時記憶と忘却率に有意な差は認められなかった。

臨床評価と脳体積の相関

・RAVLT- Sの学習率と右副海馬回の脳体積との間に正の相関が認められた(図2)。つまり学習率が悪いと海馬の体積も小さいということです。

図2

・SARAの運動スコア(指追跡テスト、指鼻テスト、手の回内外運動、踵脛テスト)と左外側後頭葉(図3上)、左右小脳小葉ⅧB、右小脳小葉Ⅰ,Ⅱ(図3下)との間に負の相関が認められました。つまり、運動失調が重度であるほど脳体積が小さいということです。

図3

まとめ

・脊髄小脳性運動失調7型(SCA7)の患者は聴覚と言語の学習と記憶および言葉の流暢さに重大な障害があることがわかり、さらに記憶と司る海馬の脳容量と相関があることがわかりました。

・運動失調の重症度と小脳小葉Ⅷ体積との間に相関があることがわかりました。この小脳小葉ⅧAおよびB領域は特に感覚運動に関連しており、人の機能的な脳地図と一致しています3,4)

参考文献

  1. Moriarty, A., Cook, A., Hunt, H., Adams, M. E., Cipolotti, L., & Giunti, P. (2016). A longitudinal investigation into cognition and disease progression in spinocerebellar ataxia types 1, 2, 3, 6, and 7. Orphanet Journal of Rare Diseases, 11, 82.
  2. Sokolovsky, N., Cook, A., Hunt, H., Giunti, P., & Cipolotti, L. (2010). A preliminary characterisation of cognition and social cognition in spinocerebellar ataxia types 2, 1, and 7. Behavioural Neurology, 23, 17–29.
  3. Stoodley, C. J., & Schmahmann, J. D. (2009). Functional topogra- phy in the human cerebellum: A meta- analysis of neuroimag- ing studies. NeuroImage, 44, 489–501.
  4. Stoodley, C. J., Valera, E. M., & Schmahmann, J. D. (2012). Functional topography of the cerebellum for motor and cognitive tasks: An fMRI study. NeuroImage, 59, 1560–1570.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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