一般向けノート

そろばん暗算が脳に及ぼす影響

そろばんを長年習っていた人は10桁を超える数学的問題を異常な速度と正確さで答える事が可能です。また、そろばんの暗算トレーニングは算術、短期記憶、課題の切り替えなどさまざまな要素を含む認知トレーニングにもなります。

本日は、そろばんの暗算トレーニングによって暗算していないとき(安静時状態)でも脳のどの領域の安静時機能的結合に変化があるかを示した論文を紹介します。

タイトル:Training on Abacus-based Mental Calculation Enhances Resting State Functional Connectivity of Bilateral Superior Parietal Lobules.

著者:Hui Zhou, Fengji Geng, Tengfei Wang, Chunjie Wang, Ye Xie, Yuzheng Hu and Feiyan Chen.

雑誌:Neuroscience. 2020;432:115-125.

研究の背景

そろばん暗算は加算、減算、乗算、除算、さらにルート計算など、さまざまな計算が可能です。そろばん暗算トレーニングは従来の言語ベースの暗算とは異なり、想像上のそろばん暗算(頭の中でそろばんを想像して暗算)に依存して計算します1)

そのため、言語戦略に加えて視空間戦略も重要であり、これまでの研究では課題中に前頭頭頂ネットワークが活性化すると報告されています2,3)

しかし、安静状態(課題中でないとき)でも前頭頭頂ネットワークがそろばん暗算トレーニングによって機能的結合が増加するのは不明です。

そのため、本研究の目的はそろばん暗算トレーニングによって短期記憶容量および前頭頭頂ネットワークの安静時機能的結合の変化を調べました。

方法

対象者

・対象は36名の大学生で、そろばん暗算トレーニンググループ(AMCグループ)(18名)とコントロールグループ(18名)に分けました。

・2つのグループ間のIQに差はなく、精神疾患や神経疾患の既往歴はありませんでした。

AMCトレーニング

・AMCグループは経験豊富なAMC教師による1日90分の講義を20日間受けました。トレーニングの数日後にはすべての被験者が指を動かすことなくメンタルそろばんを使って簡単な計算を行うことが可能になりました。

・被験者は5分間にできるだけ多くの問題を解決する必要があり、正しく回答された問題数が能力スコアとして定義しました。

・また、トレーニング前後で行動テスト(短期記憶課題)と安静時fMRIを撮像しました。

行動テスト(短期記憶課題)

・行動テストは数字記憶容量テストおよび文字記憶容量テストで構成されていました。

・数字記憶容量テストでは、ランダムの数字が聴覚的に提示され、被験者は数字を繰り返す必要がありました。数字列は4桁から始まり正解するごとに1桁増えていきました。もし、数字を繰り返した時に間違えた場合はそこでテストは終了しました。

・文字記憶容量テストでは、数字記憶容量テストと方法は同じで違う点は数字が文字に変更されただけでした。

安静時機能的結合

・AMCトレーニング前後で前頭頭頂ネットワークの安静時機能的結合に焦点を当てて解析しました。

結果

・短期記憶課題では、AMCグループは数字記憶容量テストおよび文字記憶容量テストの両方でトレーニング前と比較してトレーニング後では有意に記憶容量が増加していました(図1)。

図1:短期記憶課題

・頭頂前頭ネットワーク領域である、中前頭回(MFG)と上頭頂小葉(SPL)の機能的結合の平均強度をトレーニング前後で比較した結果、頭頂前頭ネットワーク内の結合強度がAMCグループで大幅に増加していました(図2)。

図2:中前頭回(MFG)と上頭頂小葉(SPL)の機能的結合の平均強度

・次にAMCトレーニング前後の安静時機能的結合を調べるために個々(18名)の安静時機能的結合の強さを4段階に分けて調べました。具体的には機能的結合が強い人(上位25%はレベル1)、次の25%の人はレベル2、次の25%の人はレベル3、そして下位25%の人はレベル4としました。結果は、どのレベルの安静時機能的結合でもトレーニング後は前と比較して有意に前頭頭頂ネットワークの安静時機能的結合が増加していました(図3)。

図3:AMCトレーニング前後の安静時機能的結合

まとめ

・本研究では20日間の短期AMCトレーニングにより前頭頭頂ネットワークの安静時機能的結合を調べました。

結果は、AMCグループではトレーニング後に前頭頭頂ネットワークの安静時機能的結合が大幅に増加しました。

・前頭頭頂ネットワークの活性化はAMCの研究で一貫して確認されており、数学的計算を含むAMCトレーニングの影響を受ける数値処理効率4)、実行機能5,6)およびワーキングメモリ7)などの認知能力に関連していることが明らかになっています。

被験者が頭の中でそろばん計算を実行するとき、視覚認識、数字の表示、そろばんの原理と数字の取得、中間結果の保持および更新を含むさまざまな認知プロセスを呼び出す必要があります。この複雑なプロセスを処理するため前頭頭頂ネットワークは重要な神経基盤であると理解できます8,9)

参考文献

  1. Li Y, Chen F, Huang W (2016) Neural plasticity following abacus training in humans: a review and future directions. Neural Plast 2016:1213723.
  2. Barner D, Alvarez G, Sullivan J, Brooks N, Srinivasan M, Frank MC (2016) Learning mathematics in a visuospatial format: a randomized, controlled trial of mental abacus instruction. Child Dev 87:1146–1158.
  3. Chen F, Hu Z, Zhao X, Wang R, Yang Z, Wang X, Tang X (2006) Neural correlates of serial abacus mental calculation in children: a functional MRI study. Neurosci Lett 403:46–51.
  4. Huan J, Du FL, Yao Y, Wan Q, Wang XS, Chen FY (2015) Numerical magnitude processing in abacus-trained children with superior mathematical ability: an EEG study. J Zhejiang Univ Sci B 16:661–671.
  5. Wang C, Geng F, Yao Y, Weng J, Hu Y, Chen F (2015) Abacus training affects math and task switching abilities and modulates their relationships in Chinese children. PLoS One 10.
  6. Wang C, Weng J, Yao Y, Dong S, Liu Y, Chen F (2017) Effect of abacus training on executive function development and underlying neural correlates in Chinese children. Hum Brain Mapp 38:5234–5249.
  7. Zhou H, Geng F, Wang Y, Wang C, Hu Y, Chen F (2019) Transfer effects of abacus training on transient and sustained brain activation in the frontal-parietal network. Neuroscience.408:135–146.
  8. Hanakawa T, Honda M, Okada T, Fukuyama H, Shibasaki H (2003) Neural correlates underlying mental calculation in abacus experts: a functional magnetic resonance imaging study. NeuroImage 19:296–307.
  9. Hatta T, Ikeda K (1988) Hemispheric specialization of abacus experts in mental calculation: Evidence from the results of time-sharing tasks. Neuropsychologia 26:877–893.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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