医療従事者・研究者用ノート

筋シナジーと脳内ネットワーク

人体には大小含めて約600を越える筋肉が存在します。例えば、何か物を取る動作1つにしても多くの筋肉が活動します。しかし、この多くの筋肉1つ1つを脳は制御しているわけではありません。脳は筋肉のシナジーと呼ばれる筋肉の協調パターンを柔軟に組み合わせることにより、体内の多数の筋肉の制御を単純化することでさまざまな動作が可能になっています。

本日紹介する論文は、筋シナジー制御の基礎となる神経のネットワークを調べた研究を紹介します。

タイトル:Brain Connectivity Associated with Muscle Synergies in Humans.

著者:Manku Rana, Moheb S. Yani, Skulpan Asavasopon, Beth E. Fisher and Jason J. Kutch.

雑誌:Journal of Neuroscience. 2015;35(44):14708-14716.

研究の背景

筋シナジーは人体の約600もの筋肉の制御を簡素化するために神経系の重要な戦略として以前から多くの論文で報告されています1,2,3)

筋シナジーは特定の機械的作用を生み出し、筋シナジーの柔軟な組み合わせにより、多くの動作が可能になると考えられています4,5)

この筋シナジーは脊髄回路で構成され6)、運動野などの領域によって活性化されます7)

しかし、筋シナジーの柔軟な組み合わせが動きを生み出すことを可能にする脳のネットワークは明らかではありません。

そのため、本研究の目的は、運動皮質領域が異なる標的筋をどのように活性化させるのか、運動皮質領域が他の部分とどのように機能的結合するのかを調べる事です。

方法

方法

被験者

16名の健常男性(平均年齢32.6±6.0歳)。

課題

・尿を我慢するときのように力を入れる。(肛門を締めるように力を入れる。)

・足指を曲げる。

測定

・最初に上記の2つの課題中に筋電図(肛門括約筋、長母指屈筋、背側骨間筋)を測定しました。また、最大随意収縮(MVC)を測定しました。

・次に2つの課題中のfMRIを測定しました。収縮の強度は最大随意収縮の20%としました。また安静時fMRIを測定しました。

・次に経頭蓋磁器刺激を用いて、fMRIで測定した結果から肛門括約筋および長母指屈筋の随意収縮に関連する領域を特定し、運動野領域で2つの関心領域(運動野の前方74.7%を前部モーター(Aモーター)と運動野の後方14.8%を後部モーター(Pモーター))を刺激し、肛門括約筋と長母指屈筋から運動誘発電位を計測しました。また、前部モーターの関心領域は肛門括約筋と長母指屈筋の両方に関与しており、後部モーターは肛門括約筋よりも長母指屈筋の方が活動していました。

結果

筋電図

図1Aは1名の筋電図波形、図1Bはグループ解析の筋電図の変化を示しています。長母指屈筋(FHL)の随意収縮中は長母指屈筋の収縮に加えて、肛門括約筋の収縮が見られました。一方で肛門括約筋(ASM)の随意収縮中は肛門括約筋の収縮のみ見られました。

図1

fMRI

・長母指屈筋と肛門括約筋の随意収縮中に中心前回の内側の活動が認められました(図2A,B)。

・長母指屈筋領域は、前部と後部の2つの機能的および解剖学的に異なる領域で構成されていました。また、後部は肛門括約筋の活動よりも長母指屈筋の活動の方が高いことがわかりました(図2C)。

・図2Dで示された領域は肛門括約筋および長母指屈筋の両方で活動しました。

図2

経頭蓋磁器刺激(TMS)

・TMSを使用して図3Aの2つの領域(AモーターとPモーター)を刺激して、運動誘発電位を記録しています。

・図3Bは1名の運動誘発電位を示しています。Aモーターの肛門括約筋ホットスポットを刺激すると肛門括約筋の運動誘発電位が出現しましたが、長母指屈筋の運動誘発電位は出現しませんでした。対照的にPモーターへの刺激は肛門括約筋と長母指屈筋の両方の運動誘発電位が出現しました。

・図3CはAおよびPモーター刺激に対する肛門括約筋と長母指屈筋の反応を示しています。肛門括約筋はAおよびPモーターの両方で反応を示したのに対して、長母指屈筋はPモーターのみ反応を示しました。

・図3DはAおよびPモーターの刺激強度の違いによる肛門括約筋と長母指屈筋の反応をグループデータで示しています。肛門括約筋はAおよびPモーターの両方の刺激強度の増加に伴って運動誘発電位は同様の増加を示したのに対して、長母指屈筋はPモーターのみ刺激強度の増加に伴って運動誘発電位は増加を示しました。

図3

安静時機能的結合

・AおよびBモーターがどの領域と機能的結合があったかを調べた結果、AモーターとPモーターで脳の異なる領域と機能的結合していることがわかりました。

・図4の赤色はAモーターと機能的結合がある部位、青色はPモーターと機能的結合がある部位を示しています。Aモーターは両側後島皮質、両側被殻および前帯状皮質と機能的結合がありました。Pモーターは楔前部、後帯状皮質、海馬、海馬傍回、舌状回および中前頭回と機能的結合がありました。

図4

まとめ

・本研究から、異なる運動皮質領域が異なる筋肉の筋シナジーを活性化させることをできることがわかりました。さらに運動野の個々の筋シナジーを制御している領域は皮質と皮質下の異なった領域と機能的結合していることがわかりました。

・つまり、特定の運動野の領域は、異なる筋シナジーを活性化させることが可能であり、異なった脳のネットワークが別の筋シナジーを調節できると結論付けられます。

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参考文献

  1. Bernstein NA (1967) The co-ordination and regulation ofmovements. Ox- ford: Pergamon.
  2. Bizzi E, Mussa-Ivaldi FA, Giszter S (1991) Computations underlying the execution of movement: a biological perspective. Science 253:287–291.
  3. Giszter S, Patil V, Hart C (2007) Primitives, premotor drives, and pattern generation: a combined computational and neuroethological perspective. Prog Brain Res 165:323–346.
  4. d’Avella A, Saltiel P, Bizzi E (2003) Combinations ofmuscle synergies in the construction of a natural motor behavior. Nat Neurosci 6:300–308.
  5. Kargo WJ, Giszter SF (2000) Rapid correction ofaimed movements bysum- mation of force-field primitives. J Neurosci 20:409–426.
  6. Cheung VC, Piron L, Agostini M, Silvoni S, Turolla A, Bizzi E (2009) Sta- bility of muscle synergies for voluntary actions after cortical stroke in humans. Proc Natl Acad Sci U S A 106:19563–19568.
  7. Waters-Metenier S, Husain M, Wiestler T, Diedrichsen J (2014) Bihemi- spheric transcranial direct current stimulation enhances effector- independent representations of motor synergy and sequence learning. J Neurosci 34:1037–1050.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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