医療従事者・研究者用ノート

バウリンガルの言語ネットワーク

大人になってから第二言語を習得しようとすることは大変です。私も英語には大変苦労しています。

第二言語の習得には臨界期があることがいろいろな論文で報告されています。

例えば、5歳以前1)、7歳以前2)、9歳以前3)が効果的であると報告はさまざまです。また、思春期以降の言語習得は難しいとの報告もあります4)

今回紹介する論文は、言語に関わる神経可逆性のメカニズムを明らかにすることを目的として、日本語と英語のバウリンガルを対象にfMRIを用いて言語ネットワークを調べている論文を紹介します。

タイトル:Functional MRI and Structural Connectome Analysis of Language Networks in Japanese-English Bilinguals.

著者:Mitsuhashi T, Sugano H, Asano K, Nakajima T, Nakajima M, Okura H et al.

雑誌:Neuroscience. 2020; 431: 17-24

研究の背景

言語機能は発話領域や聴覚領域間の皮質活動とこれらのネットワークから生じる高次脳機能です。言語の可逆性のメカニズムは、運動系などの他の機能メカニズムと比較して複雑です。この複雑さは皮質と皮質下のネットワークの両方から生じるため、両方を同時に調べる必要があります。

本研究では、バウリンガルによる第二言語の習得で生じるいくつかの変化は言語の神経可逆性のメカニズムを反映していると仮説を立てました。

これまでの研究では、5歳までに二言語を取得した人(同時バウリンガル)と5歳以降に二言語を習得した人(順次バウリンガル)を比較した場合、同時バウリンガルの場合では、灰白質の密度は左被殻、左後部島皮質、右背外側前頭前野および左右後頭皮質で増加し、順次バウリンガルの場合は両側運動前野で増加したと報告しています5)。また、拡散テンソル画像(DTI)を用いた研究では、同時バウリンガルの人は弓状束の線維の密度を増加させたとの報告があります6)。これまでの研究では、バウリンガルのような言語習得には、皮質および大脳基底核の領域と運動および言語機能に関するネットワークが重要であると考えられてきました。

本研究では、物語を聞いている時の皮質と大脳基底核の活動をfMRIを用いて調べ、DTIを用いて皮質下線維の数を調べました。

方法

被験者

参加者は42人の日本人の大学生(医学、医療、看護)でした。

参加者は全員、第一言語を日本語としており、毎日日本語を話しています。

参加者を次の3つのグループに分けました。

・日本語のみ話せるグループ(12名)

・日本語と英語を話せるバウリンガルで7歳以前に英語を習得したグループ(17名)(初期バウリンガル)

・日本語と英語を話せるバウリンガルで7歳以降に英語を習得したグループ(17名)(後期バウリンガル)

バウリンガルである条件は次のように定義しました。

・英語を第一言語とする人と英語で問題なくコミュニケーションができる

・日本語を第一言語として流暢に話す事ができる

・少なくとも1年間は英語圏の国に移住していた

・居住時の年齢に応じて、英語圏の国でネイティブの英語教育を受けていた

・英語圏に居住している間は主に自宅では日本語、自宅外では英語でコミュニケーションを取っていた

・日本人の両親がいた

・認定された英語資格を取得し、レベルの高い分類であった

日本語のみ話す参加者は12歳の中学校から標準の英語教育を受けていました。

fMRI

2つの物語(一寸法師(日本語)とピータラビット(英語))を聞いている時のBOLD反応を調べました。

被験者には日本語と英語の物語からなる2つの異なる音声が聞こえる事、実験後に物語対するいくつかの質問があることを伝えています。実験後に物語のタイトルと内容について質問することで物語の理解度を確認しました。

DTI

白質と灰白質で83個の関心領域に分けて、領域間の線維の数を調べました。

結果

各グループでの脳活動

図1は物語を聞いている時の3グループの脳活動を示しています。

図1

一寸法師を聞いている時の日本語のみグループでは、左中側頭回に正のBOLD反応、両楔前部、両角回、左帯状回、左上前頭回、左上側頭回内側壁、左下前頭回および右中前頭回で負のBOLD反応が認められました(図1A)。

ピータラビットを聞いている時の後期バウリンガルグループでは、両側中側頭回、両側頭極、両中心回、左上側頭回および左下前頭回で正のBOLD反応、右楔前部、左帯状回、右角回、両上頭頂小葉、両中前頭回および両上前頭回で負のBOLD反応が認められました(図1B)。

ピータラビットを聞いている時の初期バウリンガルグループでは、両上側頭回、右中側頭回、左側頭平面および左前中心回で正のBOLD反応、両帯状回、両楔前部、右角回および左縁上回で負のBOLD反応が認められました(図1C)。

グループ間での比較

図2は3つのグループ間での比較を示しています。

図2

後期バウリンガルグループは日本語のみグループと比較して、右被殻、左淡蒼球、両上側頭回、両側頭極、両帯状回、両楔前部および両中心前回で大きいBOLD反応が認められました(図2A)。

初期バウリンガルグループは日本語のみグループと比較して、両被殻、両上側頭回、右帯状回および左中心前回で大きいBOLD反応が認められました(図2B)。

後期バウリンガルグループは初期バウリンガルグループと比較して、右海馬、左側頭極、左帯状回および左楔前部で大きいBOLD反応が認められました(図2C)。

神経線維の比較

図3は右被殻-右中心前回間(左グラフ)と左上側頭回-左縁上回間(右グラフ)の神経線維の数を3つのグループで比較しています。

図3

初期バウリンガルグループの右被殻-右中心前回間の神経線維の数は他の2つのグループよりも有意に高かった。

後期バウリンガルグループの左上側頭回-左縁上回間の神経線維の数は他の2つのグループよりも有意に低かった。

まとめ

・初期および後期のバウリンガルグループは、右被殻と両上側頭回で日本語のみのグループよりも大きいBOLD反応を示しています。この結果は、バウリンガルグループは第二言語を理解するために右半球を使っていることを示唆しています。また、上側頭回は言語の切り替えに重要な領域の1つであるとされており、言語処理に必要な注意の領域であると報告されています7)

・初期バウリンガルグループは他のグループと比較して、右被殻と両中心前回間に強い結合性を示しました。この結果は、初期バウリンガルは右皮質‐大脳基底核ネットワークを調整している可能性があります。初期バウリンガルの第二言語の学習には、感覚運動処理と前頭‐基底核回路を優先的に使用していることが示唆されています8)。また、右前中心前回は、バウリンガル言語の切り替えの重要な領域の1つであることが報告されています9)。これらのことから、皮質‐大脳基底核ネットワークは新しい言語を習得に関係している可能性があります。

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参考文献

  1. Krashen, S. (1973) Lateralization language learning and the critical period: Some new evidence. Language Learning 23:63-74.
  2. Johnson JS, Newport EL (1989) Critical period effects in second language learning: the influence of maturational state on the acquisition of English as a second language. Cogn Psychol 21:60–99.
  3. Penfield, W and Roberts, L. (1959) Speech and brain-mechanisms. Princeton, NJ: Princeton University Press.
  4. Lamendella, J. (1977) General principles of neurofunctional organization and their manifestationsin primary and non-primary language acquisition. Language Learning 27:155-196.
  5. Berken JA, Gracco VL, Chen JK, Klein D (2016b) The timing of language learning shapes brain structure associated with articulation. Brain Struct Funct 221:3591–3600.
  6. Ha¨ma¨ la¨ inen S, Sairanen V, Leminen A, Lehtonen M (2017) Bilingualism modulates the white matter structure of language- related pathways. Neuroimage 152:249–257.
  7. Luk G, Green DW, Abutalebi J, Grady C (2011) Cognitive control for language switching in bilinguals: a quantitative meta-analysis of functional neuroimaging studies. Lang Cogn Process 27:1479–1488.
  8. Hernandez A, Li P, MacWhinney B (2005) The emergence of competing modules in bilingualism. Trends Cogn Sci 9:220–225.
  9. Luk G, Green DW, Abutalebi J, Grady C (2011) Cognitive control for language switching in bilinguals: a quantitative meta-analysis of functional neuroimaging studies. Lang Cogn Process 27:1479–1488.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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