医療従事者・研究者用ノート

高齢者の認知機能と歩行速度の関係

歩行速度の違いやゆっくりとした動きまたは速い動きは活動する脳領域が異なることが報告されています。また、高齢者では歩行速度が速いと認知機能が高いとの報告もあります。

本日紹介する論文は、ある認知課題を行ったときの脳活動と4つの異なる条件下での歩行との関係を調べた研究を紹介します。

タイトル:Spatial task-related brain activity and its association with preferred and fast pace gait speed in older adults.

著者:Gonzales. JU, Al-Khalil, O’Boyle M.

雑誌:Neurosci Lett. 2019;713:1-14

研究の背景

歩行能力は歩行速度で報告されることが多いが、速い歩行速度の高齢者は実行機能、記憶および処理速度のテスト中の精度や反応時間に関して、高い認知機能を持っていることが報告されています1,2)。これは、認知機能が加齢に伴う運動性の維持にも重要であることを意味すると解釈されてきました。

また、さまざまな速度で実行される運動の脳活動は努力の強さに応じて活動する脳領域が異なることがわかっています。例えば、足のゆっくりとした動きは両側前頭前野が活性化し、速い動きは感覚運動領域が活性化します3)。また、歩行や障害物を跨ぐイメージをしたときにもさまざまな脳領域が活動すると報告されています4)

本研究ではfMRIを用いて認知課題中の脳活動とさまざまな条件下(最適、速い、dual task)での歩行との関係を調べました。

方法

被験者

63~80歳の20名(男性9名、女性11名)でした。

歩行課題

被験者は7メートルの距離を以下の4つの条件で歩行しました。

・条件1:最適な歩行速度(教示は「郵便ポストを確認しに行くかのうように歩く」)

・条件2:最適な歩行速度で途中に落ちている物を拾う

・条件3:速い歩行速度(教示は「できるだけ早く歩く」)

・条件4:速い歩行速度で途中に設置されている2つの障害物を跨ぐ(障害物の高さは6cmと30cm)

また、参加者は速い歩行速度で400m歩くように求められました。

fMRI

・20チャネルのヘッドコイルで3テスラのMRI装置を用いて、撮像を行いました。

・被験者はMRI撮像中に8分間のサイモン課題(120試行)を行いました(図1)。

図1

・サイモン課題とは、画面に「右」「左」や矢印など提示して、被験者は左右のキーを押す課題で、その際にその文字や矢印を出す位置を上下左右に変化させる。例えば、このとき、右側に「左」や左方向の矢印を出すと高確率で誤って右キーを押すか、左キーを押すのに時間がかかる。これをサイモン効果といいます。

・サイモン課題は正答率と反応時間を計算しました。

・fMRIの解析は、以前の報告5,6)でサイモン課題中に活動する脳領域である、中前頭回、上頭頂小葉、楔前部、上外側後頭皮質を関心領域としました。

結果

表1はサイモン課題(不一致条件)の正答率と反応時間および4つの関心領域と4つの歩行条件の相関関係の結果を示しています。

表1

正答率は速い歩行条件と関連がありました。

最適歩行速度は左中前頭回と関連がありました。

速い歩行速度は右上頭頂小葉、両楔前部、両上外側後頭皮質と関連がありました。

障害物を跨ぐは左中前頭回、両楔前部、両上外側後頭皮質と関連がありました。

まとめ

・異なる歩行速度によって脳活動部位が異なることが明らかになりました。

・特に速い歩行速度や障害物を跨ぐ動作は楔前部の活動が認められました。楔前部は皮質と皮質下ネットワークの「ハブ」であることが報告されています7)。以前の報告では、今回のようなサイモン課題の不一致条件において成功(正解)した場合にのみ、高齢者の場合は楔前部の活動が増加すると報告されています8)

・今回の結果から高齢者において以前に報告1,2)されている速い歩行速度に加えて、障害物を跨ぐ動作を行う事によって認知機能を維持または向上させることができる可能性があります。

参考文献

  1. Martin KL, Blizzard L, Wood AG, Srikanth V, Thomson R, Sanders LM, Callisaya ML, Cognitive function, gait, and gait variability in older people: a population-based study, J. Gerontol. A Biol. Sci. Med. Sci, 68 (2013) 726–732.
  2. Mielke MM, Roberts RO, Savica R, Cha R, Drubach DI, Christianson T, Pankratz VS, Geda YE, Machulda MM, Ivnik RJ, Knopman DS, Boeve BF, Rocca WA, Petersen RC, Assessing the temporal relationship between cognition and gait: slow gait predicts cognitive decline in the Mayo Clinic Study of Aging, J. Gerontol. A Biol. Sci. Med. Sci, 68 (2013) 929–937.
  3. Sauvage C, Jissendi P, Seignan S, Manto M, Habas C, Brain areas involved in the control of speed during a motor sequence of the foot: Real movement versus mental imagery, J. Neuroradiol, 40 (2013) 267–280.
  4. Malouin F, Richards CL, Jackson PL, Dumas F, Doyon J, Brain activations during motor imagery of locomotor-related tasks: A PET study, Hum. Brain Mapp, 19 (2003) 47–62.
  5. Peterson BS, Kane MJ, Alexander GM, Lacadie C, Skudlarski P, Leung HC, May J, Gore JC, An event-related functional MRI study comparing interference effects in the Simon and Stroop tasks, Cogn. Brain Res, 13 (2002) 427–440.
  6. Liu X, Banich MT, Jacobson BL, Tanabe JL, Common and distinct neural substrates of attentional control in an integrated Simon and spatial Stroop task as assessed by event-related fMRI, NeuroImage, 22 (2004) 1097–1106.
  7. Cavanna AE, Trimble MR, The precuneus: a review of its functional anatomy and behavioural correlates, Brain, 129 (2006) 564–583.
  8. Onur ÖA, Piefke M, Lie CH, Thiel CM, Fink GR Modulatory effects of levodopa on cognitive control in young but not in older subjects: a pharmacological fMRI study. J. Cogn. Neurosci 23[10], 2797–2810. 2011.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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