医療従事者・研究者用ノート

脊髄損傷と認知機能

本日は、脊髄損傷患者の認知機能について調べたレビュー論文を紹介します。

タイトル:Cognitive function after spinal cord injury: A systematic review.

著者:Sachdeva R, Gao F, Chan C.H and Krassioukov AV.

雑誌:Neurology. 2018; 91(13): 611-621.

研究の背景

脊髄損傷は、身体的および精神的に衰弱させる事象であり、本人は即時かつ永久的に人生の変化に直面します。1940年代以前は脊髄損傷により長く生き残れた人は10〜20%のみでした1)。現在では、医療の発展により損傷後1年間の生存率は90%であり、50%近くが40年間生存すると報告されています2)。これにより脊髄損傷に対するリハビリテーションが拡大し、患者は生存と身体機能の回復だけではなく社会復帰も可能となりました。そのため、患者は学習や実践、新しいスキルといった社会復帰するためのリハビリテーションを受ける必要があります。しかし、新しいスキルを身に付けるなど社会復帰までのリハビリテーションには記憶や学習、社会的コミュニケーションなどの認知機能が必要不可欠です。そのため、脊髄損傷後の生活の質を改善するためには、認知状態も評価する必要があります。

脊髄損傷後の認知機能の研究は多くあります。例えば、脊髄損傷患者では64%が認知障害を起こしているという報告3)やさまざまな認知障害、うつ病や不安症などの存在が確認されています4,5,6)。最近の報告によると、脊髄損傷後の認知障害は健常者よりも13倍高いとの報告もあります7)

しかし、過去の認知機能を調べた研究の結果は、発生率と損傷の程度によって異なります。これは、使用されたテストの種類、病変の神経学的レベル、年齢、教育的背景、病前、心理的、学習障害、アルコールと薬物乱用などのさまざまな要因が原因である可能性があります。さらに、TCI、うつ病、不安、痛み、疲労、心血管機能障害、睡眠時無呼吸など、SCI患者に共通して見られる他の二次的状態の影響を調査することも必要です。

本研究の目的は、個々の脊髄損傷患者の認知障害の発生率を体系的に調査し、寄与因子を特定することとしました。

方法

・脊髄損傷後の認知能力を定量的に報告する研究は、Medline、CINAHL、EmbaseおよびPsycINFOから検索しました。

・2人の査読者が以下の論文を適正の論文であるかを評価しました。

・脊髄損傷後の認知機能を調査している論文、認知機能評価は主要な目的ではないが定量的に評価されている論文を対象としました。

結果

・合計2481件の研究をスクリーニングし、合計70件の論文を対象としました。

・21件は脊髄損傷患者と健常者群の認知機能を比較しており、49件は脊髄損傷以外の非健常者群と比較していました。

脊髄損傷後の認知障害

健常者と比較した21件の研究のうち、15件は認知障害を示し、6件は有意差を認めなかったと報告しています。

脊髄損傷以外の非健常者群と比較した49件の研究のうち、23件は認知機能に重大な障害を示したが、26件は認知機能は標準範囲内であったと報告しています。

これらの重大な認知機能の要因として、外傷性脳損傷が併発していることで認知障害の発生率は72.3%でした。また、外傷性脳損傷を併発していない人でも認知障害の発生率10〜40%でした。

また、外傷性脳損傷を併発していない脊髄損傷で17年経過した慢性患者を対象とした研究では、記憶、注意、実行機能および空間認知能力はコントロールと差はなく、課題の処理速度のみが41%で低下していると報告しています。しかし、このグループのその後の追加研究によると患者の60%が少なくとも記憶、注意、実行機能および空間認知能力のうち1つの認知機能障害が認められたと報告しています8)

まとめ

・外傷性脳損傷を併発している脊髄損傷患者では認知機能障害の発生率は72.3%であった。

・外傷性脳損傷を併発していない脊髄損傷患者でも60%は少なくとも記憶、注意、実行機能および空間認知能力の1つに認知機能低下が認められた。

・脊髄損傷患者のリハビリテーション介入には身体機能だけではなく、認知機能を評価することも重要である。

参考文献

  1. History of treatment of spinal cord injuries. MD State Med J 1970;19:109–112.
  2. Middleton JW, Dayton A, Walsh J, Rutkowski SB, Leong G, Duong S. Life expectancy after spinal cord injury: a 50-year study. Spinal Cord 2012;50:803–811.
  3. Wilmot CB, Cope DN, Hall KM, Acker M. Occult head injury: its incidence in spinal cord injury. Arch Phys Med Rehabil 1985;66:227–231.
  4. Sakakibara BM, Miller WC, Orenczuk SG, Wolfe DL, Team SR. A systematic review of depression and anxiety measures used with individuals with spinal cord injury. Spinal Cord 2009;47:841–851.
  5. Craig A, Tran Y, Middleton J. Psychological morbidity and spinal cord injury: a sys- tematic review. Spinal Cord 2009;47:108–114.
  6. van Leeuwen CM, Kraaijeveld S, Lindeman E, Post MW. Associations between psychological factors and quality of life ratings in persons with spinal cord injury: a systematic review. Spinal Cord 2012;50:174–187.
  7. Craig A, Guest R, Tran Y, Middleton J. Cognitive impairment and mood states after spinal cord injury. J Neurotrauma 2017;34:1156–1163.
  8. DowlerRN,O’Brien SA,HaalandKY,HarringtonDL, Feel F, Fiedler K. Neuropsychological functioning following a spinal cord injury. Appl Neuropsychol 1995;2:124–129.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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