医療従事者・研究者用ノート

パーキンソン病の 二重課題トレーニングの効果

パーキンソン病患者の歩行障害は、二重課題条件下で著明に出現します。パーキンソン病のリハビリテーションには、さまざまな二重課題の歩行パフォーマンスを向上するようなトレーニングを提供することが重要です。

本日は、パーキンソン病患者に対して、認知的二重課題と運動的二重課題トレーニングの効果について調べた論文を紹介します。

タイトル:Cognitive and motor dual task gait training exerted specific training effects on dual task gait performance in individuals with Parkinson’s disease: A randomized controlled pilot study .

著者:Yang UR, Cheng SJ, Lee YJ, Liu YC, Wang RY

雑誌:PLoS ONE. 2019; 14(6): 1-12.

研究の背景

パーキンソン病は、運動機能や歩行機能障害を引き起こす神経変性疾患です。二重課題での歩行は日常生活に欠かせない歩行機能です。日常生活では、友人と話しながら歩行する(認知的二重課題)、一杯のコーヒーを持ちながら歩行する(運動的二重課題)など同時に認知的あるいは運動的課題を実行しながら歩行する必要があります。パーキンソン病患者は、二重課題条件下での歩行は、歩行速度の低下や小刻み歩行、すくみ足が著明になることが報告されています1,2,3)

運動能力獲得の初期段階では、脳のさまざまな領域が活動することで運動は学習され、続いて自動的になります。この自動化は主に大脳基底核によって制御されていると考えられています4)。パーキンソン病患者でも、パフォーマンスに注意を向けるとすでに獲得されている動作が生成されます。しかし、二重課題中の歩行では注意は認知的課題や運動的課題の実行に関与し、機能が低下している大脳基底核がより自動化された歩行を調整する必要があります。したがってパーキンソン病患者では通常歩行に比べて二重課題での歩行は小刻み歩行やすくみ足が著名になるということになります。

一方で、慢性脳卒中患者に対する認知課題を伴う歩行トレーニングが認知的二重課題の歩行パフォーマンスを改善するということが報告されています5)。しかし、パーキンソン病患者を対象とした認知的および運動的な二重課題の歩行トレーニングによって歩行パフォーマンスを向上させるかは明らかではありません。

そのため、本研究の目的は、パーキンソン病患者に対して認知的および運動的な二重課題歩行トレーニングが歩行パフォーマンスの向上につながるかを調べました。

方法

・参加は18名のパーキンソン病患者でした。

・参加者を3つのグループ(認知的二重課題グループ、運動的二重課題グループ、一般的な歩行グループ)に分けました(それぞれの6名の被験者数)。

・1回のトレーニングは30分間で週3回、4週間行いました(合計12回)。

・認知的二重課題トレーニングは以下を行いました。

 ・単語を繰り返しながら歩く

 ・足し算および引き算しながら歩く

 ・簡単な質問に「はい」または「いいえ」で答えながら歩く

 ・買い物リストを暗唱しながら歩く

 ・短い文章を暗唱しながら歩く

 ・話しながら歩く

 ・歌いながら歩く

・運動的二重課題トレーニングは以下を行いました。

 ・両手でボール(直径20cm)を保持しながら歩く

 ・両手でバスケットボール(直径24.6cm)をドリブルしながら歩く

 ・どちらかの手でバスケットボールをドリブルしながら歩く

 ・どちらかの手でバスケットボールをドリブルし、もう一方の手で別のボールを持ちながら歩く

・一般的な歩行グループは、平地で一般的な歩行トレーニングを受けました。

・歩行パフォーマンスの評価には、(1)最適歩行(普通に歩く)、(2)数字を3ずつ減算して歩く、(3)ボトルが乗ったトレーを両手で持って歩くの3課題を行いました。練習や疲労の影響を避けるために3つの条件をランダムで実施し、各条件間で60秒休憩してそれぞれの課題を3回ずつ実施しました。

結果

・認知的二重課題(数字を3ずつ減算して歩く)での認知的二重課題グループは、トレーニング前と比較して、歩幅が19%増加し、両足接地時間が19.8%減少しました。また、両足接地時間の減少は運動的二重課題グループと一般的な歩行グループと比較して有意に大きかった。

・運動的二重課題(トレイを運んで歩く)での運動的二重課題グループは、トレーニング前と比較して、両足接地時間が8.2%減少しました。しかし、他のグループとの比較では有意差は認められませんでした。

まとめ

・認知的二重課題の歩行トレーニングは小刻み歩行とすくみ足に対して有効であることがわかりました。

・運動的二重課題の歩行トレーニングはすくみ足に対して有効であることがわかりました。

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参考文献

  1. O’Shea S, Morris ME, Iansek R. Dual task interference during gait in people with Parkinson disease: effects of motor versus cognitive secondary tasks. Phys Ther. 2002; 82(9):888–97.
  2. Heinzel S, Maechtel M, Hasmann SE, Hobert MA, Heger T, Berg D, et al. Motor dual-tasking deficits predict falls in Parkinson’s disease: A prospective study. Parkinsonism Relat Disord. 2016; 26:73–7.
  3. Rochester L, Hetherington V, Jones D, Nieuwboer A, Willems AM, Kwakkel G, et al. Attending to the task: interference effects of functional tasks on walking in Parkinson’s disease and the roles of cogni- tion, depression, fatigue, and balance. Arch Phys Med Rehabil. 2004; 85(10):1578–85.
  4. Takakusaki K, Oohinata-Sugimoto J, Saitoh K, Habaguchi T. Role of basal ganglia-brainstem systems in the control of postural muscle tone and locomotion. Prog Brain Res. 2004; 143:231–7.
  5. Liu YC, Yang YR, Tsai YA, Wang RY. Cognitive and motor dual task gait training improve dual task gait performance after stroke—A randomized controlled pilot trial. Sci Rep. 2017; 7(1):4070.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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