医療従事者・研究者用ノート

病態失認に関連する線維束

脳卒中により損傷と対側の上下肢に片麻痺が出現することにより、一瞬にしてその人の人生は大きく変わります。大抵の人は片麻痺という事実を認識します。しかし、脳損傷後の一部の患者では、片麻痺を認めないことがあります。これを病態失認と呼びます。

本日は、病態失認に関連する神経線維束について調べた論文を紹介します。

タイトル:Multiple Network Disconnection in Anosognosia for Hemiplegia.

著者:Monai E, Bernoccgi F, Bisio M, Bisogno AL, Salvalaggio A and Corbetta M

雑誌:Frontiers in Systems Neuroscience. 2020; 14: 1-12

研究の背景

病態失認はまだ完全には解明されていない現象です。片麻痺の病態失認は通常脳卒中後の患者が運動障害を認識できない症候群のことを指します。病態失認があることでリハビリテーションへの悪影響が報告されています1)

運動制御や運動認識は前運動野、補足運動野、後頭頂皮質および前頭前皮質の前頭-頭頂回路2)が関係していると報告されています3,4)。これらの領域はフィードフォワードおよびフィードバック信号により予期や意図された運動状態をコード化します。

これまでの研究から前頭-頭頂回路に加えて、感覚運動領域、側頭-頭頂接合部、大脳基底核に損傷があることで、感覚フィードバックの障害またはフィードフォワードの欠如または内部予測の欠如による実際の運動との間の「比較器」の障害の重要性を強調していました5,6,7)

しかし、最近では運動制御系以外のシステムの関連も報告されています。例えば、島皮質の損傷によって身体表現および身体図式の障害や前頭前皮質と前頭-線条体回路の損傷による認知制御のメカニズムの障害が病態失認に関与することを報告しています8,9)。このように病態失認は運動制御系以外の広範囲にわたるネットワーク機能の失調と関連していることが明らかになっています10,11)

本研究では、損傷領域と神経線維束損傷の観点から病態失認の関連を調べました。

方法

・被験者はCorbetta et al.10) に記載されているコホート研究(n=132人)から病態失認がある片麻痺患者(35名)と病態失認がない片麻痺患者(28名)が選出されました。

・全被験者はコホート研究でMRIを既に撮像しており、そのデータを使用して損傷領域と損傷線維を特定するための解析を行いました。

結果

・図1は病態失認がある患者(赤色)とない患者(青色)の損傷領域について示しています。損傷領域は両群ともに前頭葉、側頭葉、頭頂葉の広範囲および皮質下領域では大脳基底核、視床、島皮質に損傷が認められ、損傷領域による差は認められませんでした。

図1

・図2は病態失認に関連していた線維束を示しています。病態失認がない患者と比較して、病態失認がある患者では、弓状束(前部および後部線維)、前頭-島線維束、上縦束Ⅲが関連していました。

図2

まとめ

・病態失認は以前に報告されていた運動制御系の機能障害のみでなく、認知機能に関連する広範囲なネットワークの失調であることが示唆されました。

・特に半側空間無視に関連する上縦束Ⅲや弓状束、痛みや認知機能に関連する前頭-島皮質を繋ぐ線維束の損傷により病態失認が出現しやすいことがわかりました。

参考文献

参考文献

  1. Vocat, R., Staub, F., Stroppini, T., and Vuilleumier, P. (2010). Anosognosia for hemiplegia: a clinical-anatomical prospective study. Brain 103, 385–386.
  2. Haggard, P. (2005). Conscious intention and motor cognition. Trends Cogn. Sci. 9, 290–295.
  3. Frith, C. D., Blakemore, S. J., and Wolpert, D. M. (2000). Abnormalities in the awareness and control of action. Philos. Trans. R. Soc. B Biol. Sci. 355, 1771–1788.
  4. Desmurget, M., and Sirigu, A. (2009). A parietal-premotor network for movement intention and motor awareness. Trends Cogn. Sci. 13, 411–419.
  5. Berti, A., Bottini, G., Gandola, M., Pia, L., Smania, N., Stracciari, A., et al. (2005). Neuroscience: shared cortical anatomy for motor awareness and motor control. Science 309, 488–491.
  6. Fotopoulou, A., Tsakiris, M., Haggard, P., Vagopoulou, A., Rudd, A., and Kopelman, M. (2008). The role of motor intention in motor awareness: an experimental study on anosognosia for hemiplegia. Brain 131(Pt 12), 3432– 3442.
  7. Heilman, K. M. (2014). Possible mechanisms ofanosognosia ofhemiplegia. Cortex 61, 30–42.
  8. Craig, A. D. (2009). How do you feel – now? The anterior insula and human awareness. Nat. Rev. Neurosci. 10, 59–70.
  9. Vocat, R., Saj, A., and Vuilleumier, P. (2013). The riddle of anosognosia: Does unawareness of hemiplegia involve a failure to update beliefs? Cortex 49, 1771–1781.
  10. Corbetta, M., Ramsey, L., Callejas, A., Baldassarre, A., Hacker, C. D., Siegel, J. S., et al. (2015). Common behavioral clusters and subcortical anatomy in stroke. Neuron 85, 927–941.
  11. Ramsey, L. E., Siegel, J. S., Lang, C. E., Strube, M., Shulman, G. L., and Corbetta, M. (2017). Behavioural clusters and predictors of performance during recovery from stroke. Nat. Hum. Behav. 1:0038.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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