医療従事者・研究者用ノート

レビー小体型認知症の認知変動に関連する脳内ネットワーク

レビー小体型認知症はアルツハイマー型認知症に次いで2番目に多く、認知症の症例の15~20%を占めます。レビー小体型認知症の最も特徴的な症状は認知機能の変動です。この変動の周期性や持続時間は同じ人であっても数分もあれば数ヶ月の場合もありさまざまです。また、神経機構も明確ではありません。

本日は、レビー小体型認知症を構造的側面と機能的側面の両方を評価することで認知変動に関する神経機構に関する知見を明確にすることを目的とした論文を紹介します。

タイトル:Changes in gray matter volume and functional connectivity in dementia with Lewy bodies compared to Alzheimer’s disease and normal aging: implications for fluctuations.

著者:Chabran E, Noblet V, Sousa PL, Demuynck C, Philippi N, Mutter C, Anthony P, et al.

雑誌:Alzheimer’s Research and Therapy. 2020; 12(1): 1-13.

研究の背景

レビー小体型認知症(DLB)はアルツハイマー型認知症に次いで2番目に多い認知神経変性疾患です。DLBは認知症の症例の15~20%を占めます。

DLBを特徴づける臨床症状は、認知機能の変動、幻視・妄想、睡眠行動障害、パーキンソン症状です。

これらの症状のうち、認知機能の変動は最も典型的であり、最も理解されていない部分です。この症状はDLBの80~90%で発生し1)、時間の経過とともに精神状態と行動に実質的な変化をもたらし、課題パフォーマンスの低下、一貫性のない発話と行動など生活の質に大きな影響を与えます2)。この変動の周期性や持続時間は同じ人であっても数分や1日、数ヶ月の範囲まで変動します。

いくつかの研究によると視床の腹外側核領域や前頭前皮質の萎縮による脳の構造変化3,4)や右中前頭回と右外側頭頂皮質間や左前頭-頭頂ネットワークの機能的結合の低下と認知機能変動の重症度と頻度との間に正の相関が認められたと報告しています5,6)

これらの報告から認知変動に関連する部位やネットワークは一部ではなく広範囲の領域やネットワークが関連していることが示唆されます。

本研究の目的は、構造的側面と機能的側面の両方を評価することで認知変動に関する神経機構に関する知見を明確にすることです。

方法

・被験者はレビー小体型認知症患者92名、アルツハイマー型認知症患者70名、健常高齢者22名を対象としました。

・臨床評価はMMSEと認知機能変動を評価するMayo Clinic Fluctuation Scale7)を調べました。

・MR撮像は3TのMR装置を用いて構造画像と安静時脳活動を調べました。

・機能的結合の解析は主に図1のネットワークを調べました。

図1

・図1の簡単な説明を下記にしておきます。

 ・デフォルトモードネットワークはリラックスしているときにこのネットワークが活動します。この部分は自己認識、見当識、記憶に関わる役割があります。

 ・背側注意経路は頭頂間溝と前頭前野を結ぶネットワークで上縦束Ⅱ、Ⅲがこのネットワークを担っています。選択的注意や持続的注意、トップダウン的注意に関連しています。

 ・サリエンシーネットワークはコミュニケーションに関与しています。ブローカ野やウェルニッケ野のような言語のコミュニケーションとは少し違い社会性のコミュニケーション、つまり自己と他者との関係を認識する役割があります。さらに、デフォルトモードネットワークと背側注意経路間の切り替えの役割があります。

 ・前頭-頭頂ネットワークは、主に自己と他者との位置判断に関連しています。例えば、この距離なら手を伸ばしたら届くだろうとか届かないだろうというときにこのネットワークが働きます。さらに上縦束Ⅰがこのネットワークを担っており、運動の制御に関連しています。

結果

・図2は健常高齢者と比較したアルツハイマー型認知症(A)とレビー小体型認知症(B)の脳構造を示しています。また、Cはアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の比較を示しています。

図2

アルツハイマー型認知症では、内側側頭葉領域(海馬、海馬傍回、扁桃体を含む)の広範囲に萎縮が認められました。レビー小体型認知症では、側頭葉、島皮質、前頭葉領域に萎縮が認められました。また、アルツハイマー型認知症では、レビー小体型認知症と比較して内側側頭葉領域(海馬、海馬傍回、扁桃体を含む)に萎縮が認められました。

・図3は健常高齢者と比較したアルツハイマー型認知症(C)とレビー小体型認知症(A)の機能的結合を示しています。また、Bはアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の比較を示しています。

図3

レビー小体型認知症は、サリエンシーネットワークの機能的結合が有意に低下していました。また、前頭-頭頂ネットワーク内や前頭-頭頂ネットワークと背側注意経路間の機能的結合も低下が認められました。一方で、デフォルトモードネットワークの内側前頭前皮質とサリエンシーネットワークの右吻側前頭前皮質や前頭-頭頂ネットワークの右中前頭皮質間の機能的結合は増加していました。

アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症を比較するとレビー小体型認知症では、サリエンシーネットワーク内や他の3つのネットワーク間の機能的結合の低下が認められました。一方で、デフォルトモードネットワーク内や背側注意経路の頭頂間溝と前頭-頭頂ネットワークの外側前頭前野間の機能的結合が増加していました。

・レビー小体型認知症では、認知機能変動スコアと左吻側前頭前皮質と左前頭眼野間、左前部島皮質と右前頭眼野間、右前部島皮質と左視床間の機能的結合のスコアに正の相関が認められました。

まとめ

本研究では、構造的側面と機能的側面の両方から認知変動について調べました。認知変動は構造的な変化、すなわち萎縮などではなく広範囲な脳のネットワークの失調によって引き起こされている可能性があることが示唆されました。

特にサリエンシーネットワークとその他のネットワークとの失調である可能性が示唆されました。サリエンシーネットワークがデフォルトモードネットワークや背側注意経路との機能的結合が低下するということはサリエンシーネットワークの1つの役割でもあるデフォルトモードネットワークと背側注意経路間の切り替えが困難になることになります。

したがって、内的および環境的刺激に応じて、ある認知状態から別の認知状態への移行が困難になることを意味しています。

これらの結果は、今後のさらなる認知変動の神経機構(大規模なネットワーク)を調査するための重要な知見となります。

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参考文献

  1. McKeith IG, Boeve BF, Dickson DW, Halliday G, Taylor J-P, Weintraub D, et al. Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies: Fourth consensus report of the DLB Consortium. Neurology. 2017;89(1):88–100.
  2. Ballard C, O’Brien J, Gray A, Cormack F, Ayre G, Rowan E, et al. Attention and fluctuating attention in patients with dementia with Lewy bodies and Alzheimer disease. Arch Neurol. 2001;58(6):977–82.
  3. Delli Pizzi S, Franciotti R, Taylor J-P, Thomas A, Tartaro A, Onofrj M, et al. Thalamic involvement in fluctuating cognition in dementia with Lewy bodies: magnetic resonance evidences. Cereb Cortex. 2015;25(10):3682–9.
  4. Watson R, Colloby SJ, Blamire AM, Wesnes KA, Wood J, O’Brien JT. Does attentional dysfunction and thalamic atrophy predict decline in dementia with Lewy bodies? Parkinsonism Relat Disord. 2017;45:69–74.
  5. Franciotti R, Falasca NW, Bonanni L, Anzellotti F, Maruotti V, Comani S, et al. Default network is not hypoactive in dementia with fluctuating cognition: an Alzheimer disease/dementia with Lewy bodies comparison. Neurobiol Aging. 2013;34(4):1148–58.
  6. Peraza LR, Kaiser M, Firbank M, Graziadio S, Bonanni L, Onofrj M, et al. fMRI resting state networks and their association with cognitive fluctuations in dementia with Lewy bodies. Neuroimage Clin. 2014;4:558–65.
  7. Ferman TJ, Smith GE, Boeve BF, Ivnik RJ, Petersen RC, Knopman D, et al. DLB fluctuations: specific features that reliably differentiate DLB from AD and normal aging. Neurology. 2004;62(2):181–7.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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