
記憶にはボーッとする休息が大切
記憶は睡眠中に整理、統合され保存されることは以前から知られています。
しかし、記憶は睡眠中でなければ保存されることはないのか、ただ横になって目を閉じて何も考えていないときは、記憶は保存されないのか?
本日は、睡眠でなくても「休息」しているだけでも記憶は保存されることを示した論文を紹介します。
タイトル:Memory Consolidation during Waking Rest.
著者:Wamsley E.
雑誌:Trends in Cognitive Science. 2019; 23(3): 171-173.
日常生活では、ボーッとする時間は「無駄な時間」として考えている人も多いのではないでしょうか?しかし、記憶に関する新しい知見では、ボーッとする時間は無駄な時間ではないことが証明されてきています。
以前の考え
新しい記憶の獲得やそれに続く統合には、その他の刺激が入ってこないオフラインの脳状態に入ることが重要であると報告されており1)、以前の多くの研究では、学習後に睡眠群と非睡眠群(覚醒群)に分けて、睡眠群は非睡眠群と比較して記憶力が優れていたという研究デザインが多くありました。
これらの研究は睡眠状態と覚醒状態を比較しています。
すなわち、記憶は睡眠中に保存されるという考えです。
最近の考え
しかし、最近では、単に横になって目を閉じているだけ、何もしないという「休息」と記憶について着目され始めてきました。
学習後に短時間の休息する群と感覚運動課題や認知課題を行う群(新しい刺激を入れ続ける群)では短時間の休息する群の方が記憶力が向上することが立証されています2,3,4)。また、著者らの先行研究では、学習後に15分間の目を閉じて休息することにより手続き記憶と陳述記憶の両方の記憶を向上させることが明らかになっています5)。学習後の休息が空間的・時間的情報の記憶を強化し6)、複雑な課題への洞察力を促進し4)、聴覚的学習を強化することが報告されています7)。さらにこれらの記憶効果は休息を行うことで1週間以上も維持されることがあると報告されています7)。
以上のことから、覚醒状態(起きている状態)であっても目を閉じて休息しているオフライン状態では、記憶が優先的に統合されることが考えられます。
動物実験からも海馬やその他の記憶に関連する領域の細胞レベルの「再活性化」は休息中に発生すると報告されています8)。
これらの再活性化をブロックすると学習した記憶が失われると報告しています。また、人間ではfMRIを用いた実験において、学習後の海馬の活動のパターンは休息中まで持続すること、およびこれがその後の記憶を形成において重要であることが立証されています9)。
さらに、著者らの研究で睡眠中に記憶の統合が起こると考えられているノンレム睡眠のステージ2と同様の脳波が休息中にも出現していることを報告しています2)。
(ノンレム睡眠のステージ2が記憶に関連するという過去のブログはこちら)
まとめ
以上のことから、起きている間でも記憶を形成するためには、新しい情報を統合するために最適化された「オフライン」状態を作る必要があります。
現代において多忙な生活の中でボーッとできる休息を長時間取ることは稀です。しかし、勉強や仕事の休憩中や自宅に帰ってきてからの数分の休息は記憶の統合が成されている可能性が考えられます。学習中の数秒間の休息は、その後のテストパフォーマンスを向上させると報告されています10)。
したがって、起きている間の「休息(ボーッとする時間)」は時間の浪費になるどころか、日常生活における長期記憶形成において貢献する可能性が考えられます。
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参考文献
- Stickgold, R. (2005) Sleep-dependent memory consolidation. Nature 7063, 1272–1278.
- Brokaw, K. et al. (2016) Resting state EEG correlates of memory consolidation. Neurobiol. Learn. Mem. 130, 17– 25.
- Dewar, M. et al. (2012) Brief wakeful resting boosts new memories over the long term. Psychol. Sci. 23, 955–960.
- Craig, M. et al. (2018) Rest on it: awake quiescence facili- ties insight. Cortex 109, 205–214.
- Humiston, G.B. and Wamsley, E.J. (2018) A brief period of eyes-closed rest enhances motor skill consolidation. Neu- robiol. Learn. Mem. 155, 1–6.
- Craig, M. et al. (2015) Rest boosts the long-term retention of spatial associative and temporal order information. Hip- pocampus 25, 1017–1027
- Gottselig, J.M. et al. (2004) Sleep and rest facilitate audi- tory learning. Neuroscience 127, 557–561.
- Jadhav, S.P. et al. (2012) Awake hippocampal sharp-wave ripples support spatial memory. Science 336, 1454–1458.
- Tambini, A. and Davachi, L. (2013) Persistence of hippo- campal multivoxel patterns into postencoding rest is related to memory. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 110, 19591–19596
- Ben-Yakov, A. et al. (2013) Hippocampal immediate post- stimulus activity in the encoding of consecutive naturalistic episodes. J. Exp. Psychol. Gen. 142, 1255–1263.