医療従事者・研究者用ノート

エピソード記憶のネットワーク

エピソード記憶には海馬、海馬傍回、脳梁後部皮質、楔前部、角回、後帯状皮質および内側前頭前皮質の領域の皮質-海馬ネットワークが関与しています。しかし、各領域や各領域間の結合の機能的多様性についてはあまりわかっていません。

本日は、エピソード記憶における領域レベルとネットワークレベルでの寄与について示した論文を紹介します。

タイトル:Deconstructing the Posterior Medial Episodic Network.

著者:Ritchey M and Cooper RA.

雑誌:Trends in Cognitive Sciences. 2020; 24(6): 451-465.

ある出来事を記憶したり想像したりするときに私たちはその出来事の具体的な詳細を1つのエピソードに統合した動的な心象表現として構築します。多くの研究から、このようなエピソード記憶は皮質-海馬ネットワークが関与していることがわかっています1,2)。このネットワークの重要性は明らかではあるが、領域や結合の機能的多様性についてはあまりわかっていません。

このレビューでは、皮質-海馬ネットワークの機能的特性について明らかにし、エピソード記憶における領域レベルとネットワークレベルでの寄与について明らかにする。

エピソード記憶における皮質-海馬ネットワークの関与

エピソード記憶の研究では、エピソード記憶の統合における海馬の役割など、内側側頭葉が重要でありこれらの部分に焦点が当てられてきました3,4)。また、回想的記憶中に海馬と連続的に活動する皮質ネットワークが存在します5,6)

このネットワークは、海馬(Hipp)、海馬傍回(PHC)、脳梁後部皮質(RSC)、楔前部(Prec)、角回(AG)、後帯状皮質(PCC)、内側前頭前皮質(MPFC)の領域から構成されています(図1)。

図1

これらの領域がエピソード記憶に重要であるという証拠は過去の記憶の想起7,8)、文脈情報の記憶9,10)、回想的記憶11,12)などのさまざまな研究から明らかになっています。さらにこのネットワークは未来の出来事の回想(例えば、明日何かイベントがあればそのイベントについて想像することなど)にも関連しており13)、特に空間的な情報の表現に関与しています。

このように、皮質-海馬ネットワークは、それが記憶(過去の出来事)でも未来の出来事に対する想像でもエピソードの情報の構築と表現に関与しています。

皮質-海馬ネットワーク内の機能的特性

最近の研究では、エピソード記憶の想起、正確さ、鮮明度の特性に分けて調、どの領域がどの特性の役割があるかを調査しています14,15)

ある研究では16)、エピソード記憶の想起、正確さ、鮮明度を別々に推定することに成功しており、海馬は想起に関連しているのに対して、角回は正確さ、楔前部は鮮明度に関与していることがわかりました(図2)。

図2

皮質-海馬ネットワークは単にエピソード記憶に関連するという単純なものではなく、ネットワーク内でも想起、正確さ、鮮明度などのエピソード記憶に関する特性を担う領域が分かれていることが明らかになっています。

皮質-海馬ネットワークの統合モデル

図3はエピソード記憶のネットワーク内およびネットワーク間の統合モデルを示しています。エピソード記憶は1つの領域で全てを担っているのではなく、これらの重なり合った領域のグループ内とグループ間の相互作用によって成り立っています17)

図3

皮質-海馬ネットワークの中核部は、海馬(Hipp)、海馬傍回(PHC)、脳梁後部皮質(RSC)であり、これらの領域はエピソードの事象の特徴を整理する文脈的に関与しており、さらに感覚領域やanterior temporal (AT) network(※)と相互に関係しています。

この領域の中でも特に海馬が他の2つの領域と協調してエピソード記憶の文脈的な詳細をコード化する役割があります。脳梁後部皮質(RSC)はこの他の役割として、自己の視点に関する文脈を方向付けるために楔前部(Prec)と相互に関係しています18)

この自己の情報はさらに角回(AG)に送られ、角回は上記で統合された多様なエピソードを維持(正確さ)する役割があります。そして楔前部によって鮮明度、角回によって正確さが重み付けされた情報が中核部へと送られます。

また、後帯状皮質(PCC)と内側前頭前皮質(MPFC)は他の領域と相互に関係し、自己と他者に関する概念的な知識に関連しています。

※ATネットワークは、嗅周皮質(PRC)、前腹側側頭皮質(aVTC)、扁桃体(AMY)および外側眼窩前頭皮質(LOFC)が含まれ、意味記憶に関連しています(図4)。

図4

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参考文献

  1. Ranganath, C. and Ritchey, M. (2012) Two cortical systems for memory-guided behaviour. Nat. Rev. Neurosci. 13, 713–726
  2. Ritchey, M. et al. (2015) Cortico-hippocampal systems involved in memory and cognition: the PMAT framework. Prog. Brain Res. 219, 45–64
  3. Diana, R.A. et al. (2007) Imaging recollection and familiarity in the medial temporal lobe: a three-component model. Trends Cogn. Sci. 11, 379–386
  4. Barry, D.N. and Maguire, E.A. (2018) Remote memory and the hippocampus: a constructive critique. Trends Cogn. Sci. 23, 128–142
  5. Rugg, M.D. and Vilberg, K.L. (2013) Brain networks underlying episodic memory retrieval. Curr. Opin. Neurobiol. 23, 255–260
  6. Benoit, R.G. and Schacter, D.L. (2015) Specifying the core net- work supporting episodic simulation and episodic memory by activation likelihood estimation. Neuropsychologia 75, 450–457
  7. St Jacques, P.L. et al. (2017) Shifting visual perspective during retrieval shapes autobiographical memories. Neuroimage 148, 103–114
  8. Cabeza, R. and St Jacques, P. (2007) Functional neuroimaging of autobiographical memory. Trends Cogn. Sci. 11, 219–227
  9. Duarte, A. et al. (2011) Stimulus content and the neural correlates of source memory. Brain Res. 1373, 110–123
  10. Hayama, H.R. et al. (2012) Overlap between the neural correlates of cued recall and source memory: evidence for a generic recollection network? J. Cogn. Neurosci. 24, 1127–1137
  11. Ritchey, M. et al. (2015) Delay-dependent contributions of me- dial temporal lobe regions to episodic memory retrieval. Elife 4, e05025
  12. Thakral, P.P. et al. (2017) Decoding the content of recollection within the core recollection network and beyond. Cortex 91, 101–113
  13. Benoit, R.G. and Schacter, D.L. (2015) Specifying the core net- work supporting episodic simulation and episodic memory by activation likelihood estimation. Neuropsychologia 75, 450–457
  14. Thakral, P.P. et al. (2017) Imagining the future: the core episodic simulation network dissociates as a function of time course and the amount of simulated information. Cortex 90, 12–30
  15. Thakral, P.P. et al. (2019) The core episodic simulation network dissociates as a function of subjective experience and objective content. Neuropsychologia 136, 107263
  16. Richter, F.R. et al. (2016) Distinct neural mechanisms underlie the success, precision, and vividness of episodic memory. Elife 5, e18260
  17. Moscovitch, M. et al. (2016) Episodic memory and beyond: the hippocampus and neocortex in transformation. Annu. Rev. Psychol. 67, 105–134
  18. Bicanski, A. and Burgess, N. (2018) A neural-level model of spatial memory and imagery. Elife 7, e33752

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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