医療従事者・研究者用ノート / 一般向けノート

妊娠中と産後の脳出血発生率と危険因子

出産は女性にとって大きなイベントであり、妊娠から産後までさまざまなリスクを伴います。

本日は、さまざまなリスクの中でも妊娠中と産後の脳出血の発生率と危険因子について調べた論文を紹介します。

タイトル:Association of Primary Intracerebral Hemorrhage With Pregnancy and the Postpartum Period.

著者:Meeks JR, Bambhroliya AB, Alex KM, Sheth SA, Savitz AI, Miller EC et al.

雑誌:JAMA network open. 2020; 3(4): e202769

研究の背景

妊娠中や産後はさまざまなリスクを伴います。そのリスクの1つが妊娠中およびに産後の脳出血です。しかし、妊娠中および産後の脳出血のリスクを定量化した研究は限られています1)。現在までに明らかなこととしては、妊娠12週目までが脳出血などのリスクが高いことが知られているが、産後における脳出血のリスクは明らかではありません。

本研究の目的は、集団レベルのコホート研究において、妊娠中および産後24週間における脳出血の発症率と危険因子を調べました。

方法

・ニューヨーク、カリフォルニア、フロリダの7〜10年間の全入院患者からデータを取得しました。

・参加者は脳出血の既往歴がなく、定期検診および分娩のために入院したすべての女性を対象として、妊娠期間の40週、産後24週、さらに産後64週の記録を追跡しました。

・脳出血のリスクはポアソン回帰分析を用いました。

結果

被験者

・合計で3,314,945名の妊婦を対象としました(平均年齢28.17±6.47歳)。

・白人は1,451,780名(43.79%)、黒人は474,808名(14.32%)、アジア人は246,789名(7.44%)、ヒスパニックは835,917名(25.22%)でした。

出現率

・妊娠中に238人が脳出血と診断され、1万人のあたり7.18例の発生率でした。

・一方で産後は68人が脳出血と診断され、10万人あたり2.5例の発生率でした。

・特に妊娠後期および産後12週目までが有意に脳出血の発生率が高いことがわかりました。

死亡率

・妊娠中の238人のうち42人(17.65%)が死亡しました。このうち20名は分娩に伴う入院期間中に死亡しました。また、脳出血以外の何らかの原因で死亡した妊婦(非脳出血群)は全体の0.64%でした。

この結果から、妊娠中の脳出血は死亡率が高く、さらに胎児の死亡率も有意に高いことがわかりました。

危険因子

・人種での発生率は白人に比べ黒人およびアジア人である可能性が高いことがわかりました。

・また、妊娠中毒症、高血圧、凝固障害などの併存疾患、喫煙歴や高齢も脳出血と有意に関連していることがわかりました。また、脳出血を経験した女性の約3分の1は子癇発作 (脳血流自動調節機能の障害に伴う高血圧性脳症様痙攣発作)を経験していました。さらに、脳出血を経験した女性の9.2%は凝固障害と診断され、そのうち半数は播種性血管内凝固症であることがわかりました。

まとめ

・本研究では妊娠中および産後の脳出血の発生率および因子を明らかにすることを目的としました。

・脳出血は妊娠後期および産後12週目までが最も発生率が高いことがわかりました。

・妊娠中毒症、高血圧、凝固障害などのさまざまな併存疾患が妊娠中および産後の脳出血と関連していることがわかりました。また、喫煙歴2)や高齢3)によるリスクも過去の先行研究と一致しています。

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参考文献

  1. Ascanio LC, Maragkos GA, Young BC, Boone MD, Kasper EM. Spontaneous intracranial hemorrhage in pregnancy: a systematic review of the literature. Neurocrit Care. 2019;30(1):5-15.
  2. Toossi S, Moheet AM. Intracerebral hemorrhage in women: a review with special attention to pregnancy and the post-partum period. Neurocrit Care. 2019;31(2):390-398.
  3. Bateman BT, Schumacher HC, Bushnell CD, et al. Intracerebral hemorrhage in pregnancy: frequency, risk factors, and outcome. Neurology. 2006;67(3):424-429.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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