
皮膚の新たな感覚器官「侵害グリア・神経細胞複合体」
私たちは皮膚に針が刺さったり、壁などに体の一部がぶつかると当然ですが、痛みを感じます。この痛みは皮膚にある侵害受容器が感知して脊髄視床路として大脳皮質に伝達されます。しかし、この侵害受容器以外に皮膚を刺したり、圧迫する刺激に反応する新しい感覚器官が皮膚内部にあることがわかりました。
本日は、皮膚内部にある新たな感覚器官について書かれた論文を紹介します。
タイトル:Specialized cutaneous schwann cells initiate pain sensation.
著者:Abdo H, Calvo-Enrique L, Lopez JM, Song J, Zhang MD, Usokin D, et al.
雑誌:Science. 2019; 365(6454): 695-699.
研究の背景
生物の生存のための不可欠な条件は、回避しなければならない有害な刺激を検出し、回避する能力である。現在、有害な刺激は皮膚の侵害受容器を直接活性化すると考えられている1,2,3)。
侵害受容ニューロンは一般的に無髄であり、軸索の保護や代謝的な役割があるシュワン細胞と関連がある4)。この神経終末は、有害な刺激によって活性化され、皮膚の痛み受容体を表している。
本研究の目的は、皮膚グリア細胞(シュワン細胞)がどのように分布し、侵害受容ニューロンとどのように相互作用しているのかを調べた。
結果

・図1Aは真皮(d)と表皮(e)を示しています。この真皮内にある皮膚シュワン細胞は上行性神経線維の神経末端と接触していることが明らかとなり、有害な熱刺激や圧迫などの機械的刺激に活性化することがわかりました。
・この皮質シュワン細胞は、他の部位にあるシュワン細胞と形態的にも分子的にも異なり、表皮下の境界に網目状のネットワークを形成し、侵害受容ニューロンと相互作用しておりグリア神経複合体を構築しています(図1B)。
まとめ
・本研究は、感覚ニューロンとの直接的な興奮性の機能的接続を実証し、これまで知られていなかった器官が、有害な刺激を感知するために重要な生理的役割を果たしていることを証明した。このように、これらのグリア細胞は、侵害受容ニューロンと密接に関連しており、機械的感受性を持ち、侵害受容情報を神経に伝達している。
・これまでは侵害受容器のみが痛みを感知していると考えられてきました。しかし、今回の発見はグリア細胞も痛みを感知し、神経に伝えることに加えて、痛みの出発点である可能性が示唆されました。
・この研究はマウスでの実験であり、この感覚器官がヒトに存在するかはまだ明らかではありません。
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参考文献
- V. E. Abraira, D. D. Ginty, Neuron 79, 618–639 (2013).
- M. Costigan, J. Scholz, C. J. Woolf, Annu. Rev. Neurosci. 32, 1–32 (2009).
- F. Lallemend, P. Ernfors, Trends Neurosci. 35,373–381 (2012).
- B. L. Harty, K. R. Monk, Curr. Opin. Neurobiol. 47,131–137 (2017).