医療従事者・研究者用ノート

感情とデフォルトモードネットワーク

私たちは他者が両手で顔を隠している動作を見たとき、あるいは悲鳴が聞こえたときなど他者の感情に対する意味をある程度は理解できます。この他者の動作の意味付けに関与するネットワークがデフォルトモードネットワークであるということがわかってきています。

本日はデフォルトモードネットワークと感情についてのレビュー論文を紹介します。

タイトル:The Default Mode Network’s Role in Discrete Emotion.

著者:Satpute AB, Lindquist KA

雑誌:Trends in Cognitive Sciences. 2019; 23(10): 851-864

感情のネットワークモデル

恐怖、怒り、悲しみ、喜びなどの感情は、大脳辺縁系や視床下部、扁桃体、水道周囲灰白質の領域またはこれらの回路から発生すると考えられてきた1,2)。しかし、これらの小規模なモデルから感情を構成するプロセスが脳のいくつかの大規模なネットワークに広く分布していると新しい機能的ネットワークが明らかになってきた3,4)。この大規模なネットワークのうちの1つがサリエンシーネットワークであり、情動の研究はこのネットワークに焦点を当ててきた5)。その理由がサリエンシーネットワークは視床下部、扁桃体、島皮質、帯状皮質などの内臓情報を処理する領域を含み、大脳辺縁領域の多くが含まれるからである6)

しかし、重要なことは、例えばこのサリエンシーネットワークが感情に固有のものではなく、人間が感情、思考、記憶などと呼んでいる心的現象の多様な主観的カテゴリーに寄与していることを意味している。つまり、機能的ネットワークと精神状態のカテゴリーとの領域的な位置づけが存在している。しかし、このような精神状態を作り出す際の各ネットワークがどのような役割を果たしているかは不明である。

特に著者らは、デフォルトモードネットワークは怒りや恐怖、嫌悪感などの感情を構築するために重要であると提案している。以下ではデフォルトモードネットワークと感情との関係を述べる。

デフォルトモードネットワーク

デフォルトモードネットワークは内側前頭前野、前部帯状皮質、後部帯状皮質、楔前部、下頭頂小葉などの領域が関与しており、広範囲に及ぶネットワークである。このネットワークは、安静時に他の脳領域と比較して代謝活動が大きいことがわかっている7)。つまり、認知課題中などの何か課題をしている時には活動は低く、安静状態では活動が高いことを意味している8)

この安静の状態では、内的な集中プロセスを行なっている可能性が高いといくつかの論文で仮説が立てられた8,9,10)。したがって、安静時の活性化の増加は未来や過去について考えたり、自己や社会的状況について考えたりするなどの精神的プロセスを反映しているのではないかと考えられてきた。その後の研究では、デフォルトモードネットワークは前向き記憶11)、熟考12)、社会的認知13)、内的思考14)、意識15)などの内部的プロセスに関与することが明らかとなった。

デフォルトモードネットワークが感情に関与しているという論文もいくつもあり、実際にこのデフォルトモードネットワークの領域に病変がある人は自己の感情の強さの調節16)、感情に基づく意思決定17)、他者の感情の理解18)が困難である。したがって、このネットワークは、広い意味で感情調節に関与していることが報告されている。

デフォルトモードネットワークと感情の抽象化

いくつかの先行研究では、デフォルトモードネットワークが感情における概念化に関与している可能性を示唆している19,20)。概念化とは、より具体的な特徴を意味付けるために事前の経験や知識を利用した予測プロセスである。そして、概念化は感覚的特徴や多感覚情報、そしてより抽象的なレベルにまで及ぶ。

著者らは、デフォルトモードネットワークはこの抽象化に関連しているとこの論文では報告している。例えば、両手で顔を覆うような写真が出てきた場合に、抽象的には恐怖や何かに怯えているように概念化する21)。抽象化におけるデフォルトモードネットワークの役割は、より具体的で、ある特徴を抽象化する必要がある多感覚の意味処理に関与していると報告している22)

簡単に言うと、他者の動作(視覚的情報)や声(聴覚的情報)などから他者が発するその意味を理解することにデフォルトモードネットワークは関与している可能性があることを意味している。

今後の研究の方向性

デフォルトモードネットワークと感情については上記で述べてきたようなことは明らかになってきた。しかし、乳児から発達の過程でデフォルトモードネットワークは感情にどのように関与しているのか、あるいは人種や環境の違いで異なる可能性が十分に考えられる。

ある先行研究によるとデフォルトモードネットワークは乳児期から思春期にかけて構造の発達的変化を示しており23)、この時期はより分化した抽象的な感情概念の発達と一致していると報告している24,25)。この時期の反抗期はデフォルトモードネットワークと感情の発達に大きく関連している可能性が考えられ、これらをさらに明らかにすることによりデフォルトモードネットワークと反抗期や精神疾患との関連が明らかになると考えられる。

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参考文献

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  4. Wager, T.D. et al. (2015) A Bayesian model of category-specific emotional brain responses. PLoS Comput. Biol. 11, e1004066
  5. Seeley, W.W. et al. (2007) Dissociable intrinsic connectivity networks for salience processing and executive control. J. Neurosci. 27, 2349–2356
  6. Chanes, L. and Barrett, L.F. (2016) Redefining the role of limbic areas in cortical processing. Trends Cogn. Sci. 20, 96–106.
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投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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