医療従事者・研究者用ノート

プラセボ効果により認知機能の向上が可能

医療現場や臨床研究においてプラセボ効果という言葉をよく耳にします。このプラセボ効果はさまざまな研究から科学的にも明らかになっています。しかし、医療や治療、臨床研究以外の場所でこのプラセボ効果が利用・応用できるのかは明らかではありません。

本日は、思い込み(プラセボ効果)による認知機能を向上させることが可能であることを示した論文を紹介します。

タイトル:Mobilizing unused resources: Using the placebo concept to enhance cognitive performance.

著者:Weger UW, Loughnan S.

雑誌:Quarterly Journal of Experimental Psychology. 2013; 66(1): 23-28

研究の背景

研究や医療現場においてプラセボ効果という言葉をよく耳にする。例えば、医療の分野では、効果のない薬剤(ただのサプリメント)を処方されただけでも、その処方された患者は痛みや病気の症状を和らげることができると知られている。現在では、さまざまな研究からプラセボ効果は存在し、意図的な臨床介入に使用できることが明らかになっている1,2)

このプラセボ効果を説明するためには期待理論と条件付け理論の2つの理論がある。

期待理論は、プラセボを投与することで改善へのステップが進行中であり、変化や治癒が可能であるという期待感を抱く。つまり、この期待は注意を方向転換し、病気の症状よりも健康の情報に焦点を当てることを可能にしていることになる3,4)

一方で条件付け理論は、以前の経験が回復と関連するという概念で学習されている。例えば、以前はこの薬で(以前の経験)痛みが軽減した(回復)から今回も治るだろうということである5)。現在では期待理論と条件付け理論の2つの理論がプラセボ効果に相互作用していることが理解されている6)

しかし、プラセボ効果はほとんどが医療現場で使用されており、医療や治療以外での場所で研究された報告は少ない。

そのため、本研究の目的は、プラセボ効果が医療現場以外の場所でも利用・応用できるかを検証した。今回はプラセボ効果により認知機能の向上が可能かどうかを検証した。

方法

・被験者は心理学部の学生40名(女性32名、平均年齢19.84歳)でプラセボ群と非プラセボ群の2群に分けました。

・被験者には一般的な知識テストにおける注意の役割を調査することを目的とした実験であると伝えた。

・両群共に知識テストはパソコン画面に表示され、20問で1つの問題に対して4つの答えがあり、1つのみが正解であった。

・テスト内容は地理、歴史、文化、科学関連などの分野であった。

・プラセボ群には知識テスト前に「知識テストの各問題が提示される前に一瞬だけ(ヒトが知覚できない速さで)答えの番号が映ります」と教示をした。しかし、この一瞬提示される番号は正解の番号ではありませんでした。つまり、プラセボ群には知覚できない速さではあるが自分は答えを知っていると思い込ませることを行いました。

結果

・20問に対する正解数を合計して知識スコアを作成した。

・プラセボ群の平均正解数は9.85±1.87問、非プラセボ群の平均正解数は8.37±1.77問であった。

・この結果は、プラセボ郡は非プラセボ群よりも有意に高いスコアであった。

まとめ

・今回はプラセボ効果(思い込み)により知識テスト(認知能力)のパフォーマンスを向上させることが可能であることを示している。

・しかし、この認知機能とは記憶の容量を高めるというようなことではない。私たちはテストと聞くと「良い点数を取らないといけない」や「私は頭が悪いから」などとプレッシャーや不安を感じる。プラセボ効果によりこれらのプレッシャーや不安を取り除くことで本来の自分自身のパフォーマンスが発揮できたと考えられる。

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参考文献

  1. Stewart-Williams, S., & Podd, J. (2004). The placebo effect: Dissolving the expectancy versus conditioning debate. Psychological Bulletin, 130, 324–340.
  2. Bensing, J. M., &Verheul, W. (2010). The silent healer: The role ofcommunication in placebo effects. Patient Education and Counselling, 80, 293–299.
  3. Montgomery, G., & Kirsch, I. (1996). Mechanisms of placebo pain reduction: An empirical investigation. Psychological Science, 7, 174–176.
  4. Kirsch, I. (1985). Response expectancy as a determinant of experience and behaviour. American Psychologist, 40, 1189–1202.
  5. Voudouris, N. M., Peck, C. L., & Coleman, G. (1985). Conditioned placebo responses. Journal ofPersonality and Social Psychology, 48, 47–53.
  6. Stewart-Williams, S., & Podd, J. (2004). The placebo effect: Dissolving the expectancy versus conditioning debate. Psychological Bulletin, 130, 324–340.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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