
アウトプットと記憶力
何かを覚えたいときに声に出して復唱したり、他人に教えたりと情報をアウトプットしたときはインプットだけのときよりも記憶が確実に定着することは誰しも経験があると思います。しかし、アウトプットした記憶としていない記憶では、記憶に関連する領域のどの領域が強く関与しているのかは明らかになっていません。
本日は、アウトプットした記憶としていない記憶の鮮明度と関与する脳領域を調べた研究を紹介します。
タイトル:Consolidation of complex events via reinstatement in posterior cingulate cortex.
著者:Bird CM, Keidel JL, Ing LP, Horner AJ, Burgess N.
雑誌:Journal of Neuroscience. 2015; 35(43): 14426-14434
研究の背景
側頭葉内側部(海馬や海馬傍回など)と大脳皮質との間の相互作用によって記憶が安定化される記憶統合は、多くの場合、能動的な記憶の想起中(声に出すことや人に教えるなどのアウトプット)で起こると多くの研究で明らかになっている1,2)。
ある出来事の詳細な記憶は通常では1週間以内に忘れると報告されている3)。しかし、アウトプットすることにより出来事の詳細な記憶は長期間にわたってよく保持される。実際に情報をアウトプットすることは、記憶を保持する強力な方法であると言われている4)。
しかし、アウトプットした記憶としていない記憶では、記憶に関連する領域のどの領域が強く関与しているのかは明らかでない。
本研究では、アウトプットした記憶としていない記憶の記憶の鮮明度と関与する脳領域を調べた。
方法
・被験者は健常者16名(女性10名、平均年齢26.6歳)をアウトプット群と非アウトプット群の2群に分けた。
・刺激は26個のYoutubeに掲載されているビデオのうちランダムで7個を被験者に見せた。1個のビデオの長さは平均38秒であった。
・アウトプット群は7個のビデオを見た後すぐに声に出してビデオの詳細についてアウトプットした。一方で非アウトプット群は何もしなかった。
・また、MRIは同時に撮像した。
・記憶テスト(ビデオの内容を覚えているか)は1週間後に行った。
・記憶テストはビデオの詳細な内容(シチュエーションや登場人物など)を覚えているかをテストして記憶の鮮明度によって点数付けをし、2群で比較をした。
・MRIの解析には、Representational Similarity Analyses (RSA)という方法を用いてインプットしているときとアウトプットしているときの脳活動の類似性を解析した。
結果
・1週間後の記憶テストの得点は、アウトプット群は8.50±0.35点、非アウトプット群は2.65±0.31点であった。アウトプット群は非アウトプット群と比較して有意に記憶テストの得点が高かった。

・MRI解析(類似性の解析)の結果、インプットしているときもアウトプットしているときも海馬、海馬傍回、楔前部と脳梁膨大後頭部皮質を含む後部帯状皮質、角回、中側頭回の後部が活動していることが明らかとなった(図1)。
・さらに、1週間後のビデオの詳細な記憶の得点と後部帯状皮質の類似性は相関していた(図2)。

まとめ
・アウトプットした記憶としていない記憶の保持期間と関与する脳領域の違いを調べた。
・記憶した直後にアウトプット(復唱や他人に説明するなど)することにより1週間以上、記憶が鮮明に保持されることが明らかとなった。
・記憶の詳細または鮮明度は後部帯状皮質が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
・もしかすると、何かを覚えた直後にアプトプットして、その後にボーッと休息することでさらに記憶が定着するかもしれません。(ブログ著者の意見)。
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参考文献
- Della Sala S, Cowan N, Beschin N, PeriniM (2005) Just lying there, remem- bering: improving recall ofprose in amnesic patients with mild cognitive impairment by minimising interference. Memory 13:435–440.
- Dewar M, Alber J, Butler C, Cowan N, Della Sala S (2012) Brief wakeful resting boosts new memories over the long term. Psychol Sci 23:955–960.
- Conway MA (2009) Episodic memories. Neuropsychologia 47:2305–2313.
- Roediger HL, Karpicke JD (2006) Test-enhanced learning: taking memory tests improves long-term retention. Psychol Sci 17:249–255.