医療従事者・研究者用ノート

重度慢性脳卒中患者に対する上肢リハビリテーションの最前線

脳卒中患者に対するリハビリテーションは徒手だけでなくロボットや筋または脳刺激などさまざまな研究が進んでいます。本日は、重度慢性脳卒中患者の上肢リハビリテーションに対する現状をレビューした報告を紹介します。

タイトル:Neurotechnology-aided interventions for upper limb motor rehabilitation in severe chronic stroke.

著者:Coscia M, Wessel M, Chaudary U, Millan J, Micera S, Guggisberg A, et al.

雑誌:Brain. 2019; 142(8): 2182-2197.

脳卒中はその人の社会経済や今後の人生において大きな影響を与える疾患であり、死因の第二位であると報告されています1)。今後は高齢化社会のため、これからの患者数は2010から2030年までに1.5〜2倍に増加すると推定されています2)

上肢運動障害は初発の脳卒中生存者の73〜88%、慢性脳卒中患者の55〜75%に認められます3)。非麻痺側上肢抑制法(CIMT)だけでなく、軽度および中等度の運動障害に対する標準的な作業療法や脳刺激、最近ではバーチャルリアリティの介入は肯定的なリハビリ効果を示しています4,5)。しかし、重度の運動障害を有する脳卒中患者では、非麻痺側上肢抑制法などのリハビリは治療効果が期待できないことが多いため対象から除外されることが多いことが多くの論文で報告しています6,7,8)

最近の神経工学による介入は、重度の運動障害を持つ脳卒中患者に高強度の運動トレーニングを提供しています9)。ロボット工学、筋電気刺激、脳刺激、ブレインコンピューター/マシーンインターフェイスは上肢の運動回復を促し、運動ネットワーク内の神経可塑性変化を誘発できると報告しています10,11)

本論文では、重度の慢性脳卒中患者のリハビリテーションの効果を最大化するためのアプローチの新しいアイデアを提示します。

リハビリテーションロボット

リハビリテーションロボットは、四肢の運動を補助する外骨格と四肢の可動化を可能にする装置に分けられます。どちらも2次元または3次元で動作し、単純な受動的な動き、必要に応じて補助されるもの、抵抗トレーニングを提供するもの、エラー補正を提供するものなどさまざまな異なる方法でアプローチすることができます12)。ロボットベースの治療は脳卒中の回復を促すために求心性入力を増加させることによって末梢神経系に作用します。さらに、運動制御ループに関与する体性感覚系を再活性化させ、再統合させることができる高度な課題や状況に応じたトレーニングが可能であることが報告されています13)

ロボットを用いた課題指向型トレーニングでは、急性期14)と慢性重度脳卒中15)の実験では、理学療法よりも上肢運動機能に効果があったと報告しています。

しかし、臨床的に有意な転帰を達成するためには、特に重度の脳卒中患者においてはロボットを用いた治療は週5回、12週間のような持続的かつ高強度のものでなければならず15)、個別化されたものでなければならないため、明確なガイドラインを示すことは現段階では不可能であると考えられています。

筋電気刺激

電気刺激は30年以上前に片麻痺患者のリハビリ技術として使用されています。電気刺激の回復メカニズムは上記で述べたロボットと似ている部分があります。麻痺筋への刺激によって、求心性入力を増加させることによって、運動制御ループに関与する体性感覚系を再活性化させ、再統合させることでネットワークの接続性を強化します。特に刺激の種類によってα運動ニューロンの興奮性に影響を与え、感覚運動の再編成を誘発することで、痙性に対する抑制効果があると報告されています16)

脳卒中上肢リハビリテーションに対する電気刺激の有効性を報告した論文は11個ありました。例えば、脳卒中後の早期に肩亜脱臼に対する有効な治療法として、局所的な電気刺激が報告されています17)。この報告では、棘上筋と三角筋後部を電気刺激することで、亜脱臼の予防、回復、疼痛の軽減、機能改善に効果があると報告しています。しかし、疼痛と機能改善に関しては、理学療法よりも有効な効果ではなかったと報告しています。

しかし、電気刺激の最適な刺激量や頻度は個人差があり、病態によっても影響を受けるため明確なガイドラインを書くことは現段階では不可能であると考えられています。

脳刺激

脳刺激は、標的とする脳領域を促進または抑制するために局所的な磁場または電流を使用します。非侵襲的な脳刺激技術の中では、経頭蓋磁器刺激(TMS)と経頭蓋直流電流刺激(tDCS)が最も有名です18)

反復性TMS(rTMS)については、脳卒中リハビリテーションでの使用に関するガイドラインが示されています19,20)。慢性脳卒中患者に対して損傷側と対側半球へ低周波反復性TMS(rTMS)を行った場合、運動能力が向上したという有効性(レベルB)の報告や損傷半球の運動野に高周波rTMSを行った場合、急性期および慢性期の運動機能の改善に有用な可能性(レベルC)が報告されています。

tDCSの研究では、現在のところ介入後の上肢障害や日常生活動作に対する効果は小さく、有意ではないことが報告されています21)。現在では、tDCSと理学療法、作業療法などの運動訓練とどのように組み合わせるべきであるかが議論されています。例えば、非麻痺側上肢抑制法(CIMT)とtDCSを組み合わせた報告では、有用な結果があったと報告しています22)

ブレインコンピューター/マシーンインターフェイス

BCI/BMIは脳波または近赤外分光法が用いられることがほとんどであり、脳波が最も用いられます23)

最初のBCI/BMIでは、聴覚または視覚フィードバックにより、脳の活動の変化を可視化し、脳領域とその活性化の学習を促進し、強化することが報告されています24)。また、外部装置(ロボットや筋電気刺激)を介して受動的または能動的な四肢運動を制御し、イメージを用いた学習原理に基づいて自発的な運動制御の再学習を促進すると報告しています24)

このBCI/BMIを用いた脳卒中リハビリテーションへの応用は比較的最近のことであり、まだ単発症例または症例報告に限られていますが、現在では10個の研究が報告されています。

例えば、運動イメージ課題中の仮想手の動きの視覚的フィードバックの研究25)やBCI/BMIをロボットや筋刺激と組み合わせた研究では、従来の理学療法と同等の結果が得られたり、中等度から重度の患者にも有効であったと報告しています25)

BCI/BMIの有効性や頻度、どの患者に適応かなどのさらなる根拠を得るためには大規模なランダム化比較試験が必要である。

まとめ

神経技術を用いた上肢リハビリテーションは、重度の脳卒中患者に対して非常に有望な可能性があります。しかし、特定の治療法が他の治療法に比べて有用であるという科学的根拠やさまざまな治療法がどのレベルの患者に対して有効であるかのまだ明らかではありません。さらに、上肢脳卒中リハビリテーションのための神経技術の介入の組み合わせは、累積的なものではなく、単一の介入で単一の介入で示されているものと同等の有効性を示しています。

また、本レビューの問題点として、Fugl-Meyer assessment(FMA)のみに基づいた結果の論文を対象としています(論文の59%はFMAをアウトカムとして使用しています)。しかし、脳卒中の回復や治療介入の効果には、代償、適応、再学習などの他の側面も関連します。

将来的には、神経リハビリテーション治療研究において、障害、適応、代償から生活の質に至るまでの因子を含んだ臨床評価を行うことが望ましいと考えられます。

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参考文献

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