医療従事者・研究者用ノート

運動イメージ中の先行随伴性姿勢調節

先行随伴性姿勢調節は、ある動作を行うときに先行してその動作を安定させるための姿勢制御です。この先行随伴性姿勢調節は運動イメージでも起こることが明らかになっています。

本日は、健康な若年者と高齢者を対象に実際に腕を挙上させる運動条件と運動イメージ条件中の姿勢制御を分析した論文を紹介します。

タイトル:Age-related differences in postural adjustments during limb movement and motor imagery in young and older adults.

著者:Wider C, Mitra S, Andrews M and Boulton H.

雑誌:Experimental Brain Research. 2020; 238(4): 771-787.

研究の背景

人間は立位の状態で腕を上げると腕を上げるよりも前に姿勢制御に関連する下肢筋が活動することや体幹の後屈による腕の前方への運動は重心を支持基底面内に留めるための制御であることが以前から知られています1,2)。この制御は先行随伴性姿勢調節と呼ばれています。先行随伴性姿勢調節は、速い運動よりも遅い運動でより観察される可能性が高く、四肢の運動によって引き起こされる身体のバランスが乱されるのを防ぐことであり、重心を調整することが目的であることがさまざまな報告で明らかになっています3,4,5)

最近では、運動イメージ中の先行随伴性姿勢調節の報告があります。例えば、ある報告6)によると、ある動作の運動イメージを行なっているときの姿勢の動揺を測定すると運動イメージしていないときと比較して動揺が増加したと報告しています。しかし、この研究では動揺の性質や方向を特定することはできなかったことを示しています。また、若年者と高齢者の先行随伴性姿勢調節の違いについても明らかになっており、高齢者では先行随伴性姿勢調節が遅延すると報告されています7,8)

しかし、運動イメージ中に先行随伴性姿勢調節のタイミング(予測的または反応的)と方向性(腕を伸ばす方向や反対方向)についてはよく理解されていません。

本研究では、健康な若年者と高齢者を対象に実際に腕を挙上させる運動条件と運動イメージ条件中の姿勢制御(股関節と頭部の運動)を分析しました。

方法

・被験者は若年者20名(男性8名、年齢18〜29歳)と高齢者20名(男性6名、年齢65〜88歳)でした。

・参加者全員がバランス障害や神経障害の既往歴がなく、右利きであった。

・実際に腕を挙上させる運動条件では、被験者には音声により「準備してください」と教示し、その後、0〜4秒の間にランダムな秒数で「腕を挙げてください」と教示しました。

・運動イメージ条件では、被験者は閉眼した状態で上記の教示を行いました。また、どちらの条件も3回繰り返しました。

・測定中は3次元位置計測システムによって頭部と上肢の動きを記録しました。

結果

図1は実際に腕を挙上させる運動条件(AとB)と運動イメージ条件(CとD)の頭部と股関節の動きを示しています。青線が若年者で赤線が高齢者を示しており、グラフの縦軸が頭部と股関節の動き、横軸が時間経過を示しています。

図1

実際に腕を挙上させる運動条件では、若年者と高齢者の姿勢制御は非常に類似していることがわかりました。しかし、高齢者の運動イメージ条件では、イメージ開始前に前方への姿勢制御は統計的には認められませんでした。しかし、運動イメージ開始後では頭部の後方への動きは認められました。

まとめ

・本研究では、健康な若年者と高齢者を対象に実際に腕を挙上させる運動条件と運動イメージ条件中の姿勢制御を分析しました。

・高齢者の運動イメージ条件では、先行性随伴性姿勢調節は認められませんでした。

・そのため、高齢者では運動イメージ中の先行随伴性姿勢調節は減衰する可能性が示唆されました。

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参考文献

  1. Belenkiy VE, Gurfinkel VS, Paltev EI (1967) On elements of control of voluntary movements. Biofizica 12:135–141.
  2. Martin JP (1967) The basal ganglia and posture. Pitman, London.
  3. Bouisset S, Zattara M (1981) A sequence of postural movements pre- cedes voluntary movement. Neurosci Lett 22:263–270.
  4. Friedli WG, Cohen L, Hallett M, Stanhope S, Simon SR (1988) Postural adjustments associated with rapid voluntary arm movements. II. Biomechanical analysis. J Neurol Neurosurg Psychiatry 51:232–243.
  5. Rogers MW, Pai YC (1990) Dynamic transitions in stance support accompanying leg flexion movements in man. Exp Brain Res 81:398–402.
  6. Mitra S, Knight A, Munn A (2013) Divergent effects of cognitive load on quiet stance and task-linked postural coordination. J Exp Psychol Hum Percept Perform 39:323–328.
  7. Man’kovskii NB, Mints AY, Lysenyuk VP (1980) Regulation of the preparatory period for complex voluntary movement in old and extreme old age. Hum Physiol 6(1):46–50.
  8. Rogers MW, Kukulka CG, Soderberg GL (1992) Age-related changes in postural responses preceding rapid self-paced and reaction time arm movements. J Gerontol 47:M159–M165.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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