
プラセボ効果とバランス能力
プラセボ効果は医療現場や臨床研究で使用されています。以前のブログでは、医療現場以外の場面でも認知機能を向上させることができる論文を紹介しました。
本日は、プラセボ効果によりバランス能力を向上させることができることを示した論文を紹介します。
タイトル:Positive verbal suggestion optimizes postural control.
著者:Villa-Sanchez B, Andani ME, Menegaldo G, Tinazzi M and Fiorio M.
雑誌:Scientific Reports. 2019; 9(1): 1-10.
研究の背景
プラセボ効果とは、治療を受けた後に得られる有益な結果であり、有効成分に起因するものではなく、言葉や文脈、信念に起因するものであり、受け手に心理的・神経的な変化を誘発するものです1)。
多くの行動学的研究で運動選手、非運動選手または運動障害のある患者の歩行スピードや力、疲労などの運動の側面に影響を与えるプラセボ効果の有効性が実証されています2,3,4)。また、運動制御や運動技能の習得、バランスなどにプラセボ効果が影響する可能性があることはわかっていますが、まだ知見が十分ではありません。
本研究では、人間の運動機能に非常に重要であるバランス制御にプラセボ効果が影響を与えるかどうかについて調べることとしました。
方法
・被験者は健常者30名(女性:14名、平均年齢:20.1±1.3歳)をプラセボ群とコントロール群に無作為に分けました。
・課題は被験者の下肢に加速度計を装着して片脚立位を3セット(T0、T1、T2)施行してバランスを測定しました。また、片脚立位のセット間に経皮的末梢神経電気刺激(TENS)(※)を用いて、下腿を刺激しました(図1)。

・プラセボ群には、TENSはバランス能力を向上させる作用があると教示し、一方でコントロール群にはTENSはバランス能力の向上にまったく効果はないと教示しました。
※経皮的末梢神経電気刺激(TENS)は、痛みの局所などに表面電極を置き、低周波を通電する電気療法の1つです。
結果
・プラセボ群はコントロール群と比較して、T2時の3次元空間および前後方向への体の揺れが有意に少ないことがわかりました。
・また、プラセボ群はコントロール群よりもバランスが安定していると感じていることがわかりました。
まとめ
・本研究ではプラセボ効果がバランスに影響するかを検証しました。
・プラセボ群では、片脚立位での体の揺れが全体的に減少していることが明らかになりました。
・先行研究で治療に対する効果を繰り返し説明することで、より強いプラセボ効果が誘発される可能性があることが報告されています5,6)。本研究では、プラセボ群のT1とT2でT0と比較して体の揺れが減少していたことから口頭による教示だけでプラセボ効果があったことが示唆されます。
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参考文献
- Benedetti, F., Carlino, E. & Pollo, A. How placebos change the patient’s brain. Neuropsychopharmacology. 2011; 36(1): 339–354.
- Beedie, C. J. & Foad, A. J. The placebo effect in sports performance: a brief review. Sports Med. 2009; 39(4): 313–329.
- Beedie, C. J., Stuart, E. M., Coleman, D. A. & Foad, A. J. Placebo effects of caffeine on cycling performance. Med Sci Sports Exerc. 2006; 38(12): 2159–2164.
- Benedetti, F. et al. Placebo-responsive Parkinson patients show decreased activity in single neurons of subthalamic nucleus. Nat Neurosci. 2004; 7(6): 587–588.
- Colloca, L. et al. Learning potentiates neurophysiological and behavioral placebo analgesic responses. Pain. 2008; 139(2): 306–314.
- Benedetti, F. et al. Teaching neurons to respond to placebos. J Physiol. 2016; 594(19): 5647–5660.