医療従事者・研究者用ノート

パーキンソン病の歩行の筋シナジー

パーキンソン病の歩行に対する報告として、拮抗筋の共収縮、下肢遠位筋の振幅の低下、歩行速度の低下、転倒頻度の増加などがあります。また、パーキンソン病患者では、個々の筋で筋電図の異常は報告されていますが、個々の筋を制御する筋シナジーの解析についての報告はありません。

本日は、パーキンソン病患者の歩行中の筋シナジーと歩行パラメータとの関係を調べた研究を紹介します。

タイトル:Persons with Parkinson’s disease exhibit decreased neuromuscular complexity during gait.

著者:Rodriguez KL, Roemmich RT, Cam B, Fregly BJ, Hass CJ.

雑誌:Clinical Neurophysiology. 2013:124(7):1390-1397.

研究の背景

歩行は複雑な処理によって成り立っており、中枢神経系は異なる筋肉や筋群の活動を同時に調節するために筋シナジーを形成しています1)。筋シナジーは複雑さを軽減するために同調的に活性化された骨格筋の個々のグループのことを指します。健常な高齢者の歩行では、一般的に5つの筋シナジーが歩行周期の95%を占めています2)

最近では、脳卒中患者に対する筋シナジーの研究が多く報告されています3,4,5)。例えば、脳卒中患者では歩行中の筋シナジーが減少していること3)や歩行の筋シナジーと臨床評価(Fugl-Meyer assessment)と有意に相関することが明らかになっています4)

一方でパーキンソン病は最も一般的な神経変性疾患であり、歩行にも影響を与える疾患です。パーキンソン病は大脳基底核のドーパミン作動性ニューロンの機能低下に起因し、運動障害を特徴とします6)

大脳基底核は複数の皮質領域からの入力を受け、運動計画と初期の運動実行に重要な役割を果たします7)。また、大脳基底核は歩行に重要な領域である脚橋被蓋核と相互に接続しています8)

パーキンソン病の歩行に対する報告として、拮抗筋の共収縮9)、下肢遠位筋の振幅の低下10)、歩行速度の低下11)、転倒頻度の増加12)があります。また、パーキンソン病患者では、個々の筋で筋電図の異常は報告されているが、個々の筋電図信号を制御する筋シナジーの解析についての報告はありません。

本研究の目的は、パーキンソン病患者において、(1)個々の筋電図に異常が認められるかどうかを検証し、(2)筋シナジーを構成する筋加重ベクトルをパーキンソン病患者と健常高齢者間で比較し、(3)パーキンソン病患者と健常高齢者の生体力学的な歩行特性との関係を調査しました。

方法

・被験者はパーキンソン病患者15名(平均年齢66.6±7.8歳)と健常高齢者14名(平均年齢66.2±7.1歳)でした。

・被験者には上下肢に三次元動作分析装置の反射マーカー35個を貼り付け、筋電図を測定するためにヒラメ筋(SOL)、内側腓腹筋(GAS)、前脛骨筋(TA)、内側広筋(VM)、大腿直筋(RF)、半膜様筋(SM)、大腿二頭筋(BF)、および大殿筋(GM)に電極を貼り付けました。

・被験者は快適速度にて10分間歩行し、最後の4分間の筋電図および運動学的データを用いて解析した。

結果

・図1はパーキンソン病患者(PD)と健常高齢者(HOA)の筋シナジー数を示しています(Modules=シナジー)。パーキンソン病患者(PD)では、3.3%が3つ、83.3%が4つ、13.3%が5つの筋シナジーで構成されていました。一方で健常高齢者(HOA)では、7.1%が3つ、50%が4つ、35.7%が5つ、7.1%が6つで構成されていました。

図1

・図2(AとBはパーキンソン病患者、CとDは健常高齢者)は各筋がどのシナジーを構成しているかを示しています。各シナジーの筋肉の重み付けはグループ間で同等であり、筋シナジーが同じ場合はパーキンソン病患者の各筋の寄与は、健常高齢者の各筋の寄与と非常に類似していました。

図2

・図3は1歩行周期の各シナジーのピークと振幅を示しています。特にシナジーが4つの場合の第2と第3シナジーでは第2ピークが遅延しており、第3と第4シナジーの第2のピークの大きさが健常高齢者と比較して低かった(論文にはこれ以外の図のデータがあります)。

図3

・図4Aは推進力と図Bは足関節と膝関節の矢状面のモーメントを示しています。推進力はパーキンソン病と健常高齢者で有意差は認められませんでした。モーメントはパーキンソン病患者で膝関節のモーメントが有意に低くかった。

図4

まとめ

・本研究では、パーキンソン病患者と健常高齢者との間で歩行の筋シナジーを比較し、パーキンソン病患者のシナジー構成と歩行パラメータとの関係を調べた。

・パーキンソン病患者では歩行中の筋シナジー数は健常高齢者と比較して少なかった。また、筋の重み付けには影響はなかったが、活動のタイミングが変化していることが明らかになった。

・パーキンソン病患者では、神経筋制御が単純化されており、これらが歩行障害に寄与している可能性がある。また、筋活動のシナジー化(モジュール化)はパーキンソン病における筋発火パターンの複雑性の変化と歩行能力の神経学的強調性を定量的に示す指標となることが示唆された。

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参考文献

  1. Neptune RR, Clark DJ, Kautz SA. Modular control of human walking: a simulation study. J Biomech 2009;42:1282–7.
  2. Ivanenko YP, Poppele RE, Lacquaniti F. Five basic muscle activation patterns account for muscle activity during human locomotion. J Physiol 2004;556:267–82.
  3. Clark DJ, Ting LH, Zajac FE, Neptune RR, Kautz SA. Merging of healthy motor modules predicts reduced locomotor performance and muscle coordination complexity post-stroke. J Neurophysiol 2010;103:844–57.
  4. Bowden MG, Clark DJ, Kautz SA. Evaluation of abnormal synergy patterns poststroke: relationship of the Fugl-Meyer assessment to hemiparetic locomotion. Neurorehabil Neural Repair 2010;24:328–37.
  5. Nielsen JB, Brittain JS, Halliday DM, Marchand-Pauvert V, Mazevet D, Conway BA. Reduction of common motoneuronal drive on the affected side during walking in hemiplegic stroke patients. Clin Neurophysiol 2008;119:2813–8.
  6. Obeso JA, Marin C, Rodriguez-Oroz C, Blesa J, Benitez-Temiño B, Mena-Segovia J, et al. The basal ganglia in Parkinson’s disease: current concepts and unexplained observations. Ann Neurol 2008;64:S30–46.
  7. Alexander GE, DeLong MR, Strick PL. Parallel organization of functionally segregated circuits linking basal ganglia and cortex. Annu Rev Neurosci 1986;9:357–81.
  8. Mena-Segovia J, Bolam JP, Magill PJ. Pedunculopontine nucleus and basal ganglia: distant relatives or part of the same family? Trends Neurosci 2004;27:585–8.
  9. Dietz V, Zijlstra W, Prokop T, Berger W. Leg muscle activation during gait in Parkinson’s disease: adaptation and interlimb coordination. Electroencephalogr Clin Neurophysiol 1995;97:408–15.
  10. Cioni M, Richards CL, Malouin F, Bedard PJ, Lemieux R. Characteristics of the electromyographic patterns of lower limb muscles during gait in patients with Parkinson’s disease when OFF and ON L-Dopa treatment. Ital J Neurol Sci 1997;18:195–208.
  11. Knutsson E. An analysis of parkinsonian gait. Brain 1972;95:475–86.
  12. Pickering RM, Grimbergen YA, Rigney U, Ashburn A, Mazibrada G, Wood B, et al. A meta-analysis of six prospective studies of falling in Parkinson’s disease. Mov Disord 2007;22:1892–900.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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