医療従事者・研究者用ノート

パーキンソン病の姿勢反射障害に対する筋シナジー

パーキンソン病の姿勢反射障害は疾患の進行(ホーン・ヤールの重症度分類ステージⅡからステージⅢ)に伴って出現し、パーキンソン病において最も障害される症状であると報告されています。

本日は、パーキンソン病患者において筋シナジーの指標が姿勢安定性の変化を検出できるか(姿勢反射障害を予測できる指標であるか)を検証した論文を紹介します。

タイトル:Impaired synergic control of posture in Parkinson’s patients without postural instability.

著者:Falaki A, Huang X, Lewis MM, Latash ML.

雑誌:Gait and Posture. 2016;44:209-215.

研究の背景

パーキンソン病は安静時振戦、硬直、動作緩慢があることによって臨床的に診断されます。姿勢反射障害は、疾患の進行に伴って出現しパーキンソン病において最も障害される症状であると報告されています1)

姿勢反射障害はパーキンソン病において臨床的に重要な指標であり、ホーン・ヤールの重症度分類ステージⅡからステージⅢへの移行を示します。この姿勢反射障害に対する臨床評価としてPull Testが用いられます2,3)

最近の臨床研究における重心動揺検査の限界が強調されるようになってきていますが4)、ステージⅢでは、姿勢の揺らぎ、ステッピング前の姿勢調節に対する一貫した変化が報告されています5,6)

一方でパーキンソン病に対する筋シナジーの報告があり、筋シナジーは、臨床的に木識別可能な運動症状を示さない四肢においてもパーキンソン病であるという高いバイオマーカーとして使用される可能性があると報告されています7,8,9)。特にホーン・ヤールの重症度分類ステージⅠ(臨床症状が片側のみの場合)の患者では、症状がある方とない方で予測的な筋シナジー調節が低下していることが示されています7)

そこで本研究では、臨床的に姿勢反射障害を伴わないステージⅡのパーキンソン病患者において、圧力中心(COP)を安定化させる筋シナジーの指標が姿勢安定性の変化を検出できるかを検証しました。

方法

・対象はホーン・ヤールの重症度分類ステージⅡのパーキンソン病患者11名(女性6名、平均年齢69.4±6.3歳)と健常高齢者11名(女性5名、平均年齢65.3±8.1歳)でした。

・パーキンソン病患者は日常生活で転倒はなく、Pull Testで陰性であった。また、全ての患者で処方された薬を服薬していました。

・被験者はフォースプレートに立ち、前後方向の水平成分と垂直成分のモーメントを記録した。また、被験者から1.5m離れた目の高さにモニターを設置して視覚的フィードバックに用いました。

・表面筋電図は下記の右下肢に貼り付けました。

前脛骨筋(TA)、ヒラメ筋(SOL)、内側腓腹筋(GM)、外側腓腹筋(GL)、大腿二頭筋(BF)、半腱様筋(ST)、大腿直筋(RF)、内側広筋(VL)、中間広筋(VM)、大腿筋膜張筋(TFL)、腰部脊柱起立筋(ESL)、胸部脊柱起立筋(EST)、および腹直筋(RA)

・課題は2種類行いました。

1つ目の課題では、メトロノーム(0.5Hz)に合わせて前方に設置されたモニターに提示される前後方向のターゲット(ターゲット間の距離は6cm以上)に重心を移動させました。

2つ目の課題では、被験者は両手を伸ばした状態で重りを持ち(男性2kg、女性1.5kg、長さ20cm)、3cm前方のターゲットに重心を移動させ、そこで2-3秒間維持するようにしました。

結果

・すべての被験者で前方での重心移動の際に動作開始直後では最初は後方への重心移動(パーキンソン病患者1.5±0.28cm、健常高齢者1.4±0.23cm)が見られ、有意差は認められませんでした。

・図1は1名のパーキンソン病患者の課題時の筋電図を示しています。前方への重心移動前に予測的な姿勢制御が認められました。特に内側腓腹筋(GM)、大腿二頭筋(BF)、半腱様筋(ST)、腰部脊柱起立筋(ESL)、胸部脊柱起立筋(EST)に認められました。図の矢印は予測的な姿勢制御を示しています。

図1

・しかし、動作開始前の静止立位中では、パーキンソン病患者は健常高齢者と比較して筋シナジー指数(△VZ)が有意に低いことがわかりました(図2)。

図2

まとめ

・本研究は、パーキンソン病患者において筋シナジーの指標が姿勢安定性の変化を検出できるかを検証しました。

・パーキンソン病患者は筋シナジー指数が有意に低いことがわかりました。つまり、圧力中心(COP)を安定させる筋シナジー指標が有意に低下していることを意味しています。この指標は将来的に臨床で姿勢反射障害を予測できる指標となる可能性があります。

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参考文献

  1. Marras C, McDermott MP, Rochon PA, et al. Survival in Parkinson disease: thirteen-year follow-up of the DATATOP cohort. Neurology 2005;64:87–93.
  2. Goetz CG, Tilley BC, Shaftman SR, et al. Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (MDS-UPDRS): scale presentation and clinimetric testing results. Mov Disord 2008;23:2129–70.
  3. Fahn S, Jankovic J. Principles and practice of movement disorders. Philadelphia, PA: Churchill Livingstone; 2007.
  4. Visser JE, Carpenter MG, van der Kooij H, Bloem BR. The clinical utility of posturography. Clin Neurophysiol 2008;119:2424–36.
  5. Rogers MW, Kennedy R, Palmer S, et al. Postural preparation to stepping in patients with Parkinson’s disease. J Neurophysiol 2011;106:915–24.
  6. Boonstra TA, van Vugt JPP, van der Kooij H, Bloem BR. Balance asymmetry in Parkinson’s disease and its contribution to freezing of gait. PLoS One 2014;9:e102493.
  7. Park J, Wu Y-H, Lewis MM, Huang X, Latash ML. Changes in multi-finger interac- tion and coordination in Parkinson’s disease. J Neurophysiol 2012;108:915–24.
  8. Park J, Jo HJ, Lewis MM, Huang X, Latash ML. Effects of Parkinson’s disease on optimization and structure of variance in multi-finger tasks. Exp Brain Res 2013;231:51–63.
  9. Park J, Lewis MM, Huang X, Latash ML. Dopaminergic modulation of motor coordination in Parkinson’s disease. Parkinsonism Rel Disord 2014;20:64–8.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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