医療従事者・研究者用ノート

パーキンソン病の脳深部刺激療法が立位姿勢と手指の筋シナジーに与える影響

脳深部刺激療法(DBS)はパーキンソン病の効果的な治療法として用いられています。しかし、DBSはパーキンソン病のさまざまな指標に対して効果があるという報告とないという報告があり意見が分かれています。また、パーキンソン病に対して筋シナジー解析も多く報告されるようになってきました。

本日は筋シナジーの指標に対するDBS の効果を検討した論文を紹介します。

タイトル:Systemic effects of deep brain stimulation on synergic control in Parkinson’s disease.

著者:Falaki A,  Jin Jo H, Lewis MM, O’Connel B, Jesus SD, Mclnerney J, Huang X, Latash ML.

雑誌:Clinical Neurophysiology. 2018;129(6):1320-1332.

研究の背景

脳深部刺激療法(DBS)はパーキンソン病の効果的な治療法として用いられており、パーキンソン病治療薬との併用が行われています1)。多くの研究では、DBSがパーキンソン病の重症度を測るUnified Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS)の点数や最大筋力やピーク速度、反応時間などの一般的な臨床指標に対して効果的であることが報告されています2,3)。一方でDBSは全く効果がないという報告もあります4,5)。この違いは評価方法の違いを反映している可能性があります。

最近では、運動機能の筋シナジー制御に関する理論が開発され6)、パーキンソン病において障害される運動の安定性や機敏性を定量的に分析できるようになりました7)

最近の研究では、臨床検査で運動障害が検出されなかった場合でも、初期段階のパーキンソン病ではシナジーが損なわれていることが報告されています8)。例えば、身体の片側にしか症状が認められない患者(ホーン・ヤール分類のステージⅠ)では両手のシナジー制御が障害されているという報告があります9)

しかし、DBSが筋シナジーどのような影響を与えるのかは明らかではありません。

本研究は、筋シナジーの指標に対するDBS の効果を検討しました。

方法

・被験者は男性パーキンソン病患者10名(平均年齢61±10歳)であった。

・10名のうち7名は視床下核にDBSのリードが設置されており、3名は両側淡蒼球にリードが設置されていました。

手指課題

示指、中指、環指、小指で垂直方向の力を記録するために図1の装置を使用し、最大随意収縮(MVC)および瞬発力を測定しました。計測は2回行いました。

図1

立位姿勢課題

フォースプレートを使用して圧力中心(COP)のX、Y座標を計算しました。

課題は2つあり、1つ目がフォースプレートが前後方向に0.5Hzで30秒間揺れる課題、2つ目が被験者は腕を伸ばした状態で荷重(男性2kg、女性1.5kg)を持ち、前方にあるモニターに提示されたターゲットに向かって重心を移動させる課題でした(図2)。

図2

また、課題時に下肢の13個の筋から筋電図を測定しました。

前脛骨筋 (TA)、ヒラメ筋 (SOL)、内側腓腹筋 (GM)、外側腓腹筋 (GL)、大腿二頭筋 (BF)、半腱様筋 (ST)、大腿二頭筋 (RF)。外側広筋(VL)、内側広筋(VM)、大腿筋膜張筋(TFL)、腰部脊柱起立筋(ESL)、胸部脊柱起立筋(EST)、腹直筋(RA)

結果

・図3は手指シナジーと予測的姿勢調節を示しています。DBS-on(赤線)のときとDBS-off(青線)のときで手指のシナジーに有意な変化は認められませんでした。しかし、予測的姿勢制御はDBS-onでDBS-offと比較して開始が早いことがわかりました。

図3

・図4は姿勢制御課題のDBS-onとDBS-offの結果を示しています。DBS-onのときはDBS-offのときと比較して予測的姿勢調節が早く開始されることがわかりました。しかし、姿勢調節の安定性には有意な差は認められませんでした。

図4

・図5は手指のシナジー指数と立位姿勢時の筋シナジーの相関を示しています。図5Aは安静状態の平均値(△VSS)、図5Bは初期予測的姿勢調節(tASA)、図5Cは予測的姿勢調節の大きさ(△VASA)を示しています。安静状態の平均値(△VSS)と初期予測的姿勢調節(tASA)で有意な相関が認められました。

図5

まとめ

・本研究では、パーキンソン病患者における深部脳刺激が手指の筋シナジーと立位姿勢時の筋の制御(筋シナジー)に及ぼす影響を検討した。

・深部脳刺激は手指および立位姿勢の予測的姿勢調節に影響した。また、手指の筋シナジー指数と立位姿勢時の筋シナジー指数間の安静状態の平均値と初期予測的姿勢調節で相関関係が認められた。

・深部脳刺激は予測的姿勢調節には効果があるが、安定性には効果がないことが明らかになった。

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参考文献

  1. DeLong MR, Wichmann T. Basal ganglia circuits as targets for neuromodulation in Parkinson disease. JAMA Neurol 2015;72:1354–60.
  2. Daneault JF, Carignan B, Sadikot AF, Duval C. Subthalamic deep brain stimulation and dopaminergic medication in Parkinson’s disease: impact on inter-limb coupling. Neuroscience 2016;335:9–19.
  3. Alberts JL, Okun MS, Vitek JL. The persistent effects of unilateral pallidal and subthalamic deep brain stimulation on force control in advanced Parkinson’s patients. Parkinsonism Relat Disord 2008;14:481–8.
  4. Schettino LF, Van Erp E, Hening W, Lessig S, Song D, Barba D, et al. Deep brain stimulation of the subthalamic nucleus facilitates coordination of hand preshaping in Parkinson’s disease. Int J Neurosci 2009;119:1905–24.
  5. Israeli-Korn SD, Hocherman S, Hassin-Baer S, Cohen OS, Inzelberg R. Subthalamic nucleus deep brain stimulation does not improve visuo-motor impairment in Parkinson’s disease. PLoS One 2013;8:e65270.
  6. Latash ML. Towards physics of neural processes and behavior. Neurosci Biobehav Rev 2016;69:136–46.
  7. Latash ML, Huang X. Neural control of movement stability: lessons from studies of neurological patients. Neuroscience 2015;301:39–48.
  8. Falaki A, Huang X, Lewis MM, Latash ML. Impaired synergic control of posture in Parkinson’s patients without postural instability. Gait Posture 2016;44:209–15.
  9. Lewis MM, Lee E-Y, Jo HJ, Park J, Latash ML, Huang X. Synergy as a new and sensitive marker of basal ganglia dysfunction: a study of asymptomatic welders. Neurotoxicology 2016;56:76–85.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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