医療従事者・研究者用ノート / 一般向けノート

心肺機能と手指の巧緻性を高めるとワーキングメモリーの機能も高める

以前から身体機能が高い人は認知機能も高いと言われていますが、そのメカニズムは明らかではありません。

本日は、身体機能とワーキングメモリーとの関係性のメカニズムを明らかにした研究を紹介します。

タイトル:Identification of the brain networks that contribute to the interaction between physical function and working memory: An fMRI investigation with over 1,000 healthy adults.

著者:Ishihara T, Miyazaki A, Tanaka H, Matsuda T.

雑誌:NeuroImage. 2020;221:117152.

研究の背景

ワーキングメモリーとは「情報を一時的に保持し、操作する能力」と定義されています1)。例えば、計算する時に数字を一時的に保持したり、To doリストを認識したりするなど日常生活において重要な役割を果たしています。

過去20年間の研究で定期的な運動による高いレベルの身体機能と年齢に関係なくワーキングメモリーのパフォーマンスとの関係について多くの報告がされています2,3,4)。例えば、身体機能のレベルが高いことと前頭前野の灰白質の体積と関連があること5)や心肺機能と前頭-頭頂ネットワークやデフォルトモードネットワークの安静時機能的結合との間に正の相関が認められたと報告しています6)

つまり、身体機能が高い人は認知機能も高いことが多くの論文で示されていますが、そのメカニズムは明らかではありません。

本研究はワーキングメモリーのパフォーマンスと身体機能(心肺機能、歩行速度、手指の巧緻性、筋力)との関係性のメカニズムを明らかにすることです。

方法

・被験者は22〜37歳を対象とした健常者1033名であった。

・身体機能は以下の4つの機能を評価した

  • 2分間歩行テスト:6分間歩行テストの短縮版である。2分間歩行と6分間歩行では強い相関関係があることが明らかになっているため2分間歩行テストを採用した7)。この時の最大酸素摂取量を測定した。
  • 歩行速度:4mの距離を普段歩く速度で歩行してもらい、時間を計測した。
  • 手指の巧緻性:9本のペグを用いて、ペグを正確な位置に置くことと取ることの時間を計測した。
  • 筋力:年齢に関係なく握力のパフォーマンスは全身の筋力レベルの予測因子であることが報告されている8)ため握力を計測した。

・ワーキングメモリー

ワーキングメモリーはN-back課題を用いた。 また、N-back課題を行いながらMRIを撮像した。       

結果

・図1はワーキングメモリーと各身体機能の項目(2分間歩行テスト(心肺機能)、歩行速度、手指の巧緻性、筋力)との相関関係を示しています。

結果は、ワーキングメモリーと2分間歩行テスト(心肺機能)、手指の巧緻性、筋力に正の相関が認められました。しかし、歩行速度に相関は認められませんでした。

・図2は身体機能(心肺機能と手指の巧緻性)と脳活動、ワーキングメモリーの正答率の関係性を示しています。また、脳活動のComponent11及び19が前頭-頭頂ネットワーク、Componet2がデフォルトモードネットワークを示しています。

図2

結果は、心肺機能と手指の巧緻性は前頭-頭頂ネットワークの一部の脳領域の活動(Component11)の増加と関連しており、ワーキングメモリー課題の正答率に関連していることがわかりました。また、心肺機能は別の前頭-頭頂ネットワークの一部の脳領域の活動(Component19)の増加と関連しており、手指の巧緻性はデフォルトモードネットワークの一部の脳活動(Component2)の低下と関連していることがわかりました。そして、これらもワーキングメモリー課題の正答率と関連していることがわかりました。

まとめ

・本研究はワーキングメモリーと身体機能(心肺機能、歩行速度、手指の巧緻性、筋力)との関係性のメカニズムを調べた。

・心肺機能と手指の巧緻性は前頭-頭頂ネットワークとデフォルトモードネットワークの脳活動と関連しており、ワーキングメモリーの性能に寄与している可能性が示唆された。

・心肺機能と手指の巧緻性にはワーキングメモリーを向上させる共通のメカニズムがあることが明らかになった。

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参考文献

  1. Diamond, A., 2013. Executive functions. Annu. Rev. Psychol. 64, 135–168.
  2. Voelcker-Rehage, C., Godde, B., Staudinger, U.M., 2010. Physical and motor fitness are both related to cognition in old age. Eur. J. Neurosci. 31, 167–176
  3. Kao, S.-C., Westfall, D.R., Parks, A.C., Pontifex, M.B., Hillman, C.H., 2017. Muscular and aerobic fitness, working memory, and academic achievement. In: Children: Medicine & Science in Sports & Exercise, vol. 49, pp. 500–508.
  4. Kramer, A.F., Colcombe, S., 2018. Fitness effects on the cognitive function of older adults: a meta-analytic study—revisited. Perspect. Psychol. Sci. 13, 213–217.
  5. Weinstein, A.M., Voss, M.W., Prakash, R.S., Chaddock, L., Szabo, A., White, S.M., Wojcicki, T.R., Mailey, E., McAuley, E., Kramer, A.F., Erickson, K.I., 2012. The association between aerobic fitness and executive function is mediated by prefrontal cortex volume. Brain Behav. Immun. 26, 811–819.
  6. Talukdar, T., Nikolaidis, A., Zwilling, C.E., Paul, E.J., Hillman, C.H., Cohen, N.J., Kramer, A.F., Barbey, A.K., 2018. Aerobic fitness explains individual differences in the functional brain connectome of healthy young adults. Cerebr. Cortex 28, 3600–3609.
  7. Bohannon, R.W., Bubela, D., Magasi, S., McCreath, H., Wang, Y.-C., Reuben, D., Rymer, W.Z., Gershon, R., 2014. Comparison of walking performance over the first 2 minutes and the full 6 minutes of the Six-Minute Walk Test. BMC Res. Notes 7, 269. 
  8. Beenakker, K.G.M., Ling, C.H., Meskers, C.G.M., de Craen, A.J.M., Stijnen, T., Westendorp, R.G.J., Maier, A.B., 2010. Patterns of muscle strength loss with age in the general population and patients with a chronic inflammatory state. Ageing Res. Rev. 9, 431–436.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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