医療従事者・研究者用ノート

アルコール依存症と脳

先日、元有名人が飲酒運転で逮捕されました。この方は以前からアルコールに依存していたようです(アルコール依存症)。このようなアルコール依存症の方の脳内はどのようになっているのでしょうか?

本日はアルコール依存症の扁桃体と眼窩前頭皮質間の機能的結合を調べた論文を簡単に紹介します。

タイトル:Amygdala-orbitofrontal functional connectivity mediates the relationship between sensation seeking and alcohol use among binge-drinking adults.

著者:Crane NA, Gorka SM, Phan KL, Childs E.

雑誌:Drug Alcohol Depend. 2018;192:208-214.

研究の背景

眼窩前頭皮質の機能として、報酬処理、意思決定、感情調節に関与しています1,2)

そして、眼窩前頭皮質は感情情報の処理に関与している扁桃体に対して、トップダウンの抑制制御を行うと考えられています。このトップダウン的制御がなければ衝動的に行動してしまったり、目標に向かった行動が困難になると報告されています3)

眼窩前頭皮質と扁桃体間の機能的結合が高いほど、感情の調節と自己をコントロールする能力が高いことが報告されています4)

一方で、感情の調節や自己をコントロールができない人(衝動性やリスクを求める人)は眼窩前頭皮質と扁桃体に構造的および機能的変化が報告されています5)

また、これらの脳領域の変化は衝動的な性格気質またはアルコール依存症と強く関連していると報告されています6)

これらの先行研究から眼窩前頭皮質と扁桃体間の機能的結合の低下が衝動性を調節できないことを介してアルコール依存症に関連している可能性があると仮説を立てました。

本研究では、普段からお酒を飲んでいるアルコール依存症のリスクの高い若年者に対して眼窩前頭皮質と扁桃体間の機能的結合を調べ、さらに特徴的な性格との関連を調べました。

方法

健康な男女39名(21-35歳)を対象に眼窩前頭皮質と扁桃体間の安静時機能的結合を調べ、DSM-IV(人格障害の全般的診断)を測定して安静時機能的結合との関係を調べました。

結果

・図1は眼窩前頭皮質と扁桃体間の安静時機能的結合と毎週の飲酒量の相関を示しています。

図1

眼窩前頭皮質と扁桃体間の安静時機能的結合と毎週の飲酒量には負の相関が認められました。つまり、眼窩前頭皮質と扁桃体間の安静時機能的結合が低いと飲酒量は高いということを意味しています。

・また、眼窩前頭皮質と扁桃体間の安静時機能的結合が低い人は常に刺激を求める性格と関連していることがわかりました。

まとめ

・本研究では、普段からお酒を飲んでいる若年成人の眼窩前頭皮質と扁桃体間の機能的結合とアルコール使用、および特徴的な性格との関係を検証しました。

・眼窩前頭皮質と扁桃体間の機能的結合の低下が、高い飲酒量と刺激を求める性格の両方に関連していることを明らかにしました。

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参考文献

  1. Bechara A, 2001 Neurobiology of decision-making: Risk and reward. Semin. Clin. Neuropsychiatry 6, 205–216.
  2. Rolls ET, 2004 The functions of the orbitofrontal cortex Brain Cogn. 55, 11–29.
  3. Casey BJ, Jones RM, Hare TA, 2008 The adolescent brain. Ann. N. Y. Acad. Sci 1124, 111–126.
  4. Lee H, Heller AS, van Reekum CM, Nelson B, Davidson RJ, 2012 Amygdala-prefrontal coupling underlies individual differences in emotion regulation. Neuroimage 62, 1575–1581.
  5. White TL, 2017 Beyond sensation seeking: A conceptual framework for individual differences in psychostimulant drug effects in healthy humans. Curr. Opin. Behav. Sci 13, 63–70.
  6. Verdejo-Garcia A, Lawrence AJ, Clark L, 2008 Impulsivity as a vulnerability marker for substance-use disorders: Review of findings from high-risk research, problem gamblers and genetic association studies. Neurosci. Biobehav. Rev 32, 777–810.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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