医療従事者・研究者用ノート

脳の中のこびと「ホムンクルス」

一次体性感覚野と一次運動野にホムンクルスがあることは有名ですが、その他にも第二次体性感覚野や補足運動野、上頭頂小葉や下頭頂小葉、下前頭回や弁蓋部、帯状皮質にホムンクルスがあることが明らかになっています。

しかし、一次体性感覚野の皮質表面の空間分布がどのようになっているかは明らかではなく、解剖学的に異なる領域のホムンクルスの形は明らかではありません。

本日は、一次体性感覚野の空間分布を定量化したこと、さらに解剖学的に異なる皮質領域の身体部位の空間分布を定量化した論文を紹介します。

タイトル:The ‘creatures’ of the human cortical somatosensory system.

著者:Saadon-Grosman N, Loewenstein Y, Arzy S.

雑誌:Brain Communications. 2020;2(1):1-10.

研究の背景

医療職であれば一度は耳にしたことがある「ホムンクルス」、これはラテン語で「小さな人」を意味しています。

これは80年前にPenfieldとBoldreyが脳の手術を受けた患者に対して一次体性感覚野と一次運動野の皮質表面を電気刺激して明らかにています1)。彼らの重要な発見の1つは、身体部位に関連する皮質表面積(身体部位の空間分布)は、身体部位自体の表面積に比例していないということです。例えば、実際の手や顔は身体の表面積からしたら少ないですが、皮質表面積ではかなり大きく、逆に体幹や下肢は身体の表面からしたら大きいですが、皮質表面積では小さくなります。

このホムンクルスは、一次体性感覚野と一次運動野だけではなく、第二次体性感覚野や補足運動野にもあることが報告されています2,3,4)

その後の脳機能イメージング技術が発展するとともに、上頭頂小葉や下頭頂小葉5,6)、下前頭回や弁蓋部7)、帯状皮質8)にホムンクルスがあることが報告されています。

しかし、一次体性感覚野の皮質表面の空間分布がどのようになっているかは明らかではなく、解剖学的に異なる領域のホムンクルスの形は明らかではありません。

本研究の目的は、第一に体性感覚野全体の空間分布を定量化すること、第二に解剖学的に異なる皮質領域における身体部位の空間分布を定量化することです。

方法

・被験者は健常成人20名(女性9名、平均年齢:27.4±6歳)であった。

・MR撮像中に図1のように感覚刺激を行った。

図1

結果

・図2は一次体性感覚野の空間分布の定量的データ(左)と感覚刺激に反応した領域(一次体性感覚野、一時運動や、補足運動野、後島皮質、上頭頂小葉、下頭頂小葉、下前頭回、弁蓋部、帯状皮質)全体の空間分布の定量的データを示しています。

図2

一次体性感覚野のみの分布では、舌が28.9%、上肢が46.3%、体幹が15.8%、下肢が9.1%であった。一方で全体の空間分布では、舌が20.1%、上肢が41.1%、体幹が31.1%、下肢が7.6%であり、舌の範囲が小さくなり、体幹の範囲が大きいことが明らかになりました。

・図3は4つの領域(頭頂葉(一次体性感覚野と後方)、前頭葉(一次体性感覚野より前方)、内側壁(一次体性感覚野より内側)、弁蓋部と島皮質(一次体性感覚野の下))の空間分布の定量的データとホムンクルスを示しています。

図3

一次体性感覚野のホムンクルスと最も異なる部位は内側壁であり、内側壁は実際の身体部位の表面積と類似していることがわかりました。このように、4つの領域は他の領域と空間分布が異なっていることがわかりました。

・また、側頭-頭頂接合部と下側頭回に新たな体性感覚表象が確認されました。

まとめ

・本研究では、一次体性感覚野の空間分布を定量化することと解剖学的に異なる皮質領域の空間分布を明らかにすることです。

・一次体性感覚野の空間分布の定量的データが明らかとなり、また他の領域の空間分布は一次体性感覚野と大きく異なることが明らかになりました。

・このことから、身体部位の空間分布はそれぞれの部位に固有のものであり、その部位の昨日の特殊性と関連している可能性が高いことが明らかになりました。

・これらの知見は、体性感覚がヒトの認知に大きな役割を果たしていることを示唆しており、今後の研究において「体性感覚認知」という枠組みで研究していく必要があります。

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参考文献

  1. Penfield W, Boldrey E. Somatic motor and sensory representation in the cerebral cortex of man as studied by electrical stimulation. Brain 1937; 60: 389–443.
  2. Penfield W. The supplementary motor area in the cerebral cortex of man. Arch F Psychiatr U Z Neur 1950; 185: 670–4. Penfield.
  3. Penfield W, Jasper H. Epilepsy and the functional anatomy of the human brain. Oxford: Little, Brown & Co; 1954. Penfield.
  4. Penfield W, Faulk ME. The insula: further observations on its function. Brain 1955; 78: 445–70.
  5. Ruben J, Schwiemann J, Deuchert M, Meyer R, Krause T, Curio G, et al. Somatotopic organization of human secondary somatosensory cortex. Cereb Cortex 2001; 11: 463–73.
  6. Huang R-S, Chen C, Tran AT, Holstein KL, Sereno MI. Mapping multisensory parietal face and body areas in humans. Proc Natl Acad Sci USA 2012; 109: 18114–9.
  7. Hagen MC, Zald DH, Thornton TA, Pardo JV. Somatosensory processing in the human inferior prefrontal cortex. J Neurophysiol 2002; 88: 1400–6.
  8. Arienzo D, Babiloni C, Ferretti A, Caulo M, Del Gratta C, Tartaro A, et al. Somatotopy of anterior cingulate cortex (ACC) and supplementary motor area (SMA) for electric stimulation of the median and tibial nerves: an fMRI study. Neuroimage 2006; 33: 700–5. Begliomini.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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