医療従事者・研究者用ノート / 一般向けノート

脳の構造から自殺リスクを予測する

先日も有名人の悲しい出来事がありました。

自殺願望がある人の脳がどのような構造学的変化があるのかが最近の研究で少しずつ明らかになってきています。

今回は、機械学習によって自殺願望がある人を脳の構造学的変化から予測できるのかを検証した論文を紹介します。

タイトル:An Autoencoder and Machine Learning Model to Predict Suicidal Ideation with Brain Structural Imaging.

著者:Weng JC, Lin TY, Tsai YH, Cheok MT, Chang YP, Chen V.

雑誌:Journal of Clinical Medicine. 2020;9(3):658.

研究の背景

自殺は世界的に重要かつ深刻な問題として取り上げられている。2012年には約80万人が自傷行為によって死亡している1)。国際的な調査では、生涯にわたる自殺願望の有病率は9.2%であることが示されている2)。つまり、10人に1人が自殺を一度は考えたということになる。

自殺リスク評価はなく、精神科医の経験に依存している状態である。そのため、退院後に患者の自殺率が非常に高いのは、自殺リスク評価の限界を反映していることが報告されている3)

最近の脳機能イメージング研究によって自殺願望患者の構造学的変化が明らかになってきた。うつ病患者の自殺願望がある患者では、実行機能や衝動性に関連する領域を含む前頭皮質-皮質下間の機能的結合が低下していることが報告されている4)。また、前頭-頭頂領域や島皮質の脳の厚さが減少し、さらに後頭-頭頂葉領域や大脳基底核、視床に隣接する線維の異方性の違いが観察されたと報告されている5)

しかし、これらは個々で自殺リスクがあるのか、ないのかを検出するのではなく、自殺願望があるグループとないグループを区別することしかできない。

本研究では、機械学習に基づいた解析を用いて、MRIで得られた脳の構造学的変化が自殺願望がある人とない人を予測できるのかを検証した。

方法

・対象は、自殺願望のあるうつ病患者41名、自殺願望のないうつ病患者54名、健常者58名であった。

・3TのMR装置を用いて、拡散テンソン画像を撮像した。

・得られた画像から、異方性比率、配向分布関数の等方性値、定量的異方性の指標を機械学習モデルで個別に学習させた。そして、教師付き機械学習アルゴリズム、ロジスティック回帰分析を用いて上記の3群を分類させた。

結果

予測精度85%、特異度100%、感度75%で自殺願望者を分類することが可能であった。

まとめ

・本研究では、機械学習を用いて脳の構造学的変化から自殺願望者を分類できるかを検証した。

・結果は、予測精度85%、特異度100%、感度75%で自殺願望者を分類することが可能であった。

・このアルゴリズムは臨床評価と並行して自殺リスクを特定するための客観的なツールとして使用することができる可能性がある。

・これらのアルゴリズムがさらに高い精度で早く臨床に応用されることを切に願います。

参考文献

  1. World-Health-Organization. Preventing Suicide: A Global Imperative; WHO: Geneva, Switzerland, 2014.
  2. Nock, M.K.; Borges, G.; Bromet, E.J.; Alonso, J.; Angermeyer, M.; Beautrais, A.; De Graaf, R. Cross-national prevalence and risk factors for suicidal ideation, plans and attempts. Br. J. Psychiatry 2008, 192, 98–105.
  3. Isometsa, E.; Sund, R.; Pirkola, S. Post-discharge suicides of inpatients with bipolar disorder in Finland. Bipolar Disord. 2014, 16, 867–874.
  4. Myung,W.; Han, C.E.; Fava, M.; Mischoulon, D.; Papakostas, G.I.; Heo, J.Y.; Kim, K.W.; Kim, S.T.; Kim, D.J.H.; Seo, S.W.; et al. Reduced frontal-subcortical white matter connectivity in association with suicidal ideation in major depressive disorder. Transl. Psychiatry 2016, 6, e835.
  5. Taylor, W.D.; Boyd, B.; McQuoid, D.R.; Kudra, K.; Saleh, A.; MacFall, J.R. Widespread white matter but focal gray matter alterations in depressed individuals with thoughts of death. Prog. Neuropsychopharmacol. Biol. Psychiatry 2015, 62, 22–28.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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