医療従事者・研究者用ノート

身体図式 -道具を使用していない手足の身体図式はどうなってるのか?-

多くの研究で道具使用による身体図式の拡張が起こることが報告されています。つまり、道具の先端まで自分の身体の一部であると認識することを意味しています。

しかし、これは道具を使用している手や足の話です。では、道具を使用していない手足の身体図式はどのようになっているのでしょうか?

本日は、道具を使用していない手足の身体図式の拡張が生じるかどうかを調べた論文を紹介します。

タイトル:Tool-Use Training Induces Changes of the Body Schema in the Limb Without Using Tool.

著者:Sun Y and Tang R.

雑誌:Frontiers in Human Neuroscience. 2019;13:1-8.

研究の背景

私たちは、道具使用によってその道具が自分の身体の一部として認識する傾向があり、身体部分の認識が拡張され、身体図式が変化することが明らかになっている1,2)。これは道具の身体化現象と呼ばれている。

人間は道具が身体の一部であると認識すると、より効率的かつ正確に道具を制御できると報告されている3)。おそらく、道具への依存度が高い人は道具の身体化がより重要である。

例えば、四肢の切断者は義手や義足を使用してより柔軟な運動を行うことが可能であり、盲人は杖を使用して周囲の空間を探索することが可能である。

しかし、道具を使用している手以外の手足(つまり、右手で棒などを使用している場合は左手や両下肢)の身体図式が変化するかは不明である。

本研究では、道具を使用していない手足の身体図式の拡張が生じるかどうかを調べた。

方法

・被験者は健常者56名(女性31名、平均年齢21.7±2.1歳)で参加者は全員右利きであった。

・被験者には図1のように目隠しをした状態で2つの課題を行ってもらった。

図1

条件1:右手で杖を使って対象物を探す

条件2:右手で杖を使って歩く

・この課題の前後にTactile distance judgment task(図2)の検査を両側の手、前腕、下腿、足に行った。

図2

結果

・条件1では、道具使用側の前腕部の触覚距離知覚は有意に長くなったが、他の部位では有意な変化は認められなかった。

・条件2では、道具使用側の手と前腕の触覚距離知覚は有意に長くなり、さらに非道具使用側の下腿部の知覚も長くなった。

まとめ

・本研究では、道具を使用していない手足の拡張が生じるかどうかを検証した。

・右手で杖を使って対象物を探す条件では、右手の前腕部の触覚距離知覚は有意に拡張したが、他の部位では有意な変化は認められなかった。

・右手で杖を使って歩く条件では、道具使用側の手と前腕の触覚距離知覚は有意に拡張し、さらに非道具使用側の下腿部の知覚も拡張した。

・この非道具使用側の下腿部の知覚も拡張した理由として、目隠しをした状態で歩行しているため、下肢に対しても注意を払っていたことが考えられる。

・日常生活には様々な道具を使用する場面がある。すべての場面で非道具使用側の身体図式の拡張は起こらないが、今回の研究で非道具使用側の身体図式の拡張も起こる可能性があることが示された。

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参考文献

  1. Iriki, A., Tanaka, M., and Iwamura, Y. (1996). Coding of modified body schema during tool use by macaque postcentral neurones. Neuroreport 7, 2325–2330.
  2. Sposito, A., Bolognini, N., Vallar, G., and Maravita, A. (2012). Extension of perceived arm length following tool-use: clues to plasticity of body metrics. Neuropsychologia 50, 2187–2194.
  3. Cardinali, L., Brozzoli, C., Finos, L., Roy, A. C., and Farnè, A. (2016a). The rules of tool incorporation: tool morpho-functional and sensori-motor constraints. Cognition 149, 1–5.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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