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健常者は右半側空間無視??

健常者の注意は若干ですが、左側に偏っていることがわかっています。これは「擬似無視」と呼ばれています。本日は擬似無視について書きたいと思います。

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健常者では半側空間無視の課題(線二等分試験)を行うと、中間点よりも若干ですが、左側に偏ることがわかっています1)。これは右半球損傷による左半側空間無視が示す右方向への偏りと逆になります。

しかし、左側への偏りもわずかであり、特に日常生活に影響もないため右半側空間無視とは呼ばず、「擬似無視」と呼ばれています2)

ではなぜ、健常者で擬似無視が生じるのか?

いくつかの仮説が提唱されてはいますが、最も有力な説では、空間性注意は右半球が優位であることからこのような現象が起こることがいくつかの論文で報告されています3,4)

一般的に右半球は左視野と右視野の注意を担っているのに対して、左半球は右視野のみの注意を担っています(図1)。

図1

さらに、右半球は左視野の注意を100%担っていますが、右視野の注意は100%担っていません。左半球から右視野を担う比率と合わせて100%担っているということになります5)(図2)。

図2

右視野は左右半球合わせて100%担っていることが、健常者の注意課題において左側に若干偏ってしまうことが原因であると言われています。

つまり、注意課題を行うと右半球が優位に活動し、右半球は左視野の方が担う比率が高いことから左視野に注意が向きやすくなり、左側に偏ることが明らかになっています6)

しかし、これは空間性注意が右半球に優位な人の話です。

空間性注意が左半球に優位な人が約14%存在していることが多くの論文で明らかになっています7,8,9)

では、空間性注意が左半球に優位な14%の人は注意課題を行った時にどちら側に偏ってしまうのでしょうか?

これまでの話からすると、空間性注意が左半球に優位であれば線分抹消試験は右側に偏ると仮説を立てることができます。

しかし、結果は空間性注意が左半球に優位の人でも左側に偏ることがわかりました10)(図3)。

図3

つまり、上記で述べた最も有力な説は絶対ではなく、一要因に過ぎないことがわかります。

その他の要因の1つとして考えられることは、普段から文章を読む方向によっても偏りがあるということがわかっています。

つまり、英文などは左側から読むことがほとんどであるため、左側に偏りが生じてしまうということです。もしかすると、日本人は右側から読む本もあるので、外国人とは違った結果になる可能性も考えられます。

ある研究によると、文章を右側から読むことをした後に線分二等分試験を行うと右向きに偏ったことが報告されています11,12)

以上のことから、神経機構から原因を考えることは重要ですが、個々の環境や他の要因についても考えることで広い視野の考察ができるかもしれません。

参考文献

  1. Jewell, G., McCourt, M.E., 2000. Pseudoneglect: a review and meta-analysis of performance factors in line bisection tasks. Neuropsychologia 38, 93–110.
  2. Bowers, D., Heilman, K.M., 1980. Pseudoneglect: Effects of hemispace on a tactile line bisection task. Neuropsychologia 18, 491–498.
  3. Bultitude, J.H., Aimola Davies, A.M., 2006. Putting attention on the line: Investigating the activation– orientation hypothesis of pseudoneglect. Neuropsychologia 44, 1849–1858.
  4. Nicholls, M.E., Roberts, G.R., 2002. Can Free-Viewing Perceptual Asymmetries be Explained by Scanning, Pre-Motor or Attentional Biases? Cortex 38, 113–136.
  5. Weintraub S., Mesulam MM. 1987. Right cerebral dominance in spatial attention. Further evidence based on ipsilateral neglect. Arch Neurol 44,621-625.
  6. Ochando, A., Zago, L., 2018. What Are the Contributions of Handedness, Sighting Dominance, Hand Used to Bisect, and Visuospatial Line Processing to the Behavioral Line Bisection Bias? Front. Psychol. 9, 1688.
  7. Floel, A., Buyx, A., Breitenstein, C., Lohmann, H., Knecht, S., 2005. Hemispheric lateralization of spatial attention in right- and left-hemispheric language dominance. Behavioural Brain Research 158, 269–275.
  8. Badzakova-Trajkov, G., Häberling, I.S., Roberts, R.P., Corballis, M.C., 2010. Cerebral Asymmetries: Complementary and Independent Processes. PLoS ONE 5, e9682.
  9. Vingerhoets, G., 2019. Phenotypes in hemispheric functional segregation? Perspectives and challenges. Physics of Life Reviews 30, 1–18.
  10. Gerrits R., Verhelst H., Vingerhorts G. 2020. Hemispheric dominance for visuospatial attention does not predict the direction of pseudoneglect. Neuropsychologia.
  11. Chokron, S., De Agostini, M., 1995. Reading habits and line bisection: a developmental approach. Cognitive Brain Research 3, 51–58.
  12. Chokron, S., Imbert, M., 1993. Influence of reading habits on line bisection. Cognitive Brain Research 1, 219–222.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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