医療従事者・研究者用ノート

ピアニストは大脳基底核が小さい

これまでのさまざまな研究から高度な訓練を受けた人の大脳基底核、特に被殻の体積が小さいことが明らかになっています。

本日は、健常なピアニストとジストニアを発症したピアニストの被殻の体積の違いとピアノ演奏技能との関係を調べた研究を紹介します。

タイトル:Sensorimotor skills and focal dystonia are linked to putaminal grey-matter volume in pianists.

著者:Granert O, Peller M, Jabusch HC, Altenmuller E, Siebner H.

雑誌:J Neurol Neurosurg. 2011;82(11):1225-1231.

研究の背景

灰白質の体積を調べたいくつかの研究では、ジャグリングなどの手先を使う訓練を長期間受けた人は灰白質の体積が局所的に増加することが明らかになっています1,2)

一方で、左利きであったが強制的に右利きに変更した人を対象とした研究では、右利きまたは左利きの人と比較して大脳基底核の被殻の体積が小さいという研究3)やバレーダンサーは被殻の体積が小さいという研究もあります4)

これらの知見から、被殻の体積が小さいことが高い習熟度と関連している可能性が示唆されています。逆に被殻の体積が大きいと機能不全のリスクやピアニストであればジストニアのリスクが高まる可能性があります。

本研究では、ジストニアを発症しているピアニストとそうでないピアニストの被殻の体積の違いとピアノ演奏の技能との関係を検証しました。

方法

・被験者は11名のジストニアを発症しているピアニストと12名の健常なピアニストでした。

・ピアノ演奏の能力は、先行研究5)のプロトコルにしたがってMIDI(Musical Instrument Digital Interface)を用いて評価しました。そして、MAX-mSDIOIを算出しました。このパラメーターはピアノ演奏のリズムのばらつきを示しており、技能レベルの指標として報告されています5)。つまり、この指標が高いほどリズムにばらつきがあると言えます。

・MR撮像は3Tの装置を使用して撮像しました。

結果

・図1はジストニアと健常者の被殻の体積を比較した図(A)とそれぞれの体積(B)を示しています。

図1

結果は、ジストニアの被験者は健常者よりも左右の被殻の体積が大きく、さらに右の被殻はより大きいことがわかりました。

・図2は左右の被殻の体積と右手のピアノ演奏時のリズムのばらつき(MAX-mSDIOI)を示しています。また、緑印が健常者、赤印がジストニアを示しています。

図2

結果は、健常者もジストニアもリズムのばらつきが大きいほど、被殻の体積が大きいことがわかりました。つまり、ピアノ演奏の精度が高いほど、被殻の体積が小さいことがわかりました。

まとめ

・本研究では、ジストニアのピアニストと健常なピアニストの被殻の体積の違いとピアノ演奏の技能との関係を検証した。

・ジストニアの被験者は健常者よりも左右の被殻の体積が大きく、さらに右の被殻はより大きいことがわかった。また、ピアノ演奏の精度が高いほど、被殻の体積が小さいことがわかった。

・高度な訓練を受けたピアニストは被殻の体積が小さいことが明らかになり、この体積はピアノ演奏レベルとジストニアの有無の両方を反映している可能性がある。

・また、これまでの報告からピアニストだけではなく、さまざまな業種の高度な訓練を受けた人の被殻の体積は小さい可能性がある。

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参考文献

  1. Draganski B, Gaser C, Busch V, et al. Neuroplasticity: changes in grey matter induced by training. Nature 2004;427:311e12.
  2. Driemeyer J, Boyke J, Gaser C, et al. Changes in gray matter induced by learningdrevisited. PLoS ONE 2008;3:e2669.
  3. Kloppel S, Mangin JF, Vongerichten A, et al. Nurture versus nature: long-term impact of forced right-handedness on structure of pericentral cortex and basal ganglia. J Neurosci 2010;30:3271e5.
  4. Hanggi J, Koeneke S, Bezzola L, Jancke L. Structural Neuroplasticity in the Sensorimotor Network of Professional Female Ballet Dancers. Human Brain Mapping 2010;31:1196-1206.
  5. Jabusch HC, Vauth H, Altenmu¨ller E. Quantification of focal dystonia in pianists using scale analysis. Mov Disord 2004;19:171e80.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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