医療従事者・研究者用ノート

痛みと小脳

小脳は痛みにも反応することが明らかになっています。しかし、痛み刺激を受けた部位によって小脳の活動部位が異なるのか、また実際の刺激と刺激を予測した場合では小脳の活動に違いはあるのかは明らかではありません。本日は、これらを調べた研究を紹介します。

タイトル:Pain Experience is Somatotopically Organized and Overlaps with Pain Anticipation in the Human Cerebellum.

著者:Michelle Welman F.H.S, Smit AE, Jongen JL, Tibboel D, Geest J, Holstege JC.

雑誌:Cerebellum. 2018;17(4):447-460.

研究の背景

痛みは、皮膚に存在する侵害受容器が興奮することで、そのシグナルが中枢に伝えられる。また、それらは認知的および情動的要素を含む複雑なシステムによって生成される1)

痛み刺激により、皮質および皮質下のさまざまな領域が活動することが明になっており、小脳も痛み刺激により活動することが明らかになっている2,3)

主に痛みに反応する小脳領域として、小脳虫部(小葉Ⅳ、Ⅴ)、同側の小葉(Ⅳ-Ⅵ、第Ⅰ脚)、対側の小葉(Ⅵ、第Ⅰ脚)が関与している。

しかし、痛みの処理における小脳の機能的役割については、ほとんど明らかにされていない。

最も一般的に言われていることは、痛みを感じたときにそれ以上の害から身体を守るために運動出力の調整に関係していることが報告されている4,5)

その他には、痛みの予測6)、痛みの抑制7)、他者からの痛みの知覚8)に関係しているとの報告もある。

これらをまとめると小脳は痛みの知覚には関与していることは明らかであるが、小脳が侵害受容器の信号の処理の調節に関与しているのか、信号に対する運動応答の準備と実行に関与しているかは疑問である。また、痛み刺激を受けた身体の部位によって小脳の活動部位が異なるかは明らかでない。

本研究では、痛み刺激を受けた部位の違いによる小脳の活動部位が異なるかを検証し、さらに痛みを予測した場合の小脳の活動部位を調べた。

方法

・被験者は健常者17名(男性10名、年齢範囲18〜29歳)であった

・MR撮像は、3Tの装置を用いて撮像した。

・痛み刺激は右母指と右足指に交互に5回(刺激時間は10、15、20秒間でランダム)実施した。

・痛みの予測は刺激前に母指または足指のどちらに刺激が来るかを画面に提示した。

結果

図は母指または足指に痛み刺激を受けた場合の小脳の活動領域(A)と母指または足指に痛み刺激を予測した場合の小脳の活動領域(B)を示しています。

母指に対する刺激では、小脳小葉Ⅵ〜Ⅷに活動が認められ、一方で足指は小脳小葉Ⅳ〜Ⅵ、Ⅷに活動が認められた。また、母指と足指のどちらの刺激にも活動する領域は小葉Ⅶで認められた。

次に痛みを予測した場合の小脳の活動は、母指では小脳小葉ⅥおよびⅧで認められたが、足指のみの活動領域は認められなかった。どちらの予測にも活動する領域は小葉Ⅵ、Ⅶで認められた。

まとめ

・本研究は、母指と足指に侵害刺激を与えた場合と刺激を予測した場合で小脳の活動を調べた。

・母指と足指への侵害刺激に対する小脳は異なる領域が活動することが明らかになり、実際の刺激と刺激への予測でも活動部位が異なることが明らかになった。また、母指の痛みの予測では、母指のみに関与した領域の活動が認められたが、足指の痛みの予測のみに関与した領域は認められなかった。

・小脳への痛み情報の入力は、脊髄から直接的および大脳皮質から間接的に入力される9)。脊髄からの直接的な痛み刺激の情報と大脳皮質から間接的に痛みの予測の情報が別々の場所に入力され、それらを統合し感覚運動処理に影響を及ぼしている可能性が示唆される。

参考文献

  1. Tracey I, Mantyh PW. The cerebral signature for pain perception and its modulation. Neuron. 2007;55:377–91.
  2. Saab CY, Willis WD. The cerebellum: organization, functions and its role in nociception. Brain Res Brain Res Rev. 2003;42:85–95.
  3. Moulton EA, Schmahmann JD, Becerra L, Borsook D. The cere- bellum and pain: passive integrator or active participator? Brain Res Rev. 2010;65:14–27.
  4. Wiech K, Seymour B, Kalisch R, Stephan KE, Koltzenburg M, Driver J, et al. Modulation of pain processing in hyperalgesia by cognitive demand. NeuroImage. 2005;27:59–69.
  5. Coombes SA, Misra G. Pain and motor processing in the human cerebellum. Pain. 2016;157:117–27.
  6. Ploghaus A, Tracey I, Clare S, Gati JS, Rawlins JN, Matthews PM. Learning about pain: the neural substrate ofthe prediction error for aversive events. PNAS. 2000;97:9281–6.
  7. Ruscheweyh R, Kuhnel M, Filippopulos F, Blum B, Eggert T, Straube A. Altered experimental pain perception after cerebellar infarction. Pain. 2014;155:1303–12.
  8. Moriguchi Y, Decety J, Ohnishi T, Maeda M, Mori T, Nemoto K, et al. Empathy and judging other’s pain: an fMRI study of alexithymia. Cereb Cortex. 2007;17:2223–34.
  9. Duerden EG, Albanese MC. Localization of pain-related brain ac- tivation: a meta-analysis of neuroimaging data. Hum Brain Mapp. 2013;34:109–49.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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