医療従事者・研究者用ノート

パーキンソン病と鉄沈着

パーキンソン病は振戦優位型、姿勢不安定性・歩行困難優位型、中間型の3種類のサブタイプがあることが明らかになっています。

また、最近の研究では、パーキンソン病における黒質部の局所に鉄濃度が高いことが明らかになっています。

本日は、パーキンソン病のサブタイプ別で鉄沈着の違いを調べた研究を紹介します。

タイトル:Different iron deposition patterns in Parkinson’s disease subtypes: A quantitative susceptibility mapping study.

著者:Chen J, Gai T, Li Y, Chi J, Rong S, He C, et al.

雑誌:Quantitative Imaging in Medicine and Surgery. 2020;10(11):2168-2176.

研究の背景

パーキンソン病は一般的な神経変性疾患であり、安静時振戦、筋固縮、無動、姿勢反射障害などの様々な症状の組み合わせを呈する。

パーキンソン病には、振戦優位型、姿勢不安定性・歩行困難優位型、中間型の3種類のサブタイプがあることが明らかになっている。また、これらのサブタイプは、経過、臨床症状、疾患の進行、治療に対する反応性、予後が異なることがわかっている1,2)。しかし、これらの異なる病態生理は明らかでない。

鉄の過剰の蓄積は、いくつかの神経変性疾患の発症を引き起こすことが示されている。鉄は酸素輸送、ミエリン合成、神経伝達物質合成、代謝などに関与している。そのため、鉄は正常な生理学的脳機能に不可欠である3,4)

しかし、鉄の調節異常は、神経細胞の変性あるいは死を引き起こす可能性がある。例えば、過剰な鉄はドーパミンの酸化を誘発し、それによって毒性のある副産物を形成してしまうことが明らかになっている5)。最近の研究では、パーキンソン病における黒質部の局所的な鉄濃度が健常者の鉄濃度よりも高いことが明らかになってきた6,7)

本研究の目的は、パーキンソン病の振戦優位型と姿勢不安定性・歩行困難優位型のサブタイプで鉄沈着の違いを調べた。

方法

・被験者は46人のパーキンソン病患者と22人の健常者であった。パーキンソン病患者は22人が振戦優位型、19人が姿勢不安定性・歩行困難型、5名が中間型であった。

・MR撮像は3Tの装置を用いて、定量的磁化率マッピング(QSM)という肝臓や脳、特に深部灰白質核の鉄沈着や脱髄を定量化する新しい非侵襲的手法を撮像した。

関心領域は、黒質網様部(SNr)、黒質緻密部(SNc)、尾状核(CN)、淡蒼球(GP)、被殻(PU)、赤核(RN)、小脳歯状核(DN)とした。

結果

図1は振戦優位型、姿勢不安定性・歩行困難型、健常者で各領域の鉄沈着を比較している。

図1

・振戦優位型と姿勢不安定性・歩行困難型は健常者と比較して、黒質網様部で有意に鉄沈着が認められた。

・姿勢不安定性・歩行困難型は健常者と比較して、黒質緻密部で有意に鉄沈着が認められた。一方で振戦優位型とは有意差は認められなかった。

・振戦優位型は姿勢不安定性・歩行困難型と健常者と比較して、小脳歯状核で有意に鉄沈着が認められた。

まとめ

・本研究はパーキンソン病のサブタイプである振戦優位型と姿勢不安定性・歩行困難型に分けて、鉄沈着を定量的に比較した。

・振戦優位型と姿勢不安定性・歩行困難型では、鉄沈着パターンが異なることが明らかになった。振戦優位型では黒質模様部と小脳歯状核、姿勢不安定性・歩行困難型では黒質模様部と緻密部に鉄沈着が多いことが明らかになった。

・これらの所見は、鉄の調節障害がパーキンソン病のサブタイプの病態生理に寄与している可能性が考えられる。

参考文献

  1. Thenganatt MA, Jankovic J. Parkinson disease subtypes. JAMA Neurol 2014;71:499-504.
  2. Kalia LV, Lang AE. Parkinson’s disease. Lancet 2015;386:896-912.
  3. Sian-Hülsmann J, Mandel S, Youdim MB, Riederer P. The relevance of iron in the pathogenesis of Parkinson’s disease. J Neurochem 2011;118:939-57.
  4. Ward RJ, Zucca FA, Duyn JH, Crichton RR, Zecca L. The role of iron in brain ageing and neurodegenerative disorders. Lancet Neurol 2014;13:1045-60.
  5. Hare DJ, Double KL. Iron and dopamine: a toxic couple. Brain 2016;139:1026-35.
  6. Ghassaban K, He N, Sethi SK, Huang P, Chen S, Yan F, Haacke EM. Regional High Iron in the Substantia Nigra Differentiates Parkinson’s Disease Patients From Healthy Controls. Front Aging Neurosci 2019;11:106.
  7. Chen Q, Chen Y, Zhang Y, Wang F, Yu H, Zhang C, Jiang Z, Luo W. Iron deposition in Parkinson’s disease by quantitative susceptibility mapping. BMC Neurosci 2019;20:23.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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