医療従事者・研究者用ノート

リハビリテーションと脳内ネットワークの変化

最近の研究では、複数のネットワーク間の相互作用が運動機能および認知機能に関係していると報告されています。しかし、リハビリテーションによってこれらのネットワーク間の相互作用がどう変化するのか、また運動機能との関係性は明らかではありません。

本日は、脳内ネットワークがリハビリテーション過程でどう変化するのか、またこれらのネットワーク間の変化および運動機能との関係性について調べた研究を紹介します。

タイトル:Synchrony Between Default-Mode and Sensorimotor Networks Facilitates Motor Function in Stroke Rehabilitation: A Pilot fMRI Study.

著者:Wu CW, Lin Shang-Hua N, Hsu LM, Yeh SC, Guu SF, Lee SH, Chen CC.

雑誌:Frontiers in Neuroscience. 2020;14:1-11.

研究の背景

注意や記憶、言語、社会性などといった認知機能は1つの領域が関与しているのではなく複数の領域が関与するネットワークが関与することがさまざまな研究から明らかになってきている。

例えば、デフォルトモードネットワークや前頭-頭頂ネットワークは認知機能やその障害と関連していることが報告されており1,2,3)、脳卒中後の前頭-頭頂ネットワークの障害は注意欠損に関連していることが示されている4)

また、安静時機能的結合の縦断的研究では、脳卒中後のネットワークの回復に着目した研究がいくつかある。例えば、Miaoら5)の左右半球間の感覚-運動ネットワークの回復について調べた研究やParkら6)のデフォルトモードネットワークの接続性の回復について調べた研究では、脳卒中後3ヶ月で回復することを明らかにしている。

しかし、これらの研究では1つのネットワークに着目して調査している。最近の研究では、複数のネットワーク間の相互作用が運動機能や認知機能に重要であるという報告があり7,8)、特に感覚-運動ネットワーク、デフォルトモードネットワーク、前頭-頭頂ネットワーク間の接続性は脳卒中リハビリテーション過程における運動機能の回復の寄与に重要であることが考えられる。

そのため、本研究の目的はこれら3つのネットワークがリハビリテーション過程でどう変化するのか、またこれらのネットワーク間の変化および運動評価との関係性について調べた。

方法

・被験者は12名の慢性脳卒中患者と年齢を一致させた健常者12名であった。

・評価はリハビリテーション前(Pre)と後 (Post)、1ヶ月後 (Follow)の3回行った。

・すべての脳卒中患者が合計で24時間のリハビリテーションを受けた。またリハビリ内容は個々の患者の状態に合わせて施行した。

・運動評価はFugl-Meyer評価(FMA)、Wolf Motor Function Test (WMFT)、高齢者向け上肢パフォーマンステスト(TEMPA)を行った。

・MR撮像は3Tの装置を用いて、安静時と運動課題時を撮像した。運動課題は、把持課題を行った。

結果

・図1は3つの運動評価を示している。

図1

FMAはPreと比較して、Post、Followで点数が有意に増加していた。また、TEMPAはPreと比較して、Postで点数が有意に増加していた。

・図2は把持課題中の脳活動と安静時脳活動を示している。

図2

把握課題中の脳活動(図2A:麻痺側、図2B:非麻痺側)はPreでは補足運動野領域にのみ活動が認められたが、PostとFollowでは運動野と補足運動野領域に集中して活動が認められた。

図2C-Eは感覚-運動ネットワーク(C)、デフォルトモードネットワーク(D)、前頭-頭頂ネットワーク(E)のネットワーク内の機能的結合を示している。特に感覚-運動ネットワークでは、Preは片側性の活動が認められたが、PostとFollowでは両側性の活動が認められた。

・図3はネットワーク間の機能的結合の変化を示している。

図3

A:両側運動野間のネットワーク、B:後部帯状皮質と損傷半球の運動野間のネットワーク、C:後部帯状皮質と補足運動野間のネットワーク、D:後部帯状皮質と非損傷半球の運動野間のネットワークを示している。

Bの後部帯状皮質と損傷半球の運動野間のネットワークはPreと比較してFollowで有意に機能的結合が増加していた。Cの後部帯状皮質と補足運動野間のネットワークとDの後部帯状皮質と非損傷半球の運動野間のネットワークはPreと比較してPost とFollowで有意に機能的結合が増加していた。

・図4は麻痺側での把握課題時の脳活動の大きさ(β)とFMAスコア(図4A)、機能的結合とFMAスコア(図4B)を示している。

図4

どちらも有意な正の相関が認められた。

・図5は図3のネットワーク間の機能的結合の強さ(Zスコア)とFMAの関係性を示している。

図5

Aの両側運動野間のネットワークとFMAはどの時点も有意な相関を示さなかった。Bの後部帯状皮質と損傷半球の運動野間のネットワークとCの後部帯状皮質と補足運動野間のネットワークとFMAはPostとFollowの時点で有意な正の相関を示した。Dの後部帯状皮質と非損傷半球の運動野間のネットワークとFMAはFollowの時点のみ有意な正の相関を示した。

まとめ

・ネットワーク間の相互作用は脳卒中リハビリテーション後の運動機能の回復に寄与することが明らかになった。また、リハビリテーション前はネットワーク間の相互作用も低下していることが明らかになった。

・これらの結果から、ネットワーク間の相互作用を評価することは今後の介入評価のための神経リハビリテーションのバイオマーカーとして有用であることが示唆された。

参考文献

  1. Carter, A. R., Astafiev, S. V., Lang, C. E., Connor, L. T., Rengachary, J., Strube, M. J., et al. (2010). Resting interhemispheric functional magnetic resonance imaging connectivity predicts performance after stroke. Ann. Neurol. 67, 365–375.
  2. van Meer, M. P. A., van der Marel, K., Wang, K., Otte, W. M., Ei Bouazati, S., Roeling, T. A. P., et al. (2010). Recovery of sensorimotor function after experimental stroke correlates with restoration of resting-state interhemispheric functional connectivity. J. Neurosci. 30, 3964–3972.
  3. Zhang, Y., Liu, H., Wang, L., Yang, J., Yan, R., Zhang, J., et al. (2016). Relationship between functional connectivity and motor function assessment in stroke patients with hemiplegia: a resting-state functional MRI study. Neuroradiology 58, 503–511.
  4. Bajaj, S., Butler, A. J., Drake, D., and Dhamala, M. (2015). Functional organization and restoration of the brain motor-execution network after stroke and rehabilitation. Front. Hum. Neurosci. 9:173.
  5. van Meer, M. P. A., Otte, W. M., van der Marel, K., Nijboer, C. H., Kavelaars, A., van der Sprenkel, J. W. B., et al. (2012). Extent of bilateral neuronal network reorganization and functional recovery in relation to stroke severity. J. Neurosci. 32, 4495–4507.
  6. Park, J.-Y., Kim, Y.-H., Chang, W. H., Park, C.-H., Shin, Y.-I., Kim, S. T., et al. (2014). Significance of longitudinal changes in the default-mode network for cognitive recovery after stroke. Eur. J. Neurosci. 40, 2715–2722.
  7. Wang, C., Qin, W., Zhang, J., Tian, T., Li, Y., Meng, L., et al. (2014). Altered functional organization within and between resting-state networks in chronic subcortical infarction. J. Cereb. Blood Flow Metab. 34, 597–605.
  8. Lam, T. K., Dawson, D. R., Honjo, K., Ross, B., Binns, M. A., Stuss, D. T., et al. (2018). Neural coupling between contralesional motor and frontoparietal networks correlates with motor ability in individuals with chronic stroke. J. Neurol. Sci. 384, 21–29.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です