
感情が相手に伝わる神経メカニズム
私たちは、相手が喜んでいる、怒っているなどの感情を感じることができます。つまり、相手の喜怒哀楽を読み取ることできます。
本日は相手の感情を感じているときは相手の脳活動と自分の脳活動が同期している(同じ領域が活動している)ことを明らかにした論文を紹介します。
タイトル:Emotions amplify speaker–listener neural alignment.
著者:Smirnov D, Saarimaki H, Glerean E, Hari R, Sams M, Nummenmaa L.
雑誌:Human Brain Mapping. 2019;40(16):4777-4788.
研究の背景
人間はお互いの感情を受け取ることができます。例えば、嬉しそうに笑っている赤ちゃんを見ると思わず笑顔になり、友人から悲しいお話を聞くと悲しい気持ちになります。感情の伝染は言語的および非言語的な合図を介してある個人から別の個人へと伝わります。これは「ミラーリング」と呼ばれています1,2)。
これらミラーリングの研究は痛み3)、喜び4)、嫌悪感5)などの感情の観察および経験中に脳活動を測定して明らかにされてきました。
しかし、感情がある個人から別の個人へどのように伝染するのかその神経メカニズムは明らかではありません。
本研究の目的は、感情が話し手と聞き手の脳活動の同期にどのように反映されるのかを明らかにすることです。
方法
・被験者は健常成人18名(全員女性、年齢20-38歳)であった。
・18名のうち2名は話し手、16名は聞き手に分類された。
・話し手は感情的な話と中立的な話の2つの話し、聞き手はその話を聞きながらfMRIを撮像した。
・その後、話し手と聞き手はその話の感情的な評価(快-不快)と興奮度(興奮の有無)を評価した。
結果
・図1は感情的な話をしているときの話し手と聞き手の脳活動が類似している領域を示しています。

その結果、左下前頭回(IFG)、左側頭極(Temporal pole)、両側聴覚野(Auditory cortex)、右角回(AG)、左視覚野(V2-4)で有意な同期が観察された。
まとめ
・本研究の目的は、感情が話し手と聞き手の脳活動の同期にどのように反映されるのかを明らかにすることでした。
・結果は、話をしている(聞いている)ときに注意、聴覚、体性感覚、運動処理に関連した脳領域が話し手と聞き手で同期(同じように活動)していることが明らかになりました。
・感情に依存した話をしている話し手と聞き手の神経同期が感情の伝染と関連していることを示唆し、聞き手が話し手の感情状態の一部を神経レベルで再現していることを示唆しています。
参考文献
- Gallese, V. (2003). The roots of empathy: The shared manifold hypothesis and the neural basis of intersubjectivity. Psychopathology, 36(4), 171–180.
- Manninen, S., Tuominen, L., Dunbar, R. I. M., Karjalainen, T., Hirvonen, J., Arponen, E., Nummenmaa, L. (2017). Social laughter triggers endogenous opioid release in humans. The Journal of Neuroscience, 37, 6125–6131.
- Saarela, M., Hlushchuk, Y., Williams, A., Schürmann, M., Kalso, E., & Hari, R. (2007). The compassionate brain: Humans detect intensity of pain from another’s face. Cerebral Cortex, 17(1), 230–237.
- Jabbi, M., Swart, M., & Keysers, C. (2007). Empathy for positive and negative emotions in the gustatory cortex. NeuroImage, 34(4), 1744–1753.
- Wicker, B., Keysers, C., Plailly, J., Royet, J., Gallese, V., & Rizzolatti, G. (2003). Both of us disgusted in my insula: The common neural basis of seeing and feeling disgust. Neuron, 40(3), 655–664.