
裕福な親は息子に投資?? 貧しい親は娘に投資??
本日は、1973年に生物学者のトリヴァースとコンピューター科学者のウィラードが発表したトリヴァース=ウィラード仮説について説明したいと思います。
簡単に言うと、裕福な親は息子に投資し、貧しい親は娘に投資する傾向があるという仮説です。
この仮説を進化心理学的視点から説明したいと思います。
現在、この仮説が正しいと発表している論文もあれば、人種や環境によって異なってくるという論文があり、この仮説が「正しい」、「間違っている」または「裕福だから良い」、「貧しいから悪い」ということではなく、1つの仮説ということを念頭に置いて以下をお読み下さい。
タイトル:Natural Selection of Parental Ability to Vary the Sex Ration of Offspring, and Postscript. In “Natural Selection and Social Theory: Selected Papers of Robert Trivers.”
著者:Trivers RI and Willard DE.
雑誌:Oxford University Press. 2002.
トリヴァース=ウィラード仮説
この仮説は、経済的に裕福な親は息子に投資する傾向があり、逆に経済的に貧しい親は娘に投資する傾向があるという仮説です。
では、なぜこのような仮説があるのか?
この仮説を進化心理学の視点から説明します。
まず、私たちの祖先は進化の歴史から一夫多妻制であったことを前提としています。
そして、全ての動物は自分の遺伝子を後世に残すために異姓(雄雌)に接触し、生殖行動をするという前提のもと、生殖行動を決定するのは女性(雌)です。
では、その女性(雌)はどのような男性(雄)を選ぶのか?
それは、自分及びその子供に投資してくれる裕福で社会的地位が高い男性(動物であれば強くて獲物を捕らえる能力がある雄)を選ぶ傾向があることがいくつかの論文からわかっています。
そして、一般的には子供はある程度、親の経済的影響を受け継ぐことがわかっています。
つまり、イケメンは3日で飽きると言いますが、女性はイケメンではなく、自分とその子供に投資してくれる男性を好きになるということになります。
また、男性は基本的に年齢に関係なく、子孫を残すことが可能ですが、女性は子孫を残せる数がある程度は決まっています。
これらのことから、裕福な親は息子に投資した方が多くの女性と関係を持つことができ(もう一度言いますが一夫多妻制を前提としています)、子孫を残してくれる可能性があることから息子に投資する。
一方で貧しい親は息子に投資しても上記で述べた女性がどのような男性を選択するかの理由により女性に選ばれる可能性は低くなる。そのため、少しでも自分の遺伝子を後世に残してもらうように娘に投資する傾向があるということがこのトリヴァース=ウィラード仮説になります。
上記は一夫多妻を前提として述べていますが、一夫一妻の現代でもトリヴァース=ウィラード仮説の傾向があることを示している論文があるので、その論文を簡単に説明したいと思います。
タイトル:Spending patterns of Chinese parents on children’s backpacks support the Trivers-Willard hypothesis: Results based on transaction data from China’s largest online retailer.
著者:Song Shige
雑誌:Evolution and Human Behavior. 2018;39(3):336-342.
この研究では、2015年に中国で学生用リュックサックを用いて青色のリュックサックとピンク色のリュックサックの売れ行き(金額)を調べ、各家庭の家族構成(男児と女児の人数)と経済状況を調べました。
結果は、裕福な世帯ほど青色のリュックサックを購入することが明らかになりました。一方で、貧しい世帯は青よりもピンクのリュックサックを購入していることが明らかになりました。
つまり、裕福な世帯は息子への投資の方が大きく、貧しい世帯は娘への投資が大きいことを示唆しており、トリヴァース=ウィラード仮説と一致している結果になりました。
ただ、この実験から裕福な世帯も貧しい世帯も息子と娘どちらにも同じだけ投資している世帯もあることが明らかになってきました。
これらのことから、現代社会においてもトリヴァース=ウィラード仮説の傾向は存在するが、裕福だから息子に投資、貧しいから娘に投資という二極性ではなく、どちらにも偏りなく投資する中間層の家庭があることも明らかになっています。