
やる気を低下させる原因と脳活動
子供が勉強のやる気がない、職場で部下が仕事に対するやる気がないなど経験したことがあるかと思います。その要因は様々ですが、その原因の1つにアンダーマイニング効果があります。
本日は、アンダーマイニング効果とは何かを簡単に説明しつつ、その時の脳活動を調べた研究を紹介します。
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タイトル:Neural basis of the undermining effect of monetary reward on intrinsic motivation.
著者:Murayama K, Matsumoto M, Izuma K and Matsumoto K.
雑誌:PNAS. 2010;107(49):20911-20916.
研究の背景
学校や職場など成果に基づく報酬は学生や労働者のモチベーション(やる気)を向上させる効果的な方法であると考えられているかもしれません。例えば、子供に学校の成績がよかったからゲームを買ってあげる。労働者に対して、業績が良かったからボーナスを与えるなどの「○○したから、××を与える」が広く浸透しています。
しかし、これらの報酬(外発的動機づけ)は課題自体(勉強や業績)から得られる喜びや満足感などの内発的動機づけを損なう可能性があることが明らかになっています1,2)。これは「アンダーマイニング効果」と呼ばれています。
つまり、自分から何かをしたい(成績を上げたいから勉強をする、業績をあげたい)という自分の内から出てくるやる気が、お金などの報酬によって報酬をもらうことが目的で勉強をする、業績を上げることに移行していくため徐々にやる気が低下していく心理現象です。
しかし、アンダーマイニング効果の神経機構については明らかでないことが多い。
本研究の目的は、金銭報酬を貰う前後で課題中の脳活動がどのように変化するのかを調べました。
方法
・被験者は大学生男女28名(男性10名、平均年齢20.6±1.1歳)でした。
・被験者を課題の成績に応じて金銭報酬が貰える群(報酬群)と報酬を与えない群(コントロール群)の2群に分けました。
・課題は、自発的に楽しむことができる課題(図1上)とそうでない課題(図1下)を行ってもらってもらいました。また、課題中の脳活動をMRIを用いて撮像しました。

結果
・図2は課題中の脳活動を示しており、上がコントロール群、下が報酬群です。

Session1(報酬群に報酬を与える前)では、両群ともに課題を行っている時に大脳基底核(線条体)の活動が認められました。また、前頭葉の活動も認められました(図なし、論文にはあり)。しかし、Session2(報酬群に報酬を与えた後)では、報酬群で前頭葉と線条体の活動が有意に低下しました。
まとめ
・本研究は、アンダーマイニング効果の脳活動を調べました。
・報酬を与えられた群では、自らやりたいという内発的動機が低下し(アンダーマイニング効果が起こり)、前頭葉と大脳基底核の線条体の脳活動が低下しました。
・これらの結果から、皮質-大脳基底核の評価システムが内発的報酬価値と内発的課題価値の統合に関与しており、アンダーマイニング効果に関与していることが示唆されました。
・次回は、このアンダーマイニング効果を起こさないための対策について書きたいと思います。
参考文献
- Ryan RM, Mims V, Koestner R (1983) Relation of reward contingency and interpersonal context to intrinsic motivation: A review and test using cognitive evaluation theory. J Pers Soc Psychol 45:736–750.
- Deci EL, Koestner R, Ryan RM (1999) A meta-analytic review of experiments examin- ing the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychol Bull 125:627–668, discussion 692–700.